表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/94

行こうぜ地獄へ……!の巻!2


   **


 聖母様によって異世界転移した十兵衛は、地獄でーー


 クラーンシティで戦い続けていた。


 不気味な洋館を探索していた十兵衛は、倉庫とおぼしき場所で巨大なヘビと遭遇した。


 それは悪魔のウィルスによって産まれたバイオモンスター、アナコンダ・ゾンビであった。


 人間をまとめて数人丸呑み可能な巨体に加えて、受けた傷を瞬く間に修復する生命力……


 その恐るべき怪物を前に、十兵衛はショットガンを構えたがーー


「いや、ちょっと待て」


 十兵衛はステータス画面を開いた。そして装備品を「ショットガン」から「大小二刀」に変更した。


「ああ、そうだ、これだ!」


 十兵衛は左手に脇差しを、右手に名刀・三池典太を握ってアナコンダ・ゾンビの前に立った。


 ショットガンの方がはるかに有用な武器であろう。だが十兵衛が幼少より学んできたのは兵法だ。


 己が最も慣れ親しんだものこそ、未来を切り拓く武器になるかもしれない。


 あるいは、死を覚悟した十兵衛だからこそ、死ぬのならば銃ではなく剣を手にして死にたかったかーー


 アナコンダ・ゾンビが巨大な口を開いて十兵衛を丸呑みにせんと襲いかかる。


 十兵衛はそれを避け、左手の脇差しで斬りつけた。


「デヤアー!」


 更に踏みこみ、脇差しでアナコンダ・ゾンビを突く。アナコンダ・ゾンビの体表の感触は分厚いタイヤに似ていた。


「トォッー!」


 十兵衛は半歩進んで、右手の三池典太でアナコンダ・ゾンビに斬りつけた。


 現代では国宝級の名刀として知られる三池典太。


 その研ぎ澄まされた刃は、アナコンダ・ゾンビの体表を長く深く切り裂いた。アナコンダ・ゾンビが苦悶にうめく。


 二刀流の技は宮本武蔵以来、完成させた者はいないと言われている。


 また宮本武蔵は書や絵画の鑑定から、左利きである事がわかっている。


 利き手の左手に握った脇差しで素早く攻めこんで敵を翻弄ほんろうし、右手の大刀を上段から打ちこんで止めを刺す……


 奇しくも今の十兵衛と同じであった。十兵衛も左利きだ。彼は左手の脇差しで巧みにアナコンダ・ゾンビに斬りこみ、つけいる隙を与えなかった。


「ぬおおお!」


 そして閃いた右手の三池典太の一閃。


 片手で大きく振り抜いた一刀は、アナコンダ・ゾンビの体表を深く斬り裂いた。


 アナコンダ・ゾンビの動きが止まったーー


「ウリヤアアア!」


 十兵衛は発狂したかのように雄叫びを上げた。脇差しを手離し、両手で三池典太を握ると、アナコンダ・ゾンビへ刃を打ちこんだ。


 一度ではない。二度、三度、四度……


 アナコンダ・ゾンビは首を切り離されてようやく活動を停止した。返り血に濡れた十兵衛は肩で息をしていた。


「やったぞ、俺はやったぞー!」


 勝利の歓喜に震える十兵衛。


 返り血に全身を濡らしていた十兵衛は美しかった。


 十兵衛の魂は全身全霊を振り絞り、やり遂げた満足に満たされていた。


 彼の顔は、誰が見ても明るく輝いていた……


「これで死ねる…………」


 十兵衛の心には深い安らぎが訪れた。


 先師上泉信綱より伝えられ、祖父石舟斎、父の宗矩から受け継いだ兵法を以て怪物を仕留めた。


 十兵衛が受け継いだ兵法は、弟の左門と宗冬にも伝えられている。


 過去から現在、そして未来へ受け継がれるもの。人はそれを「永遠の形」と称するのだろう。


 体感した「永遠の形」に十兵衛は安らぎを得て、その命を終えようとーー


「まだでしょー!」


 ヒステリックな女性の金切り声に振り返れば、そこには十兵衛の同志たるイルがいた。


 イルは十兵衛と同じく「ウターズ」の隊員であり、地獄を救うために戦っているのだ。


「まだ半分よ、半分!」


 イルと同じく激高しているのは、クラーンシティへ兄を探しにやってきて災禍に巻きこまれたフレアという少女だった。


「さあ、この地獄から抜け出すわよ!」


 イルとフレアの女力パワーに引きずられて、十兵衛はワタワタしながら戦った。


 研究所に徘徊するゾンビへ、イルはグレネードランチャーを発射して吹っ飛ばした。


 ゾンビ犬へはフレアがボウガンを連射して、息の根を止めた。


「十兵衛、びーけあふぉー!」


 笑顔のまぶしいウターズ隊員のチェンバース。戦闘は苦手だが、チェンバースの笑顔で十兵衛の体力は回復した。


「十兵衛、しっかりするのよ!」


 謎の美女アイダもマシンガンでバイオモンスター「狩人」を攻撃しながら十兵衛を叱咤する。


「こっちに抜け道があるよ!」


 まだ十二歳の少女ケリーは非戦闘員だが、知恵と勇気で皆をサポートする。


「ありがとうな、ケリー」


 十兵衛はケリーの頭を愛しそうに撫でてやった。ケリーは気恥ずかしそうにうつむいていた。


「全くもー、十兵衛には私みたいな良いお嫁さんが必要だよね!」


「え、それってどういう意」


「そこおー! 何をラブコメってんのよー!」


 十兵衛とケリーへ、ツッコミを入れるのはイルだった。彼女はバイオモンスター「追撃者」のロケットランチャーで吹っ飛ばされたが、まだ生きていた。


 衣服も破れておらず、体力を半分失っただけであった。なんという女力パワーだ、イル。


 いよいよ戦いも大詰めであった。


 ラスボスの「追撃者」は大ダメージを受けながら、尚も進化していた。


 四足歩行の巨大なライオンのような姿へ転じた「追撃者」は、咆哮をあげて、十兵衛らに最後の戦いを挑む。


「ここは俺が食い止める!」


 十兵衛は二刀を手にして「追撃者」へ斬りかかった。


 研究所は自爆装置が作動しており、あと数分で爆発を起こす。


 ケリーの発見したヘリコプター発着所への道、チェンバースによるコンピューター暗号解析ーー


 アイダのもたらした情報、そしてイルとフレアの奮戦によって、彼らはここまで到達できた。


「ああ、そうか」


 十兵衛は苦笑した。彼には宇宙の真理が一瞬、垣間見えた気がしたのだ。


 男の仕事は、命を守ること。


 そして命を繋いでいく女性そのものが、「永遠の形」なのだ……


 十兵衛が二刀で「追撃者」に斬りこんだ。


 「追撃者」は巨体に似合わぬ跳躍力で、刃を避けた。


 ケリーは十兵衛の戦いを見守るのみだ。チェンバースはヘリコプターを起動させようとしている。


 イルとフレア、そしてアイダも「追撃者」との戦いに加わり、手にした火器を発砲するが、こたえた様子もない。


「ウリヤアアア!」


 十兵衛が打ちこんだ一刀が「追撃者」の顔面を斬り裂いた。


 脳にまで達する致命の一撃だが、それでも「追撃者」を絶命させるに到らない。





 研究所爆発まで、あと五分ーー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