知多星ゴヨウ2 ~宇宙の正体~
知多星ゴヨウの意識は、虚無の中をさまよっていた。
広大な暗い空間ーー
赤みを帯びた黒の空間に浮かび上がるのは、巨大な赤ん坊であった。
そして、赤ん坊の前に立つ長い黒髪の後ろ姿は女のように見えた。
(これは何だ、何だというんだ!)
ゴヨウの意識は女から目を離せない。
振り返った女の顔は肌白く、赤黒い法衣のようなものをまとっていた。
美しいが恐ろしくもある。女の瞳は深紅に輝き、ゴヨウを見つめていた。
(こ、これが宇宙の正体か!)
わけもわからずゴヨウの意識は叫んでいた。
そして異様な空間は遠ざかり、
「…………ん?」
ゴヨウは司令室のチェアの上で目を覚ました。
混沌の軍勢と交戦、勝利し、しばしの休息の中で夢を見ていたようだ。
「お目覚めかしら?」
ゴヨウの側にやってきたのはハードゥだ。精神体となった彼女は、ゴヨウの頼もしい相棒だ。
「ああ……」
「汗かいてるわね」
ハードゥはゴヨウの汗に濡れた額を手の甲で拭う。優しさがある。愛情がある。
しかしゴヨウとハードゥに男女の性愛に似た感情はなかった。
「意識しなくていい異性はいいね」
「何を言ってるのか、わからないわ」
「なんていうのかな、ハードゥは…… 妹みたいなもんかな」
「わたしには、ゴヨウは情けない弟みたいよ」
「そ、そうか」
「……で? 何を見たの?」
ハードゥの質問にゴヨウは押し黙りーー
しばらくして、言葉を紡いだ。
「宇宙の…… 正体だよ。人間の進化の行き着く先…… 秩序と混沌、そして…… ブッダーの力を信じるんだ!」
「何を言ってるのか、わからないんだけど」
ハードゥはそれ以上は何も言わず、ゴヨウのためにコーヒーを淹れた。
誰かが自分のために用意してくれたものこそ、ゴヨウには最上のものだ。
「……いつもより苦くない?」
「少し目を覚ましなさいよ」
「はあい……」
ゴヨウはコーヒーを飲みながら前方のモニターを見つめた。
広大な宇宙空間が暗く静かに広がっていた。




