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初めての依頼

「うう……どうしてこうなっちゃうの……」


 クリスはギルドの宿のベッドの上で毛布にくるまりながら踞っていた。


 何故こうなっているのかというと――昨日のワイバーンの襲撃を一人で壊滅させたことによって有名になり、クリスを一目見ようとギルドに人が押し掛けているのである。

 暫く人と関わっていないクリスにとって、まさに地獄であった。

 なので、こうして部屋から出れず踞っているのだ。

 因みにこの部屋はクレアが此処にいるようにと用意してくれた部屋である。


 顔を隠してこっそり出ようと思ったが、この辺りで魔獣を従えてる冒険者がクリスしかいないのと、クリスの容姿と髪色が目立つため、カモフラージュも無意味。ほとぼりが覚めるまで待機するしかないのだ。


 因みにクユマルは力を使用して呑気にお昼寝中である。

 そんなクユマルを見たクリスは内心、「お気楽で羨ましいよ」と思っていると、コンコンっとドアをノックする音が聞こえた。


(誰だろう……まさか押し掛けとかじゃないよね……?)


 クリスは恐る恐るドアに手を掛けて、ゆっくり引くと、見覚えのある人物がいた。


「キャー! クリスちゃーん! 今日も可愛いねー!」

「ちょっ、クレアさん!?」



 その見覚えのある人物とは、このギルドの変態……じゃなくて受付嬢――クレアだった。

 クレアはドアを押し退けて、目の前にいるクリスに勢いよく抱きついて、頬をスリスリし始めた。

 そしてクリスを自分身に納めると、クレア満面の笑みをした。


 クリスはというと、急に抱きつかれてあたふたしていた。


『主が困っている。放しては貰えぬか?』

「……え?」


 いつの間にか起きたクユマルが念話でクレアに言うと、クレアは間抜けな声を上げ、驚きを露にした。


 クレアが驚いて、緩んだ隙にクリスはクレアから逃げ出すと、クユマルの背後に回った。

 といっても大きさ的に盾にすらなってはいないが。


「今……その魔獣から話しかけられた気がするんだけど……気のせい?」


 クレアはクリスに恐る恐る聞いてきた。

 流石にこの場に二人と一匹しかいない空間で、尚且つ、クリスとは別の声が聞こえたとなれば、騙せないと思ったクリスは「気のせいじゃないですよ」


 と一言返した。

そして匿ってくれたお礼を兼ねてクユマルの事を話すことにした。



 クレアは少しの間黙ると、


「凄いじゃない! 私達と同じ言葉を話せてワイバーンよりも強いとか――こんな魔獣は始めてみたわ! ――生きてて良かった……」

「……はい?」


 クレアは驚きから喜びに変わり、クユマルを大絶賛した。

 そして悪い方面を想像していたクリスは全くといって正反対な発言に間抜けな声を上げた。


「……はあ、それはどうもです……」

「それで、この魔獣はどこで手に入れたの!?」


 クレアは目を蘭々に輝かせながらクリスにグイグイと迫った。


「えっと……排水口から出てきて、ノリで名前を付けたら、誤って契約する形になったんです……」

「……排水口? 誤って契約……?」


 クレアは予想外な回答に、一瞬間が抜けてしまった。


『それでクレアとやらよ、何しにここに来た? 我が主とじゃれに来ただけではないのだろう? それと、我を魔物と呼ぶのはやめて欲しい。我にはクユマルという名があるのだ』


 クユマルは相変わらずといった感じのトーンでクレアに言う。


「あら、ごめんなさい。私としたことが……つい舞い上がってしまいましたわ……」


 クレアは自分自身に対してやれやれと呆れたように言うと、クリスに会う前の受付嬢として本来の顔つきになった。


「実は、クリスちゃんの実力を見込んで、頼みたいことがあるの」

「頼み事?」


 クリスはキョトンとしながら返した。

 そんなクリスを抱き締めたいという気持ちを抑えながらクレアは話を続ける。


「ええ。頼み事の内容なんだけど、この都市を東に行ったところに洞窟があるんだけど知ってる?」

「いえ、知りません。そこがどうかしたんですか?」


 クリスは知らない洞窟の話を持ち出され、気になって聞き返すと急にクレアは余り優れない顔つきになった。


「実はこの前、その洞窟を入ったAランクの冒険者がいたんだけど、帰ってこないの」


「え!? それって……」


 クリスは驚きを露にして声を上げた。


「恐らく、潜った洞窟で異変があった可能性があるの。これが低ランクの冒険者ならしくじって死んだのだろうと解釈できるけど、Aランクの冒険者となると、そうもいかないの」


 クレアは淡々と言うと、申し訳なさそうにしていた。

 本当は自分にとって愛着のあるクリスを行かせるのは不本意なのだろう。

 恐らく上からの命令でここに来たのだ。

 でなければ、クレアがクリスに頼むことはまずあり得ない。他の誰かに頼むだろう。

 それにいくら力があるとはいえ、クリスはまだ子供なのだ。

 大人としてこれをよしとしていいのだろうかと内心、自問自答してるに違いないと、クリスは思った。


 因みにクリスは初期のCランクの冒険者だ。

 一番上のランクでSSSとなっているため、中級以上の冒険者が失敗した依頼となっている。


「つまり、洞窟の調査って事ですよね? ――分かりました。お請けします」


 クリスはある程度悟った上で受けることにした。


「えっ!? いいの!? これはかなり危険な依頼よ!? 無理にいかなくても……」


 クレアはまさか了承されるとは思っておらず、狼狽した。


「はい、他にやることないですから」

「で、でも……」

「大丈夫ですよ、だって――〝私の使い魔は最強〟ですから」


 未だに迷ってるクレアを不安がらせないように、クリスは満面の笑みで言うと、クレアは少し考えると、


「分かりました。この依頼……クリスちゃんにお願いします。ですから……必ず生きて帰ってきてください」


 真面目な声で言った。


「はい、任せてください!」


 クリスは(ツルペタな)胸を張って答えた。


 こうしてクリスは洞窟の調査を受けることになった。

 流石に今から行くわけにも行かないため、出るのはニ日後となった。


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