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神城真衣菜の人生は終わらない。

神城真衣菜の人生は終わらない。

作者: 池中織奈

「神城さん、今から飲みにいかない?」

「ごめんなさい。アルバイトがあるの」

 私は、神城真衣菜しんじょうまいな。都心の大学に通うニ十歳だ。黒髪黒目で、特に目立つ所もない純日本人。同じ史学科の生徒に飲み会に誘われたが、生憎アルバイトがあった。

 私は都心で一人暮らしをしている。有名企業で働いている両親は子供に関心はなく、海外を飛び回っている。それぞれ愛人もいるらしいが、正直どうでもいい。

 お金は有り余るほど与えられてはいるが、アルバイトも人生経験だと思っているのでハンバーガーショップで働いている。

 将来の夢は、カフェを開きたいと思っている。

 お客さんが訪れて落ち着くようなカフェを開いて、来てよかったと言ってもらえたら私は嬉しいのだ。なので、三十歳までにカフェを設営し、その後、軌道に乗らせることを目標にしている。最終的な目標は健康的に老衰して死ぬ事だ。

 神城真衣菜として、この世界で死ねば、きっと私の人生は終わるだろう。なので、後悔をしないように生きていこうと決めている。


 ―—その日も、アルバイトをして、そのまま当たり前の日常が終わるはずだった。




「ふぅ、今日もよく働いた……」

 独り言を口にして、夜道を歩く。人通りが多く、電灯も光り輝いているので夜道とはいえ明るく、そこまで危険性は感じられない。私の住んでいるのは、一等地にある高級マンションだ。親が所有しているマンションで、一人暮らしであるが3LDKの広さがある。

 悠々と過ごせるので、この広さは気に入っている。こういう点は親に感謝している。そのマンションに向かって歩いていく中で、急に何者かが接近してくるのが感じられた。

 私はそれに対して、不審者かと思って振り向く。

 そこにいたのは――、

「……エングラン? 貴方、どうしてここにいるの? そして何故、手を広げているの?」

 幾つか渡り歩いてきた異世界の中の一つ、私が『火炎の魔女』として名を馳せた世界での知り合いだった。

 その知り合いが、まるで私に抱き着こうとばかりの両手を広げていた。

 真紅の髪と瞳を持つ美しい男。人としての姿は何度も見ているけれど、本来の姿の方が美しいと私は思ってる。背は百八十センチはあるだろうか。私よりもニ十センチは高い。

「マイナに会いたかったから!! 気づかれないように抱きしめようと思ったのに!!」

 神秘的なほどに美しいのに、しゃべると少し馬鹿っぽいというか、少し子供っぽい。相変わらずだと思う。

「だからって、此処まで来たの? それに私が人の接近に気づかないはずがないじゃない」

「流石、俺のマイナ!!」

「……いつから、私はエングランのものになったの?」

「だって、マイナ。若ければ番になってくれたかもって言ったじゃんか!! 今、目の前にいるマイナ、凄い可愛い!! 若い!! なら、なってくれるでしょ? 俺、マイナが好きだから番になりたい!!」

「……あー」

 私は元気いっぱいに私を大好きだと言ってくるエングランの言葉にそう言えばそんなことを口にしてしまったと、思い出していた。




 *



 そう、あれはもう何度目かも覚えていない異世界転移。

 ……そんなに何度も異世界転移しているの? と聞かれるかもしれないが、私は異世界転移というものを数えきれないほどしている。勇者としてだったり、聖女としてだったり、はたまた魔族側だったり、役目もなく転移したり――まぁ、様々である。

 最初に異世界に転移したのは、わずか六歳の時だった。そりゃあもう泣きわめいた。突然知らない場所に来ていたのだから当然だった。六歳の私、確か祈りの乙女として呼び出された。流石に一番最初の召喚は覚えている。ただそれは、期間が決まっていた。三年間、祈りの乙女として過ごせば帰れるというものだった。その世界は良い世界で、私にとてもよくしてくれた。私が幼子だったのもあって、同年代だった王子と王女達とは良い友人になれた。このままここで暮らしたらと提案もされていたけれど、あんな親でも当時はまだ私にとって大事な親だった。まだ親が恋しかったのだ。流石に娘が行方不明になっていたらあの親でも心配してくれるのではないかと言う気持ちもあった。

