淑女ペネロープ
ショッピングモール内にあるメイド喫茶「ブレーメン・サンセット」。
その店先にはハロウィン特設コーナーが設けられていた。
「……そして、わたくしは気づいたのよ。こんなに辛く苦しいのなら、愛なんかいらないと!」
ペネロープは特設コーナーで、非番の婦人警官スージーを相手に昔話をしていた。
ダンピール(※吸血鬼と人間のハーフ)であるペネロープは、外見は二十代半ばほどだが、六百年を生きている。
そんなペネロープは五百年以上も前に人間の男性ランバーと恋仲になったが、彼は寿命で死んだ。
以来ペネロープは男性と恋することはなく、女の子を恋人にしている……
「ーーぶは!」
涙をこらえきれぬスージー。ペネロープは仕事もせずに何をしているのかと言いたくもなるが、そんな彼女だからこそ客がやってくるのだ。
「さ、貴女はハロウィンで気になる男のハートをキャッチするのよ」
「はあーい、ペネロープさん!」
「うん、いい返事だわ。いいこと、男を同じ人類とは思わず、未知の生物だと思ってぶつかっていきなさい!」
ペネロープの指導に熱が入る。ツッコミどころは満載だが、控えねばなるまい。なお、店頭に設けられたハロウィン特設コーナーでは、お持ち帰りのお弁当が男性によく売れていた。
ーーグオオオ
その時だ、ショッピングモールの一角に黒い穴が生じたのは。
それは時空のねじれだ。
「あの世」と「この世」を繋ぐ門であった。
雷鳴のような轟音と共に、時空のねじれから人影が飛び出した。
「ブッシャアアア!」
それは醜い老婆ーー 悪霊ババアであった。かつてハロウィンの夜には「この世」と「あの世」が繋がり、無数の妖魔があふれてきた。
その妖魔から人々を守るために戦ったのが「レディー・ハロウィーン」の一族である。
そして、ペネロープはレディー・ハロウィーンの好敵手であった。
彼女はダンピールだが、人間の側について戦った。ペネロープは妖魔の浅ましい精神が嫌いであったからだ。
「ーー向こうの世界に帰りなさい」
ペネロープはワゴンセール用のカートに乗って、凛々しく(?)悪霊ババアに告げた。
百八十センチを越える長身、細い体のラインーー
長い赤毛に白い肌、深紅のバッスルドレスを内側から押し上げる豊かな胸。
欧州系の美女であるペネロープは美しかった。その迫力に悪霊ババアは圧倒された。
「フ、フーアーユー!?」
悪霊ババアの問いにペネロープは答える。
「わたくしは淑女ペネロープ」
言ってペネロープはスカートをまくしあげ、太腿に巻きつけたホルスターから拳銃を取り出した。
「メイド喫茶『ブレーメン・サンセット』の店長よ…… ハイ!」
ペネロープのかけ声と共に、ワゴンセールのカートは悪霊ババアへと走り出した。
ペネロープは悪霊ババアへと拳銃を発射する。銃声と共に火花が散るが、命中した悪霊ババアには効いた様子もない。
「貴様の魂を食らってやる!」
「やってみなさい!」
ペネロープはカートから飛び降りた。
勢いを保ったペネロープはショッピングモールの床で側転し、更に後方宙返りして悪霊ババアの背後を狙う。
「何い!?」
悪霊ババアがうめいた時には、ペネロープは技をしかけていた。
背後から腰に座るようにして両足を悪霊ババアの足にからめーー
更にペネロープの両手は、悪霊ババアの両腕を後ろから上へと押し上げている。
これは伝説の必殺技、
「パロ・スペシャルよ!」
ペネロープのパロ・スペシャルによって悪霊ババアは血反吐を吐いて倒れた。
ハロウィンを守る戦いはまだ始まったばかりだ。
「今夜は寝かさないわよ♥️」
ペネロープはスージーのアゴに指をかけ、彼女の唇を奪った。ショッピングモールの一角に百合が咲いた。
ハロウィン当日は近いーー