ギルド加盟
クリスとクユマルは牢屋から逃げ出して、森の中腹部にて野宿していた。
正直あれだけ派手に壊して逃げ出し、尚且つ奴隷商人が近くに居たにも関わらずあの巨大化したクユマルに気づかないのは驚いた。
恐らく隠密行動に長けた能力を持っているのだろうと悟った。
クユマルは久々に力を使ったせいか、クリスの膝の上で眠っている。
そんなクユマルを見ると少しだけ笑みを溢したくなる。
したくてもクユマルの動きの速さで向かい風に当てられながらずっとしがみついていたため、疲労感が尋常では無ない。今にも眠りに入りたい気分だが、その前に考えておかなければならなかった。これからどうすべきかを。
何せ、今のクリスには行く宛が無いのだ。
クリスは少し考えて、取り敢えず町を探すことにした。といっても今は夜中なので探すのは夜が明けてからになるが。
(やっぱり私も寝るか……)
クリスは木に寄り掛かる。つい最近まで牢屋の床や壁に寄っ掛かりながら寝ていたせいかそのまま眠りに落ちることができた。
ただそれだけではなく、普通なら夜の森の中といったら魔物などの恐怖に見舞われるが、クユマルが居るという安心感からか気にはしなかった。
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次の日の朝。
「んんっー! 久々にゆっくり寝れたなぁ……」
両手を上に上げて体を伸ばしていると、
『起きたか、主よ』
どうやらクユマルはクリスが起きるのを待っていたようだ。
「おはよう、クユマル」
クリスは挨拶しながらクユマルを抱き上げ、頭を撫でた。
クリスはスキンシップを止めると、クユマルに聞いてみた。
「ねえ、クユマル? この辺りで一番近い都市ってどこ?」
『ここからだと、《ハルバドル》という都市が一番近い。一日歩けば着く距離にある筈だ』
と、クリスの質問にクユマルは答える。
「じゃあ、今日はその都市を目指すかぁ。クユマル、道案内お願い」
『承知した』
そう言うと、クユマルはクリスが乗れるくらいのサイズになった。そして二人はハルバドルへと向かった。
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ハルバドルの検問前までやって来た。クユマルに乗って来たせいか半日で着いてしまった。
半日といっても、つい最近開発された『タイムウォッチ』を確認すればわかることであり、人が住む街にはどこにでもる。そして一日は24時間で区切られている。
ハルバドルは水路と巨大な城壁に囲まれた大都市だ。
主な産業は頭を活性化させる分泌を含む飲料に使われる茶豆である。茶豆は赤い土のでしか栽培されないため、この都市の重要な収入源とも言える。
クリスは物珍しそうに城壁を見渡していると、検問前に立っている兵士がこちらにやって来た。
「そこの小娘! 入るなら通行料を払え」
クリスは硬直した。
「え? つうこうりょう?」
(どうしようどうしようどうしよう! 私お金なんて持ってない……)
気づけば顔が青ざめていた。
クリスはずっと村に住んでいたため、外のことは殆ど知らなかったのだ。
「どうした小娘? まさか無一文じゃあるまいな? ならここを通すわけには行かない。とっとと引き返すんだな」
検問前の兵士に強く言われ、クリスは力なく地面に付した。
「そんなあ……」
今から他のところを当たる力は殆ど残っていない。まさか入るだけでお金を必要とするとは思っていなかったのだ。
(私、何でここまでついて無いんだろう……)
クリス目が虚ろになりながら思った。
すると、頭から声が聞こえた。
『主よ、金なら我が持っているぞ』
と、クユマルが念話で言った。
するとクリス顔からみるみると光に変わり、
「本当に!?」
目を蘭々に輝かせながら、クユマルの両側をガシッと掴んで言った。
そしていきなりクユマルに叫びながら言ったせいか後ろの兵士がドン引きしてるのは気にしないでおこう。
だが、途中からクリスは疑問に思った。
「でも、どこにあるの?」
クユマルは見る限り手ぶらであった。
『ここにある』
クユマルはそう言いながら何もないところを引っ掻くように前足を下ろした。すると、なにもないはずのところから袋が出てきた。
『これを使え』
クリスはクユマルから袋を受けとり、中身を見ると大量の金貨があった。その中から1枚取り出して恐る恐る検問前の兵士に渡した。
