レディー・ハロウィーン3 夏の追憶・レディー・ハロウィーン海に行く
超神が襲来するしばらく前の事だ。
悪魔商人を率いる暗黒サンタは、海で強化合宿を行った。
「ファイオー、ファイオー、ファイオー!」
波打ち際をランニングする悪魔商人たち。
猛牛マンにミス・パーコーメン(※遠い親戚がエジプトにいる紅一点)、残忍者や阿修羅マンといった強者たちだ。
彼らは客のいない民宿を数軒貸切り、二週間もの間滞在した。
病魔の影響で困っていた民宿の方々には有難い事であったろう。
暗黒サンタのーー
真の名は完璧商人始祖の一人、黄金マンの真意は測り知れぬ。
「シャバババー、もっと持ってこーい!」
海の家では、完璧商人始祖の一人、眼マンが大量の料理を平らげていた。
「ニャガニャガ、店員さん、この眼マンさんは一日に百キロ以上も食べるんですよ」
眼マンの隣には同じく完璧商人始祖の一人、精神マンがいた。
眼マンも精神マンも「サンタさん」に仕えるトナカイ役であった。
「さ、眼マンさん遠慮せずに食べてください。私のおごりですから」
「シャバババー、貴様に言われんでもわかっておるわー!」
「ニャガニャガ…… 店員さん、支払いはカードで」
「すいませーん、うちはカード使えないんですー!」
「え……」
料理を運ぶのに泣きそうな女性店員、青ざめた精神マン。
眼マンは店主(女性店員の兄だという)の作った料理を次々と食べる。とっくに限界を越えていた。
客の来ない海の家を救おうというのか、眼マンと精神マンの真意もまた測りがたかった。
「…………」
サンタさんはーー
完璧商人始祖の一人、白銀マンは波打ち際に一人腕組みしてたたずみ、海の彼方を悲しい顔で見つめていた。
(水着のお姉さんがいねえ……!)
白銀マンが海に来たのは、水着のお姉さんたち目当てであった。
だが混沌のもたらした病魔の影響で、海水浴場はどこもかしこも閑古鳥が鳴いていた。
あきらめて帰ろうとした時、白銀マンは砂浜に一本のビーチパラソルが立つのを見た。
「お嬢様の肌はスベスベですね…… さ、日焼け止めのオイルを塗りましょう♥️ お嬢様、ブラをほどいて」
「あんたレズの気でもあるんじゃないでしょうね……」
ビーチパラソルの下では「レディー・ハロウィーン」のローレンと、「フランケン・ナース」のゾフィーが戯れていた。
欧州系美女二人がビーチパラソルの下で戯れる姿に、白銀マンは興奮した。
「と、尊い…… 尊い……!」
アルカイク・スマイルで二人に歩み寄っていく白銀マンだが、その様子は不審者感まるだしだ。
目を丸くして驚くビキニ姿のゾフィーと、眉を吊り上げて不快と怒りを露にしたローレン。
「こ、このヘンターイ!」
顔を真っ赤にして怒鳴ったローレンは、ゾフィーから日焼け止めオイルの容器を奪い取り、白銀マンに投げつけた。
白銀マンが顔だけ動かして容器を避けた一瞬に、ローレンは左腕で胸元を隠しながら突撃した。
「んな!」
一瞬の虚を衝かれて驚く白銀マン。
その眼前にローレンは踏みこむと、跳躍して両足首を白銀マンの首に絡めた。
全体重が乗ったローレンの両足首が、白銀マンをフライング・ヘッドシザースでーー
いや、レディー・ハロウィーンであるローレンの、敵への慈悲をこめた必殺の技で投げた。
「ハロウィン・セメタリー!」
砂浜に轟音が響いた。
白銀マンは砂浜に頭が埋まった逆立ち状態になっていた。
ローレンは左腕で胸元を隠しながら、陽光を見上げて右腕を天へ伸ばした。
ハロウィンの女帝「レディー・ハロウィーン」たるローレン。
その美しさと強さ、そして慈悲の心は本物だ。王者の風格だ。
「心に愛がなければスーパーヒロインじゃないのよ!」
「お嬢様、カッコいいー!」
ローレンとゾフィーの主従は砂浜で大見得切っていた。ゾフィーの豊かな胸が拍手の度に揺れていた。
「超神ども…… 来るなら来るがいい……」
黄金マンは情けない弟を一瞥し、青い空を見上げた。
平和な一時は、束の間の休息だ。