慶安夜話(※番外編)
ーーぷあ~ん たたんたたん たたんたたん たたんたたん
浅○橋のガード下に、蘭丸の経営する担々麺の専門店「南極の風」はある。
「いらっしゃませでやすー♥️」
店員の黒夜叉が注文を取りに来る。褐色の肌に黒い紋様が刻まれた、ミステリアスな美女だ。だが、彼女の天真爛漫な明るい心が男性客を惹き付けて止まない。
なお、店内はソーシャルディスタンスも完璧、担々麺はお持ち帰りもOKだ。辛さ一倍ならば幼児でも食べられる甘辛風味、十倍ならばピリ辛、三十五倍で激辛、百二十倍ならば保証(何の?)はしかねる。
「……」
店長の蘭丸は黙々と担々麺を茹で上げる。長い黒髪を後ろで束ねた美男子だ。先日は女に間違われてナンパされた。
が、秘めた漢気は半端ない。元は用心棒であり、それを買われて(何者に?)魔性を斬ってきた。
今は引退しているが、それでも並の人間が太刀打ちできる存在ではない。
「世の中、人間の方が怖い」
蘭丸に言わせれば、魔性よりも人間の方が厄介らしい。おかげで並々ならぬ苦労をしているようだがーー
「蘭丸よ、早く子どもを作れ。わしは孫の顔が見たい」
カウンター席でビールを飲んでいるのは、これまた長い黒髪の美男子だ。蘭丸の親戚と言われたら信じてしまうほど、容貌がよく似ていた。
しかし父親というわけではない。
この人物は巌流、佐々木小次郎だ。宮本武蔵と兵法天下一の決闘をした事で有名だ。
実は重傷を負いながらも生き延びていた小次郎は、蘭丸をひそかに助け、そして彼との勝負を臨む魔性の剣士であったがーー
「設定が二転三転どころか、七転び八起きして、今じゃ作者もわからなくなっているそうじゃ」
「はあ」
店主の蘭丸は相槌を打った。今の彼は黒夜叉を養う事が人生の大事であった。
「もう小次郎先生ってば赤ちゃんだなんて~…… じゃあ、蘭丸の旦那に、いっぱい頑張ってもらわないと~♥️」
顔を赤らめ、はにかんだ笑みを浮かべた黒夜叉は蘭丸に抱きついた。
「あーはっはっはっ! お主らといると退屈せんわ! 黒夜叉、蘭丸と子作りをがんばれよ! 佐々木巌流はクールに去るぜ」
「はあーい、今夜は蘭丸の旦那を眠らせませーん♥️」
「ろ、老師ー!?」
蘭丸の悲鳴を残して佐々木巌流小次郎は上機嫌で店を出た。また戦いが始まるのではないか?という微かな予感があった。
「女の幸せだね~」
夜叉姫(魔性の女王)は、電柱の物陰から「南極の風」店内のドタバタ騒ぎを微笑ましく見つめていた。
「良かった~、チョー幸せそう~……」
夜叉姫の隣には、背中に蝶のような羽を生やした魔性・月光蝶が涙をハンカチで拭っていた。めでたし、めでたし。
なんだこれ




