表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/94

アナスタシア、愛を取り戻せ4



   **



 アナスタシアは、アランとのホテル入りを寸前で阻止した。


「いいところだったのに……」


 残念そうな顔のをアナスタシアは「シャアー!」と威嚇して黙らせた。


 更にアナスタシアは、アランを連れて馴染みのトレーニングセンターにやってきた。虞も二人から遅れて、勝手についてきた。


 アナスタシアとしても女装した美少年の虞がちょっっっっっっっっっっぴりだけ気になるが、浮気しそうだったアランは許せない。


「さあ、スパーリングよ!」


 アナスタシアはスポーツブラにハーフパンツ、そしてオープンフィンガーグローブをはめた女性格闘家じみたスタイルでリングに上がった。


「ご、ご、ごめん……」


 リング上で青くなるアラン。女装した美少年との淡いロマンスは終わってしまったのだ。ひょっとしたら、それが一番寂しかったかもしれない。


「いくわよ!」


 アナスタシアは踏みこんだ。アランの体も反応して、勝手に動いた。


 身長195cm、体重105kgのアランはフットボール経験者である。


 甘いマスクに圧倒的なパワーを秘めたアランは「キラーマシーン」と呼ばれていた。


 そんなアランはゴング(誰が鳴らした?)と同時にリング中央、アナスタシアへと踏みこんだ。


 アナスタシアも動いた。そして素早い。アランの左手側へと僅かに回りこみ、その圧倒的なパワーと向き合わない。


「ふ!」


 アナスタシアはアランへと踏みこみ、両腕のガードを固めてぶち当たる。


 アランの体勢が僅かに崩れたところへ、アナスタシアは渾身の右ミドルキックを叩きこんだ。


 腹部へのミドルキックを、アランは左腕を持ち上げてガードした。体重の乗った重い蹴りだった。ガードしなければ、悶絶したかもしれない。


「この……」


 アランはアナスタシアの方へと向く。だが、アナスタシアは再びアランの左手側へ回りこんだ。アランはアナスタシアのフットワークに翻弄され気味だ。


 自分からは近く、相手からは遠くーー


 間合いの取り方一つで有利不利を、更には生死の境をも分ける事があるのだ。


「シイ!」


 アナスタシアの鋭い前蹴りが、アランの前進を妨げる。まともにぶつかれば、華奢なアナスタシアなどアランのパワーに粉砕されてしまうだろう。


 いや、これは試合ではなくカップルの痴話喧嘩ーー


 男女のコミュニケーションの一つかもしれないが、アナスタシアもアランも今この時は真剣勝負だ。


「……これが愛?」


 リングサイドから観戦していた虞は、荒ぶるアランとアナスタシアの試合を眺めて涙を流していた。


 二人の高まるボルテージを前に、虞は感動したのだ。


 だが、だからこそ虞の乙女心(※虞は女装した美少年です)は激しく燃え上がった。


 他人の男だと思うと尚更、欲しくなる。それが女(※繰り返しますが虞は女装した美少年です)のさがというものか。


「ウアー!」


 アランはアナスタシアのローキックには構わず踏みこんだ。捨て身のラリアットが、アナスタシアをガードごと吹っ飛ばす。


 たとえ恋人が相手だろうと手抜きしない。全力の一撃だ。


 アランとアナスタシアは、こんな交際を数年も続けてきた。


 だから未だに大人の階段を登れず、アランも肉食女子に狩られそうになるのだろうか。


 吹っ飛び、足をもつれさせたアナスタシアは、ロープに背を預けた。


 ーーバウン!


 そしてロープの反動を利用して、アランに向かって矢のように突き進んだ。


 アナスタシアは右ショートフックで攻める。


 左腕でガードしたアランへ、アナスタシアは左ショートアッパーでボディーを攻めた。


 アランの意識が左ショートアッパーに集中した瞬間、


「ふ!」


 アナスタシアの右ハイキックが、アランの左側頭部へ炸裂した。


 巧みなコンビネーションだ。アランの意識が、ガードに集中した瞬間を狙うとは。


「はあ!」


 アナスタシアは止まらず、アランの背後へと回って後ろから抱きついた。


 これこそアナスタシアの愛の抱擁、


「おお!」


 驚愕の声はリングサイドの野次馬達から沸き上がった。


 華奢なアナスタシアが、倍以上の体重のアランをスープレックスで投げるとは。


 滑らかな人間橋を描きながら、アナスタシアはアランの後頭部より下、肩に近いあたりをリングへ叩きつけた。


 全力の愛であっても、手加減するのが恋人同士なのだ。


 スープレックスは腰のバネで投げるーー


 瞬発力に長けたアナスタシアのスープレックスは、見る者全てを魅了スペルバウンドするという。


「ア、アナスタシア……」


 リングに倒れたアランはうめきながら口を開いた。


「……ごめんね」


「わかればいいのよ!」


 アナスタシアはまだプンプンしていたが、アランを許した。


 同性が相手とはいえ、恋人の浮気をスープレックス一発で許すとは、アナスタシアの心は海より深く、空より広かった。


「素敵だ……」


 リングサイドの虞は涙を流しながら、アランとアナスタシアの二人を拍手で祝福した。


 いや、これは新たな戦いのゴングであった。


 虞はアナスタシアという強力な存在からアランを奪い、そのたくましい尻を奪おうと決意したのだ。


 虞は女装した美少年だが、受け身ではない、勇猛果敢な攻め手である。


 ここにアランの貞操を巡る闘いの火蓋がきって落とされようとしていた。





おわれ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