それでこそ天道なり!の巻!
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(何もわからぬ事が恐ろしい……)
チョウガイは夜空を見上げた。
三千大千世界の一つである海ばかりの惑星は、地球とよく似ていた。
(真実とは何だ?)
チョウガイは自問する。
彼を半神半人の「百八の魔星の守護神」にしたのは、九天の女神である。
この宇宙を創造したのは「十二星座の女神」と「蛇使い座の女神」だという。
帝都を治める天帝の上には、天母なる女神がいる。
その女神たちの関係や序列は不明だ。あるいは同一であり、あるいは全く別の存在なのだろうか。
そして秩序と混沌は同じ存在だと、天母はチョウガイとゴヨウに告げていた。
その真意とは? いくら考えても答えは出ない。だからこそ、チョウガイは恐ろしいのだ。
(この宇宙を真に創造したのは…… 如何なる存在なのだ!?)
チョウガイは夜空を見上げ、黄金の剣の柄を握りしめた。この黄金の剣は、不動明王の持つ降魔の利剣に等しい。
それをなぜチョウガイが持つに到ったのか、それすらも神の見えざる手による導きではないのか。
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天の機を知る宿星、天機星「知多星」ゴヨウは悪夢にうなされていた。
昨年の混沌との戦い、いや病魔の侵食を防ぐ戦いの中で、百八の魔星は三分の一以下にまで数を減らしてしまった。
混沌の波動を受けた者は魔の尖兵と化し、世界中で破壊活動を開始した。
それを討ち、人々の平和のために戦った百八の魔星は、救いのない悲劇に見舞われたのだ。
(リッキー、コーエン……)
ゴヨウが姉のように慕った二人も死んだ。
百八の魔星の首領ショウコは、あまりにも辛く悲しかったのだろう。彼女は百八の魔星として過ごした全ての時間と記憶を失くしてしまった。
今、ショウコは一人の女性として帝都で暮らしている……
(俺は…… 俺はお前が許せねえ!!)
ゴヨウは怒りを爆発させた。
それは人心を不安と恐怖、更に欲望で狂わせて、世界中を大破壊に導いた混沌に対してだった。
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「うわあああ!!」
ゴヨウは「真ブッダーロボ」のコックピットで絶叫する。
百八の魔星が所有する黄巾力士の中で、最強の機体の一つである真ブッダーロボ。
それを駆り、ゴヨウは宇宙を突き進んだ。
音速を超え、光速を超え――
宇宙の彼方、十億の星の先に待つ混沌へと、ゴヨウは真ブッダーロボを翔ばした。
ゴヨウの脳裏にはリッキーとコーエンのみならず、世界を襲った大破壊の光景が思い浮かんだ。
女子供までもが巻き込まれた大破壊であった。
たとえ、それが救いに到る悲しみであろうとも、
「死ぬのは男だけでいいんだよぉー!!」
ゴヨウの眼前、コックピット内のスクリーンに巨大な姿が映し出された。
宇宙の闇に浮かび上がる巨大な人影こそ、ゴヨウの目指す敵――
混沌であった。
「お前のせいで……!!」
ゴヨウはコントロールレバーを引き絞った。
真ブッダーロボは光に包まれ、混沌へと特攻する。
「命をもてあそぶんじゃねえええ!!」
ゴヨウは真ブッダーロボごと混沌へと突っ込んだ。
真ブッダーロボの装甲は瞬時に蒸発し、ゴヨウの肉体も溶け崩れていく。
(何が宇宙の真理だ、そんなもの……!!)
肉体も内臓も失ったゴヨウは、もはや骨だけである。
一秒にも満たぬ刹那の一瞬に、ゴヨウは苦しみを体感し――
そして、リッキーとコーエンの魂の存在を感じた。
――ゴヨウ!!
――ば、バカヤロウ、自分のこと考えろー!!
泣き叫ぶコーエンとリッキーが、ゴヨウへ手を差しのべた。
ゴヨウの骨しか残っていない右手が伸びた。コーエンとリッキーの手が、その手を握った。
が、触れたのも一瞬だ。
ゴヨウは二人の手を払いのけた。
――ごめんよ、俺はまだやることがある……
その瞬間、彼の魂は現世へと戻った。
ゴヨウの魂は、虚無の中からよみがえったのだ。
そしてゴヨウの魂は、男とも女ともつかぬ美しい意思を感じた。
“――それでこそ天道なり”
果たして何者の意思だったのか。
十二星座の女神でも、蛇使い座の女神でもない。
天帝の母たる天母様でもない。
帝都の聖母様でも、鬼子母神様でもない。
(誰…… だ……)
ゴヨウには意思の正体はわからなかった。
あるいは(信じがたい事だが)、混沌の意思であったかもしれない。
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「――起きろゴヨウ、敵が来るぞ!!」
チョウガイの声にゴヨウが気づけば、彼は超時空要塞「梁山泊」の司令室にいた。
スクリーンに映し出される異形の巨体――
海面から姿を現したのは、体長十キロにも及ぶ超巨大イカだった。
おそらく、この海ばかりの惑星においても最大級の生命体であろう。
全長一キロを超える「梁山泊」ですらが小舟のように頼りなく思われた。
「ゴヨウ、出撃だ!! ブッダーの力を信じるのだ!!」
「はい!!」
チョウガイの命を受け、ゴヨウは真ブッダーロボで出撃する。
超巨大イカ「クラーケン」の触手が梁山泊へ襲いかかった。
果てしなき大海原で戦いは続く――




