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正体

「なにこれ? タトゥー?」


 クリスはまじまじといきなり刻まれたタトゥーを見る。


『それは我と契約した証だ』


 急に声がしてクリスは慌てて辺りを見回した。しかし、辺りには誰もいなかった。ここにいる一匹の魔物を除いて。


「もしかして……クユマル?」

『そうだ』


 声は届いているのにどうしても喋っている様には見えなかった。でも、良く良く考えてみたら耳から聞こえてる感じではなかった。そうなると、考えはひとつしかない。


「これって〝テレパシー〟ってやつだよね?」

『その通りだ』


 クリスの質問にクユマルは答えた。


「……あなた何者なの?」


 クリスは恐る恐る聞くと、


『我は古代の賢狼だ、今はこの姿だが、元の姿に戻ったら国1つくらい簡単に滅ぼすことも可能だ』


 クユマルは変わらない口調でクリスの疑問を返す。


「へぇ~そうなんだ~。国を一つ滅ぼせるん……ってはい?」


 クリスは言いかけたところで思考が一時的に停止した。


(今かなり怖いこと聞こえたんだけど……なに? 国1つなら滅ぼせる!? でも、元の姿って言ってるし、何か条件があるんだろうなあ……じゃなかったらあそこでお腹空かして倒れなんかしないだろうし……)


「ところでなんだけど、私達って今どんな関係なの?」


 クリスは素朴な疑問を聞く。


『我が使い魔でお前が我の主。ただそれだけだ』


 クユマルは質問に対してあっさりと返した。


「……え? それだけ?」

『それだけだ』


 クユマルの返しが余りにも簡単過ぎてクリスは唖然とし、そのあともいくつか質問をしたが、あまりにも簡潔すぎて釈然としない空気が漂うだけであった。


 質問の内容が尽きかけると、あることを思い付いた。


「じゃあ使い魔っていうなら、私のお願い聞いてくれるの?」

『我は主の使い魔だ。可能な範囲なら協力しよう』


 クリスは一拍置くとクユマルに向かって――



「私はここを抜け出して両親に復讐したい」



 と重々しく言った。


『フム、理由を聞いてもいいか? 主よ』


 そんなクリスの憎悪に塗れた願いに対してクユマルはそっけなく返す。


「別にいいけど、余りいい話じゃないから聞いてて面白くないと思うよ?」


 そう言いながらクリスは俯いてしまった。


『構わない、それにお互い隠し事が少ない方がシンクロ率が上がり、力を発揮しやすいのだ』

「そうなの? というかどういう意味?」

『使い魔というものは、主の力も必要だが、それと同じくらいに信頼関係も必要なのだ。まさか知らなかったのか、主よ?』


 クユマルは目を半開き状態にしながら軽く呆れたかのようにクリスに言う。

 それに対してクリスは誤魔化すかのように「ゴホンッ」と咳払いすると、何事もなかったかのように話を進める。


「まあ、信頼関係はともかくとして、私全く力無いよ?」


 クリスはそう言いながらスラッとした二の腕を見せた。


『物理的な力ではない。我を繋ぎ止めるだけの魔力のことだ。主は我を使役するだけの膨大な魔力がある。だから、我と契約が出来たのだ。そこら辺の奴が契約しても魔力不足で反発を受け死に至る』


 クユマルは先ほどからの変わらぬ口調で言った。


「そ、そうなんだ……」


(わ、私一歩間違えたら死んでたか……)


 クリスは内心で思いながら体をガクブルと震わせた。だが、あのまま弄ばれる人生でも死んでも悪くはないかと……と思った。


『主よ、そろそろ理由を聞いても良いか?』

「あ、そうだね!? じゃあ、話すね」


 急に脱線していたこと考えていたせいでビクッとしてしまった。

 それからクリスは今までのことを話した。遊ぶお金を手に入れるために両親がクリスを売ったこと、牢屋で死んでるのと変わらない時間を過ごしたこと、数日後に変態貴族に売られること。

クリスは話しているうちに感情が露になって行く。そして――


『そうか、話すだけで泣くほど辛かったのだな』

「え?」


 クリスはクユマルに言われて手で目元を触れた。すると指先に湿った感触があった。そしてまたあの事を思い出した。両親に売られた時の記憶を。そしたらまた涙が出てきた。


「う、うん……辛がっだ……気づいだら一人になって……ずっど……ずっど閉じ込められで……うっ、あんな変態貴族に……売られることになって……私……どうしたらわからなくなって……どうして私ばかりって……う、うわあああああん!!」



 クリスは泣きながらクユマルに抱きついた。


 少しして泣き止むと、袖で涙を脱ぐって深呼吸した。


「ごめんね、変なとこ見せちゃって」


『気にすることはない。辛いときは誰にだってある』

「クユマルにも?」

『だいぶ昔に遡れば無いこともないが、もう殆ど記憶にない。それで、先ずはどうするつもりだ?』


 クユマルは自分のことはいいと言わんばかりの勢いでクリスに尋ねる。


「うーん、やっぱりここから脱出かな? 私あんな変態貴族に売られたくないし」

『ならば我に命令するがいい』


 クユマルはいつでも行ける姿勢を見せると、クリスは一拍置いて命令をした。


「お願いクユマル、私をここから出して」

『承った』


 クリスはクユマルに命令すると、クユマルはみるみる大きくなっていった。そしてそのまま牢屋を壊した。


 クリスは大きくなった本来の姿のクユマルに目を奪われてしまった。巨大化したクユマルは月の光で白銀のように輝いており、それに見あった圧倒的な存在感を放っていたのだ。こんなのを見てしまったら誰しもがきっと見とれてしまうに違いない――そんな神々しさであった。


「す、凄い……」


 するとクユマルから


『何をしている、早く乗れ。我の姿を余り見られるわけにはいかん』

「あ、ごめん」


 そう言いながら、クリスは急いでクユマルの上に乗った。


『飛ばすぞ! 振り落とされないように捕まってろ!』

「う、うん? ってきゃああああ!!」


 クリスはクユマルのあまりの速さに思わず叫び声をあげる。

 そんなクリスを気にもとめず、そのまま牢屋から逃げ出した。



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