 しかし、現実に戻ってみて、私が召喚された日付に戻っていた。体も当時に戻っていた。混乱したものの、そういうものかと受け入れた。

 それから、何が理由なのかさっぱり分からないが、私は度々異世界に行くことになる。全て違う異世界だった。

 その中で、十年過ごしてその世界で死んだという場合もあった。驚くことに、異世界で私が死んでも、異世界に来た瞬間の自分に戻っていた。最初に戻った時と同じように混乱した。夢かとは思ったが、違うのは分かった。だって、異世界で身に着けた技術を私は披露する事が出来る。魔法もこの地球で使えたりする。披露したら大変なことになるから隠しているけれど。正義感が強ければ、この力があれば多くの人を救える! と暴露して動くのかもしれないが、こんな人間がいると知られれば面倒なことになる未来しか見えないので私は基本的に使えるが使わずに生きている。

 何度も異世界に転移し続けて、役目を終えて戻っても、死んで戻っても、呼び出された段階に戻るのだ。そのため、私の精神年齢は見た目以上である。

 さて、エングランに関して言えば、私が最も長くいた異世界での知り合いである。

 殺されたり、事故で死んだりしても神城真衣菜としての人生に戻ると理解した私は、とある世界で老衰まで過ごした事がある。その世界では戻ろうと思えばいつでも戻れるシステムが構築されていたというのもあるだろう。世界によっては強制的にいつの間にか帰還していたとかあるのだ。

 散々色んな世界を渡り歩いてきて、精神的にも長く生きているし、正直言えば戻らなかったとしたらそれでもいいからその世界で過ごそうと決めた。その世界が居心地がよくて気にいっていたからというのもある。

 そこで『火炎の魔女』として有名になった私が何をしたかと言えば、気まぐれに人助けをしたり魔術師として好きに生きていた。自由気ままに魔術師として生きたのは楽しかった。十五歳の時に転移して、その世界で七十一歳で老衰で死亡した。

 エングランと出会ったのは……、私がその世界で六十歳ぐらいの頃だろうか。その世界では竜種は火、水、風、地、光、闇と種類があって、それぞれに王がいる世界だった。エングランはその当時、火竜王を継いだばかりだった。気まぐれに私の元を訪れたエングランは、なぜか私を気に入った。そしてよく私の元を訪れるようになった。

 そして何をトチ狂ったのか出会って五年経ったある日にこんな事をのたまったのである。

「マイナ! 好きだ! 俺の番になれ!!」と。

 は? と私が耳を疑ったのも仕方がない事だろう。何故なら、私は当時六十五歳の体だった。……異世界だからと年を取っても若々しいわけではないのだ。平均寿命も地球よりも短く五十を超えればいつ死んでもおかしくない世界で、六十五歳だった私はまごう事なくおばあちゃんであった。

 そんなおばあちゃんの私に求婚する、美形。……そりゃあ、誰でも驚くものだと思う。ちなみにエングランは竜としての姿もとてもかっこいい。元々竜というものが好きな私としてみれば、人型よりも竜としてのエングランを見るのが好きだった。

 最初は気の迷いかと思ったのだが、毎日のようにエングランは求婚してきた。毎日毎日私に笑顔を向けてくるエングランはわんこかな? と思った。竜だけど。

 私としてみれば、番うとしても若く、自分の子供を産んでくれる相手の方がいいだろうと考えてた。そもそも私からしてみればよく遊びにくる子供のようなイメージだった。

 それもあって、確かに私は「私が若ければなったかもしれないけど……、流石にねぇ」と断った。それでもあきらめずにやってきたエングランだったが、それからの求婚は流していた。

 七十一歳でその世界で死んだ時、エングランはボロボロ泣いていたっけ……。





 という、過去を思い出した私だが世界を渡るなんて真似をエングランが出来ると思わなかったし、もう二度と会う事はないだろうと思っていたのである。




「マイナが何度も異世界に召喚されてて戻るって言ってたから、俺一生懸命頑張ったんだ!!」

「……あー、うん、確かに言ってたわ」

 何年も通ってくるエングランに私は自分の事を少なからず話していた。エングランが私に懐いてくれていたのもあって、気をよくして話してしまったというのもある。どうせ、話したところで今後に何の影響もないだろうと思っていたから。

