人は忘れるということが可能なのだから
カタカタカタカタカタカタ…。
解説君がキャタピラで暁の子供部屋へ入ってきました。
幼稚園児の暁は、ベッドに突っ伏してわんわん泣いています。
「あっきらー!見てくださーい」
解説君が変な踊りを踊りながら声をかけました。
「あっはははは!なんだよそれ!」
暁が破顔一笑。
「なんでしょう!?」
さらにくねくね踊り。関節はどこへ行ってしまったの?って感じです。
暁が幼い頃は、解説君はこうやってあやしてあげていました。
それが!
「あっきらーん!」
変な踊りの解説君をスルーして、暁は父親の研究所で足早に用事だけ済ませて帰っちゃうようになりました。
ある日。暁が彼女を連れてきました。
「かわいい!」
江入杏ちゃんとの初対面。解説君は大歓迎でしたが、暁はそれが面白くない様子でした。
「正太郎」
「どうした?解説君」
「どうも暁から嫌われてしまったようです」
解説君はしょんぼりして言いました。
「暁もむずかしい年頃だからなぁ」
「本当にむずかしい。人の心はむずかしい」
「いずれまた昔みたいに打ち解ける日は来るよ」
「そうでしょうか?…人は忘れるということが可能だから」
「解説君はずっと覚えているんだね?良いことも悪いことも」
「心の整理が必要です」
「わかった」
正太郎は工具をガチャガチャいわせて、解説君の調整をしました。
時が経ち、暁と杏が結婚して子どもが生まれました。
解説君が近づくと、お父さんになった暁がこう言いました。
「解説君。僕らの子どもと仲良くしてやってくれな!僕のときみたいに」
解説君は、一筋の水滴を瞳から流したのでした。