闘将!! 白銀男 ~仏法天道の守護者!の巻!~
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バカップルに制裁を加える白銀マンを鎮めたのは、メイド喫茶の店員ツィークとラーニップであったといふ。
「ご主人様、お疲れですね」
「『ブレーメン・サンセット』で疲れを癒してください」
ツィークとラーニップは恐れた様子もなく、白銀マンに言った。そう言われて白銀マンもフェイスガードを下ろし、元のアルカイク・スマイルのような穏やかな表情を取り戻した。
女性は偉大であった。サンタさんからもらったプレゼントで女子力を五十倍にパワーアップさせたツィークとラーニップならば、鬼夜叉の心すら鎮められるのだ。
白銀マンはツィークとラーニップの二人に連れられ、ブレーメン・サンセットに入店した。
「ーー全く、新年早々から何してんのよ……」
一部始終を眺めていたローレンはーー
ハロウィンの守護者たる「レディー・ハロウィーン」のローレンはため息をついた。彼女は今日は着物姿である。
欧州系の可憐な美少女然の外見をしたローレン。彼女の着物姿は、東西文化の見事な融合のようだ。
ローレンは果てしなく美しかった。
「サンタさんもストレスたまってたんですね~」
ローレンの隣には侍女の「フランケン・ナース」ゾフィーがいた。
長身のゾフィーも晴れ着に身を包んだ艶姿だ。胸周りはきつそうである。主従は初詣に向かう途中であった。
帝都の著名人の十兵衛さんは、新年早々から地獄の稽古であった。
日曜朝のスーパーヒーロータイムの一角「柳生十兵衛シリーズ」は、十兵衛さんの番組である。
現「柳生十兵衛セイバー」でおよそ五十年続くこのシリーズは、「概念」と「存在の意義」を守るに相応しい。
「子どもの命と未来を守る」という概念を伝える柳生十兵衛シリーズ、これも武徳の祖神の導きかもしれない。
なお、スーパーヒーロータイムの他の作品は、剣隊シリーズの「魔進剣隊キラ忍者」と戦乙女シリーズの「ヒーリングっど! 戦乙女」である。
「せやあっ!」
稽古袴の十兵衛さんは、鎧を着こんだ木村助九郎に拳を打ちこんだ。
汗に濡れた決死の形相に、未だ冷める事なき熱き闘志を秘めて、十兵衛さんは尚も挑んでいく。
「甘い!」
助九郎の兜つきの頭突きを額に受け、よろめく十兵衛さん。
だが、彼は退くどころか逆に踏みこみ、助九郎の鎧の胴へ肩から体当たりした。
体勢を僅かに崩した助九郎。その一瞬の隙を衝き、十兵衛さんは助九郎と組み合い、右手首を左手でつかんだ。
「おお!」
鎧を着こんだ助九郎は、驚愕と感嘆の叫びを発して、背中から道場の床に落ちた。
助九郎が足一本で立った瞬間に繰り出された、十兵衛さんによる左手一本での体落だ。鮮烈な一本勝ちである。
技を出した十兵衛さんは満身創痍、茫然自失の様子である。
左の隻眼は半ば白目を剥き、今にもひっくり返りそうになりながら「も、もんてすきゅ~……」と意味不明な言葉をつぶやき、立っている。
最期の最期、十兵衛さんの魂に宿ったものは「子どもの命と未来を守る」という意思でありーー
それがために、十兵衛さんは一瞬の隙を逃さず勝利できた。魂に宿るものは、己を裏切らないのだ。
「ーーそれまで」
審判役の宗矩はそう告げた。助九郎も笑いながら身を起こしてくる。助九郎とまともにぶつかれば、十兵衛の勝機は薄い。
「さあ、次だ十兵衛」
宗矩の厳しい眼光が十兵衛を刺した。ここは柳生の道場に似ているが、魂の遊飛する「あの世の修行場」であった。
「は、花畑が…… 蝶も飛んでいる……」
十兵衛さんの意識は現実から遠く離れ、涅槃の光景を見ているらしい。
「さすが若だ! 仏法天道に導かれていらっしゃる!」
「す、助九郎、俺みたいなのがそっちに行ってもいいのかね……?」
「大丈夫、比叡山にも僧兵がいましたし、宗厳(※十兵衛の祖父・石舟斎)様の朋友、槍の宝蔵院殿も僧兵でありました!」
「そ、そうか~……」
十兵衛さんは力なくつぶやいた。こんな状態になっても彼はまだ一瞬で敵を倒そうとしている……
「ーーほう、招かざる客が来たようだ」
宗矩は道場の吹き抜けた天井を見上げた。助九郎と十兵衛さんも見上げた。そこには宇宙空間に似た広大な世界が広がっていた。
飛来してきたのは数メートルに達する氷塊だった。
「パオオオ~ン!」
古象のような雄叫びと同時に氷塊は砕け、中から現れた者が、十兵衛さんらの見ている前で、道場の床に着地した。
「パオオオ~!」
分厚い胸板を両拳で打ち鳴らし、威嚇の咆哮を上げるのは、三大悪行商人の一人ーー
あるいは最強と称された商人、古象マン(の魂)であった。彼は超神との闘いを前に、ウォーミングアップがてら「あの世の修行場」に立ち寄ったようだ。
「ボ、ボスけて……」
十兵衛さんは遂に顔を蒼白にした。身長279㎝、体重400㎏という古象マンの圧倒的な迫力に半ば戦意喪失だ。
「相手にとって不足なし!」
まだ鎧を着こんだままの助九郎は、壁から槍を手にして、切っ先を古象マンに突きつけた。さすが後世に名を残す名剣士である。
「下がれ助九郎!」
宗矩も腰の帯に刀の鞘を押しこみつつ、火の点いた導火線つきの球をーー
火薬の詰まった炸裂弾を古象マンに投げつけた。
「パオ?」
思わず炸裂弾を両手でナイスキャッチした古象マン。次の瞬間には、大爆発が起きた。
「ほえー!」
爆風に吹き飛ばされる十兵衛さん。今年も激動である。