 もちろん、今度は戻れない可能性もあるというのを言っていた気がする。

「頑張ったからって……世界を渡れるの?」

「頑張ったんだよ!!」

「それで火竜王としての役割はどうしたの?」

 竜種の王が簡単に異世界に来てはいかんだろうと思って口にする。

「そんなの譲ってきた。俺はマイナに会うって決めてたから」

 勝手にきめられてたらしい。流石に向こうで死んだ後に、追いかけてくる人がいるとは思わなかった。

「それで、マイナ、俺の番になってくれる?」

 まさかエングランが世界を渡ってまで、こちらに来て私を好きだというとは思わなかったので正直私は困惑していた。

「ま、まさか、マイナ、他に番がいたりする?」

 黙っていたら勝手に解釈をして、美しい顔を悲しそうにゆがめている。

「まさか、私は自慢じゃないけど彼氏いない歴が年齢の女よ?」

 告白はされたことがないわけじゃない。ただ何度も異世界にいって、精神年齢が上がっている影響もあり、どうしても恋愛対象外に感じてしまったりしていた。このままおひとり様として死ぬんだろうなと考えてた。

 エングランかぁ。そう思いながらマジマジと見る。そしたらじっと見つめられたことに照れてるのか、エングランが挙動不審になった。私に散々好きとか番になれとか言ってるくせに見つめられただけでそうなるなんて少し面白い。

 エングランは美形である。あと私の好きな竜。そして性格も悪くない。何より私の事が好きで、世界を渡ってまで追いかけてくれている。そんなエングランの事を、私は可愛いと思っているし、好意はある。竜種は人間よりも長命種で、私の方が先に老いていくけれどもおばあちゃんだった私に求愛していたようなエングランなのでそのあたりも問題はないだろう。

 そう考えて、挙動不審なエングランに向かって笑いかけた。

「いいわ。エングランの番になるわ」

「マイナっ!!」

 私の言葉に感激したように私の名を呼んだエングランは、私を抱きしめて、キスしてきた。……見つめられて挙動不審になっていたのに案外手が早い。って、舌までいきなり入れるんじゃない!!






 それから、エングランが日本に住めるように色々手続きをした。魔法を使ったりしながら、問題がないように進めていって、大学生なのに私はそのままエングランと婚姻した。……エングランが婚姻届けを出さないと番になったという事にならないと知って出したいといったからだ。親は私に無関心なので、結婚すると言っても勝手にしたら? だった。

 大学を卒業したら連絡を取る事も無くなる事だろう。

 その後も、私は当たり前のように度々異世界に行くことになっていたのだが……、それにエングランも当たり前のようについてきた。力の強い竜種は番に印をつけるらしく、世界を超えても居場所が分かるらしい。なんて高性能GPS。行く場所を告げてないのにいたりしたのはそういう事らしい。ちなみに印がつけられるのは、体を交わしてかららしいが。

 時々異世界に行きながらも、カフェのオーナーとして生きた。子供も三男四女に恵まれた。恵まれすぎだろという突っ込みは聞かない。多分、私とエングランの体の相性が良かったのだろう。あと、エングランは体を交わすのがとても好きだ。

 異世界に召喚体質の私と、異世界の竜種の子供であるが、驚くほどに普通だった。竜としての特性とか出るものなのだろうか、とか一種の不安はあったが、成長速度も普通だし、鱗とかもない。私と同じように召喚されてたりするんだろうかとカマをかけた事はあったが、空振りに終わった。

「お母さん、そんな妄想しているの?」と言われ恥ずかしい思いをしたぐらいだ。妄想も何も昨日異世界で勇者をしてきたのだが、信じてもらえないのでそれ以上何も言わなかった。魔法を使えば信じられるかもしれないがそれはしなかった。

 まぁ、これからもし何か人と違う部分が出てきたとしても親として支えていきたいと思っている。

 ちなみにエングランは私と同じ速度で老いていくように魔法で調整していた。そのため、子供たちはエングランの本来の見た目が若々しい二十代ほどであることを知らない。エングランは子供をそれなりに可愛がってはいるが、一番はどうしても私らしい。

