堕ちた白衣の天使!の巻!②
なんという事だ、帝都で評判のフランケン・ナースがーー
優しく慈愛に満ちた笑みを浮かべていたゾフィーが、黒いナース服に象徴されるブラックに転じてしまうとは。
「お嬢様が悪いんですよ……」
ゾフィーの冷ややかな視線がローレンを刺した。ペネロープはシリアスな展開に辟易して、軽く体操を始めていた。妖艶な美人なのに残念だ。
“お嬢様、今日はシーフードカレーにしますね~”
“えー、今日はビーフカレーな気分だから変更して~”
“…………はい”
二人の主従は、先日そんな会話をした。たったそれだけの事で、主従の仲にヒビが入るとは。
「だって、ビーフカレーが食べたかったんだもん」
ローレンは悪びれた様子もない。
「具材とか買ってきてたんですよ!」
ゾフィーは悪堕ちから一転、ナース服も純白に変えてローレンに抗議した。
「いいじゃない、あとでシーフードパスタにしたんだし」
「……きいいいい!」
ローレンの悪びれぬ言い方に、ゾフィーは頭部に生えた左右一対の電極を激しく点滅させた。
彼女がこんなに感情を乱されているのは、初めてだ。
「もう、そんな事で悪堕ちしちゃったの?」
「お嬢様はもう少し他人の感情の機微を考えてください!」
「そんな事…… ゾフィーの料理は何でも美味しいわよ」
「くはああああ!」
ローレンとゾフィーの会話は噛み合わぬ。噛み合わぬながら、どこかで情が通じている。
これは主従によるガス抜きの一端ではなかろうか。ペネロープは苦笑した。
「あのー、すいません! 写真撮らせてください!」
混沌の尖兵から、勇気ある人狼がローレンとゾフィーに声をかけた。
なにしろゾフィーの人気はただ事ではない。
ローレンを守って死んだ後、一度はゾンビ・ナースとして復活したゾフィー。
その後はフランケン・ナースとして再復活。百七十二センチの長身に、土気色の肌には無数の縫合痕が刻まれーー
頭部には左右一対の電極を生やし、ナース服に身を包んだゾフィーは、癒しの笑顔と魅惑のバストを誇る美女だった。
男ならば、彼女に接しただけで心がほんわかしてしまうのだーー
「ずるいぞ、お前! 俺も写真を!」
「い、一緒に写ってくれませんか!」
「レディー・ハロウィーン様も一緒でかまいません!」
こうして混沌の城には安らぎが満ちた。フランケン・ナースは虚無の中からよみがえった。
「はい、ちーずう~」
ペネロープは面白くなさげに撮影係に選ばれ、渡されたスマホで何枚も記念撮影するのでした。めでたし、めでたし。




