レディー・ハロウィーン2 大いなる災いの予感
ローレンは緊張していた。もうじきハロウィンだ。
ハロウィンの女帝「レディー・ハロウィーン」であるローレンには、一年に一度の大仕事だ。
だが、それだけではなかった。
人類と神々の戦いは、病魔の蔓延を皮切りにして始まっていた。
天空から舞い降りてきた「調和の神」を筆頭にした超神たち。
彼らは人類を滅ぼすために降りてきたのだ。
それを防ぐために正義、悪魔、完璧の三属性の「商人」たちは一致団結しようとしていた。
人知を越えた力と共に、世の経済を司る存在である「商人」。
その商人と超神との、史上最大の戦いは始まったのだ。
「や~ね~」
「あたしたち、きっとこんなんばっかよ!」
フランツェスカとガーナクルズの長身美女コンビは、ハロウィンにちなんでサキュバスのコスプレを披露していた。
先に掲載された「チュパカブラDX」で活躍した二人は、しばらくアクション女優として活動する予定だ。
メイド喫茶「ブレーメン・サンセット」の店先で、二人はハロウィングッズの店頭販売に励んでいたがーー
「……ねえ、なんで背中にジッパーがあるの? ステ○ッキィ・フィンガーズ?」
ガーナクルズはフランツェスカの大きく開いた背中に、縦にジッパーがあるのを発見した。
「ふふふ、ナイショよ」
フランツェスカは優雅に微笑んだ。彼女は異星人だが、ひょっとしたら、ひょっとしてーー
「レディー・ハロウィーン」たるローレンも大忙しだ。彼女はデスクの上の書類に、次々と目を通し判を押していく。
侍女の「フランケン・ナース」ことゾフィーも忙しい。ゾフィーはハロウィンカボチャの制作に夢中だ。
バレンタインの守護者である「バレンタイン・エビル」のグレースは、双子の姉であるローレンを手伝っている。
顔は瓜二つだが、ショートヘアーのローレンと違い、グレースはロングヘアーだった。
そんなグレースは処理済みの書類を整理する作業をしていたが、一段落するとスマホを取り出し、交際を開始したばかりのチョウガイへーー
「百八の魔星」の守護神チョウガイへLINEでメッセージを送っていた。
「あなたねえ……」
ローレンは妹のグレースの行動にため息をついた。
「ご、ごめんなさいね、御姉様!」
グレースは真っ赤になりながら、はにかんだ笑顔で謝った。
しかしグレースの笑顔はまぶしかった。少し前まで彼女は美しいながらも無表情で無愛想だったというのに。
やはり恋する女性は輝いているのであった。
「吸血鬼だから吸血鬼のコスプレ……なんて、つまらないわね~」
ペネロープは自室で鏡台を前にしてクローゼットを引っかき回していた。
184cmの長身でスレンダーかつグラマラスな肢体が美しい。
魅惑のランジェリー姿でクローゼット内を引っかき回すペネロープ。
彼女の内なる情熱を表すかのように、深紅のランジェリー。ガーターベルト装着済みのTバックの後ろ姿は、女性でも胸が高鳴るほどだ。
しかし女子力の低さを物語る言動が、そこはかとなく残念だ。
大学生カップルのアランとアナスタシアは、ゲーマーの聖地「Hei」へやってきていた。
「ほら、アナスタシア見てよ! かつて裏ゲーマーズ大賞に輝いた伝説の問題ゲー『大穢土ファイト』だよ!」
アランは筐体に向かって楽しげにプレイしていた。
アナスタシアは瞳のハイライトが消えた茫然自失とした様子で、アランが大穢土ファイトをプレイするのを眺めていた。
画面の中では両刀を構えた鎧武者が、巨大十字手裏剣を手にした忍者と戦っている。
ちょっとした攻撃でも致死量の出血エフェクトが生じ、画面は赤く染まっていた。
鎧武者の二刀が閃き、忍者は正中線から真っ二つに切り裂かれ、左右に分かれた。
おびただしい血糊、そして鎧武者の勝利セリフ……
アナスタシアは、これは修羅の地獄の光景が、ゲームを通じて人間世界に現れたのではないかと思った。
あの世とか来世とかーー
神仏の世界や、宇宙の彼方の理が、小説やマンガなどを通じて、人間世界に写ることはよくあるらしい。
異世界転生も一方では真理であり、一方では滑稽な「有り得ぬ事」であった。
「アラン、私はね……」
アナスタシアが白い顔でアランを見れば、彼はいつの間にかゲームの筐体の前にいなかった。
「アラーン!?」
アナスタシアが店内を見回せば、アランは謎のコスプレ女子によって連れ去られていく。
アランはどういうわけか、逆ナンされやすい男であった。
逆ナンするのは超肉食系女子ばかりであった。
アナスタシアのアランを取り戻すための戦いが、再び始まった。