 可愛い子供達に囲まれ、エングランに愛されながら過ごしていた私の終わりは案外早く来た。

 四十五歳で、病にかかった。

 流石に私も病には勝てない。エングランも炎を操る事は出来るが、病を治す力もない。エングランは大泣きしていた。

「エングラン、貴方に会えてよかったわ」

 もうすぐ、私は死ぬんだろうなという時に私はそう口にした。

 エングランが私を追いかけてくれてよかったと思う。こうして愛される喜びも幸せも全部、エングランが与えてくれたものだ。子供達に出会わせてくれたのもエングランがいたからだ。異世界に行く時も一人ではなく、エングランがいると心強かった。幾ら慣れているとはいっても、一人より二人の方が良かった。まぁ、この世界に来たからこそ本来のエングランの姿が見られなくて残念だったけど。

 子供達の養育費分ぐらいは、もう稼いでいる。私の生命保険も降りるだろうから、大丈夫だろう。子供たちがどんな大人になっていくかとか、そういうのを見られない事は残念だ。

 長男が今二十三歳、次男が二十一歳、長女と三男が十八歳、次女が十五歳、三女が十二歳、四女が八歳。泣いている子供達を見て、大泣きしているエングランを見て、私は幸せ者だと考えながら目を閉じた。



 神城真衣菜。享年四十五歳。ただし精神年齢は倍どころではないほど。―——の、人生は確かに閉じたはずだった。




 のだが。

 私はその後、神と名乗る者にあった。私は色んな世界で勇者や聖女として活躍し、力をつけた。そのため神になれるとか言われた。というか、「君の旦那さんが煩いから」とか言ってた。私の旦那であったエングランは、神に至るほどの力を持っているというか、ほとんど神に達しているらしい……。

 それで私が亡くなった事で大泣きしていて、煩くて、天界にまで影響があるのだとか。だからちゃっちゃと神にでもなって仲よくしたら? と提案された。

 しかし、私としてみれば幸せな満足のいく人生を送ったのだ。正直、神様とかになりたいとも思わない。なので拒否をした。……そしたら「じゃあ転生ね!」と送り出された。

 天界にまで影響があるとかどうたら言っていたのにえらく軽いなぁ、と驚いたものだ。

 軽いノリで送り出された私は気づけば赤ん坊だった。……何で前世の神城真衣菜の記憶ががっつりあるんですかね? という突っ込みをしたが、答えは帰ってこなかった。

 どうやら私の人生は、まだまだ続くようだ。




 ―—神城真衣菜の人生は終わらない。

 (そしてまだ彼女の人生は続く)



 


ジャンルを現実の恋愛にしているけど、このジャンル設定あっているんだろうかと悩んでます。


神城真衣菜

見た目は普通。ただし召喚体質で精神年齢はすさまじい事になってる。エングランと再会時の肉体年齢はニ十歳。

普通に戻っても死んでも召喚時の時間に戻る形だったため、エングランと出会った世界では老衰までいた。

神城真衣菜としての人生が終われば終わるだろうと思ったのに終わらなかった。神にはなる気はなかったので断ったら転生といわれた。人間のままがいい。記憶が持ったまま転生なのは、神とエングランの交渉の末。多分そのうち、転生先にまでエングランはやってくる。

ちなみに普通な見た目だが、神秘的な雰囲気でそれなりにもてていた。

三男四女を設け、神城真衣菜としての人生は幕を閉じた。


エングラン

とある異世界の火竜王。赤髪赤目の美形。作り物のような美しい見目だけど、しゃべったら台無し。

真衣菜の事が大好きでたまらない。異世界で六十過ぎていた見た目おばあちゃんの真衣菜に求婚するほど、真衣菜自身に惚れこんでた。

真衣菜が異世界で死んだ後、真衣菜の言葉を信じて必死に地球を探し出した。凄い執念である。再開した真衣菜が二十代の若い姿で可愛くて仕方がなかった。

真衣菜との子供だから子供の事は可愛がっていたが、一番は真衣菜。子供と真衣菜のどちらを取るかとなれば真衣菜を取る。子供たちはそんな父親の事を理解して、呆れていた。真衣菜への執念から神に至りそうになってる人。

本来の姿は巨大で美しい火竜。


子供達。

三男四女。二人の子供なのに、真衣菜が死ぬまでの間、驚くほど普通だった。その後は不明。

真衣菜がカマをかけた時には妄想していると信じなかった。母親が異世界に行きまくってるのも、父親が人間じゃないのも知らない。


ストーカーみたいに執着しているの書いていて好きです。ただ、無理やりは嫌いなので、受け入れてイチャイチャしているのが好きなので、こんな形になりました。




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