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地獄プロレス



   **



 あの世では死した勇士らによる「地獄プロレス」が催されている。


 彼らの熱き闘争は、無気力なあの世全体に活力を与え、新たな命をこの世に送り出す。


 この世とあの世は、密接に繋がっているのだ。


 今宵は闘技場Aでーー


 広き草原でジャンヌ・ダルクと貂蝉ちょうせんの試合が始まった。


 騎乗したジャンヌ・ダルクは剣を握って、貂蝉へ突き進んでいく。


「きゃあー、助けて呂布様あー!」


 あざとい仕草で貂蝉(※実在した人物ではないので謎)は呂布を召喚した。草原を赤兎馬に乗って駆けてくる呂布は、なかなか絵になった。


「はいはいはいはいはいはい!」


 呂布は方天画戟でジャンヌ・ダルクへ無数の突きを繰り出した。


「フォロー、ミー!」


 ジャンヌ・ダルクが叫ぶと同時に、彼女の体は金色の光に包まれ、次いで背に生えた天使の翼で空中へ舞い上がった。


「……何それ」


 呂布は呆然と舞い上がったジャンヌ・ダルクの姿を見上げていた。


「エンジェル・アロォッー!」


 ジャンヌ・ダルクは空中から弓を引いて、呂布へ光輝く矢を放った。





 闘技場Bは人気ひとけない寂れた宿場町であった。夕闇が迫り、風が吹き荒れている。


 時代劇の一場面のような場所で対峙するのは、柳生十兵衛と小野忠明だ。


「待ったぞ、この時を」


 不敵に笑って忠明は刀を抜いた。生前は徳川二代将軍、秀忠の剣術指南を務めていた。


「お相手つかまつる」


 十兵衛は無表情で刀を抜いた。三池典太の刃が陽光に反射して輝いた。


「ーー」


 両者は間合いを詰め、そして烈火の気迫が爆発した。


 ー ーかあーん


 と甲高い音を立て、十兵衛の三池典太が地に落ちた。同時に彼の右腕までもが。


 素早く間合いを開けた十兵衛に対し、忠明は不敵な笑みを浮かべて、刀を右肩に担いだ。


 刹那の打ちこみの際、忠明は十兵衛の拝み打ちの一刀を避け、三池典太の刃を打った。


 十兵衛が手を離した時には、新たに打ちこんでいた。その一閃が、十兵衛の右腕を、肘の辺りから斬り落としていた。


 決死の形相の十兵衛。これは地獄プロレスであり、十兵衛はすでに死した身だがーー


 この絶体絶命の窮地を、十兵衛は望んでいた。


 刹那の間に己の全てを振り絞る、それが生前の十兵衛であった。


 十兵衛は蒼白な顔で、にやりと笑った。


「ーーむ?」


 忠明の、ほんの一瞬の困惑ーー


 十兵衛はその隙を衝いて、忠明向かって踏みこんだ。


 次の瞬間には、忠明が十兵衛によって背中から大地に叩きつけられているーー


「ーーお見事、十兵衛さん」


 地から忠明は十兵衛を見上げて気絶した。


 十兵衛もまた会心の笑みを浮かべて、地に突っ伏した。


 彼は忠明の懐に踏みこみ、左手で右袖をつかむと、体を回して体落で投げたのだ。


 刹那に閃いた左手一本での体落、それもまた無刀取りの妙技である。


 そして十兵衛と忠明、共に気絶した両者の間には不思議な安らぎが満ちている。師弟関係の者が、互いに認めあった安らぎだろうか。





「フォロー、ミー!」


 A闘技場では天使と憑依合体したジャンヌ・ダルクが、空中から次々と矢を射ち続けている。


 地上では呂布が貂蝉を赤兎馬に乗せ、縦横無尽に逃げ回っていた。


「うっひゃあ!」


 さすがの呂布も貂蝉を胸に抱きながらでは反撃もできない。


「おっほっほっほっー!」


 空中から響くジャンヌ・ダルクの高飛車な笑い声。


 空を飛ぶのは反則だ。

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