「こ、これで大丈夫でしょうか?」
「あ、ああ、問題ない。通ってもいいぞ」
どうやら兵士の方もさっきの一部始終を見ていたらしく、少し意識が飛んでいた。
兵士からお釣りもらい、なんとかクリスはやっとのことでハルバドルに入れた。
『ところで主よ、入ったはいいが、先ずはどこに向かうつもりだ?』
小さくなったクユマルが入って早々に聞くと、
「うーん、先ずはギルドに加盟しようかな? 今は金貨があるからいいけどいつなくなるかわからないし、そのときの保険があった方がいいと思うしね」
クリスは軽く唸りながらもこれからの予定をクユマルに伝える。
クリスは無知の田舎娘ではあるが、親がギルドは都市に行けば必ずあると昔に話で聞いたので唯一知ってる冒険職に就こうとあらかじめ考えていたのだ。
『わかった』
そして二人はギルドに向かった。
場所は近くの住人に話を聞いてギルドはすぐに見つかった。
「へぇーここがギルドかあ、中々大きいね」
『そうだな』
都市のギルドなだけあって、大きさは直径百メートルに高さ三十メートルくらいの大きさだった。
中に入ると色んな種族が酒を飲んだり、依頼板を確認したり、受付をしたりしていた。
見た感じ、人間以外だと炭鉱属、#長耳族、獣人族、がいた。
クリスは周りをキョロキョロしながら受付前まで来た。すると、受付にいた女性に話しかけられた。
「あら、御嬢さん? もしかしてギルド加盟の希望者?」
見た目はスラッとした茶髪のボブヘアーのお姉さんだった。
「はい。えっとあなたは……」
クリスはいきなり声をかけられてビックリした。暫く一人でいたせいか余り対話にな慣れていなかったのである。
「あら、ごめんなさい、私としたこどが……私の名前はクレア=ヘンゲルよ、よろしくね、御嬢さん」
クレアはウィンクしながら自己紹介をした。
「あ、わ、私はクリスティーナ=レーベル……です。この子は私の使い魔のクユマルです……よろしくお願いします……」
クリスはぎこちなく自己紹介を返す。
「あらあら、礼儀がお上手な子。しかもその年で使い魔なんて珍しいわね。本当なら今すぐにでもお持ち帰りしたいわぁ……」
「ひっ!?」
クレアは軽くくねくねとした仕草を見せてハアハアと荒い呼吸をする。
クリスはクレアの冗談を真に受けて一歩引いてしまった。
「ごめんなさい、冗談よ。あ、危うく忘れるところだったわ。ギルドの加盟よね? ここに名前と年齢と成りたい職業を書いてね」
クリスはひとつ聞きなれない単語が聞こえた。
「職業ってなんですか?」
クリスは不思議そうに聞くと、
「あー、職業って言うのは『剣士』とか『槍士』、『魔法使い』、『魔獣使い』みたいなものね。クリスちゃんだっけ? 使い魔がいるなら『魔獣使い』になったら?」
クレアは例えを出しながら話、クユマルを指しながら『魔術使い』を進めてきた。
(確かに私にはクユマルがいるしそれでいいっか)
クリスはそういう職業クラスがあることを知ると、あっさりと決めた。
正直なところ剣も槍使えないし、まだ魔法すら習ってないことから消去法でそれ以外の選択肢はなかった。
「それでお願いします」
「了解、発行するから少し待ってて」
「はい!」
クレアはギルドカードを発行しに受付の後ろにある扉の向こうに行ってしまった。
「ねえ、クユマル。私達これから冒険者になるんだね」
『そうだな。それがどうした?』
「なんかこうして旅に出ると思うとなんかワクワクしない?」
『そういうものか?』
クユマルはクリスの言ってる意味がわからず首をかしげていた。
そんなクユマルに対してクリスは、
(もっと興味を持ってくれても……)
と内心で思い、軽く肩を落とす。
すると、受付にクレアが戻ってきた。
「はい、これがギルドカードね、必要事項とから書いてあるからちゃんと読んでおくこと、あと無くしたら再発行手数料でそこそこするから注意してね」
「はい!」
クレアが手短に説明するとクリスは嬉しそうに返事をした。
こうしてクリスは冒険者となった。
だが、冒険者になって浮かれていると、ドカァーンッ! と大きな物音が外から聞こえた。
ギルド内では「何があった!?」という騒ぎの声が聞こえる。
少しすると、一人の男が息を切らしながら入ってきた。
「た、大変だ! ワイバーンの群れが襲ってきやがった!」
それを聞いたギルドの全員の表情が絶望に変わった。
一匹の子狼を除いて。