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三千大千世界の戦い!の巻!(後編)

 格納庫に到着したゴヨウはウィンド・キャリバーの前に立った。


 一見すると鳥に似た型の黄巾力士ロボットだ。そのコックピットへとゴヨウは乗り込んだ。


 キャノピーが閉じる直前、小さな妖精がコックピットへ入ってきた。


「私も行くよ!」


 その妖精はハードゥだった。精神生命体であるハードゥは、いくらでも姿を変えられるのだ。


「よし、行くぞ!」


 ゴヨウは自身の肩にハードゥを腰かけさせると、ウィンド・キャリバーを起動させた。


   **


 梁山泊の主砲を受けても、巨大亀は応えた様子もなかった。


 全長十kmにも及びそうな巨大亀は、その巨体に見合った食事を欲求する事だろう。


 超時空要塞「梁山泊」すら、巨大亀は補食しようとしていたのだ。


 この海ばかりの惑星に生命反応が少ないのは、巨大亀が食い散らかしてしまったからではないか。


「はあああ!」


 梁山泊の甲板に出たチョウガイは、手にした黄金の剣を振るった。


 ーードオオオオン……!


 生じた閃光が大海を引き裂き、巨大亀をも襲った。


 だが、それだけであった。チョウガイは舌打ちする。彼の持つ黄金の剣は、不動明王の降魔の利剣に等しきものだ。


 様々な仏敵、妖魔を降伏ごうぶくさせる黄金の剣も、巨大亀には効果は薄かった。


 生じた衝撃は空を引き裂き、大地を割るほどの一撃だったが、この巨大亀にはさほど効いた様子もない。


「く!」


 チョウガイの凛々しい顔は冷や汗に濡れていた。帝都や混沌カオスの空間内では、ほとんど無敵だったチョウガイだが、彼の能力も単純な力にーー


 超弩級の巨大生命体には通じなかった。


 その時だ、滑走路から一体の黄巾力士ロボットが疾風のように飛び立ったのはーー


「ーーゴヨウ、頼むぞ!」


 チョウガイは青空に飛び立った黄巾力士ロボットを見つめて叫んだ。


 巨大亀は黄金の剣の光によって、一時的に視力を封じられて雄叫びを上げている。


   **


「これが蛇使い座の女神からの……!」


  黄巾力士ロボットのコックピットでゴヨウはうめく。音速を突き破る圧倒的な加速とG。


 この爽快にして痛快な加速は、天暗星「青面獣」ヨウジの愛機「エクスカリバー」に勝るとも劣らない。


「うおおお!」


 ゴヨウはレバーを引いた。途端にウィンド・キャリバーは形を変える。


 鳥型から人型へと瞬時に変形したウィンド・キャリバーを駆るゴヨウ。


 はるか高みの青き空を、ウィンドキャリバーは尚も音速に近い速さで突き抜けていく。


「やるぞおお!」


 ゴヨウはウィンドキャリバーを旋回させ、巨大亀目指して海面すれすれに突き進んだ。


「いっけえええええ!」


 ハードゥのテンションもマックスだ。耳元で叫ぶのでゴヨウの鼓膜も破れんばかりだ。


 ウィンド・キャリバーの背中にある二門のオーラキャノンが火を吹いた。


 閃光が直撃したが、巨大亀にはまるで効いていない。


 生じた爆風に隠れ、ウィンド・キャリバーは垂直に上昇していく。


 数千メートルの高みへ到着したウィンド・キャリバーは、昆虫に似た翼を羽ばたかせ、背に装着された鞘から剣を抜いた。


 刃からは凄まじい光がほとばしったーー


「俺は人を殺さない! 人の怨念を殺す!」


 ウィンド・キャリバーは剣を突き出した体勢で、巨大亀へと垂直降下した。


「おお!」


 梁山泊の甲板に立つチョウガイには、天地を貫く光の柱が見えた。


 次いで生じた轟音、巨大亀の断末魔の悲鳴が青空にこだまする。


   **


(やったぞ、俺はやったぞおー!)


 巨大亀をウィンド・キャリバーで葬ったゴヨウは、全身全霊を振り絞った反動で、意識が途切れそうであった。


「やった、やったよ、ゴヨウ!」


 耳元で叫ぶ妖精型のハードゥへ、疲れきった笑みを返すゴヨウ。


 そのゴヨウの魂に懐かしい声が響いた。


“やったな、ゴヨウ先生!”


“それでこそ知多星ゴヨウだわ!”


 リッキーとコーエンの声だ。死した彼女達はゴヨウを見守ってくれているのだろうか。


“あ、でもよう、ゴヨウ先生まだ童貞なんだろ?”


“困ったわね、二十歳もとっくに過ぎてるのに……”


“ハードゥも今じゃ体ねえしなー”


“蛇使い座の女神様にでも、お願いしようかしら…… きっと、あの方なら……”


「…………頭の中で会話しないで」


 つぶやき、ゴヨウはウィンド・キャリバーのコックピット内で意識を失った。


 三百六十度スクリーンに写るのは、どこまでも海の中だ。


 命を産みだした海の中で、ゴヨウはささやかな休息を得ていた。

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