アナスタシア、愛を取り戻せ3
ボーリング場からアナスタシアは飛び出した。
愛しのアランを取り戻すためだ。一体アランは、今度はいかなる肉食女子にさらわれたというのか?
「ーーん?」
アナスタシアのサイバーアイがアランの後ろ姿を捉えた。彼の隣には小柄で可愛らしい美少女が寄り添っていた。
腕を組んで歩く二人は微笑ましいカップルに見えたが、アナスタシアの胸の内には、激しい嫉妬の炎が燃え盛った。
それと同時に一つの疑惑が沸き上がった。
「ん~?」
アナスタシアは僅かに眉をしかめた。彼女のサイバーアイーー
超科学で創られた通称「神の瞳」は、アランの隣の美少女が男性という事に気がついた。
「虞さん……ですか」
アランは頬を赤らめながら言った。自分の左腕に抱きついた小柄な美少女(実は女装した美少年)に胸高鳴り、アナスタシアの事を忘れていた。
「はい、アランさんの事はお店に来た時に気になっちゃって……」
虞ははにかみながら言った。今時、珍しい女性の仕草であった。
虞はディートリンデの経営する中華飯店「関帝房」の店員だ。双子の姉に貂蝉がいる。
客らには美少女と思われている虞だが、実は女装した美少年でありーー
逆に美少年に思われている貂蝉は美少女なのだ。
なぜに男装、女装しているのか。それは店長ディートリンデの神算鬼謀によるものだろう。
帷幄に在って謀を巡らし、千里の外に勝利を決すーー
ディートリンデの知略は、前漢の功臣・張良子房のごとくだ。
(いやあ、でもしかし)
アランは横目で虞を見下ろした。
身長195cmのアランには、155cmの虞はか弱く儚く、守るべき存在に思われた。
それにも増して、アランは虞が男の娘だと気がついていたが、不思議な色気を感じていた。
「ふふっ」
アランを見上げる虞。胸元が少しだけ開いている。男性とは思えぬ細い鎖骨にアランの胸は高鳴った!
「コオオオオオオオオ!」
アランの呼吸が一定のリズムを刻みだした。
全○中の呼吸ではない、波○の呼吸だ。
生命力を高める○紋呼吸によって血管と瞳孔は広がり、筋肉には通常より多くの血液と共に酸素が送りこまれーー
アドレナリンによる興奮が恐怖を打ち消し、ドーパミンによってある種の満足感を得る。
そして脳内麻薬エンドルフィンによる幸福感と充実感……
今のアランにとっては、一秒が十秒ほどにも感じられた。
古の武人、剣豪らが語り伝えた「無の境地」であろうか。
陸奥○明流では「四門(死門)」とも称される境地へ、アランの意識は到達した。
「かわいいね!」
鼻息荒くアランは言った。死門の開いた人知を越えた境地、そして死に近づいた状態でアランは男の娘を口説いた。
早くもアランは鼻血が流れ出している。死門を開いた反動だ。それでも男の娘を口説いてこそ英雄だ。




