待望の第二話 ついに不動のケンタが動く・・・!
こうして15の夏は終わりを迎えた。私が元気モリモリ中学を退学したことは、幾らかの脚色が添えられたその原因と共に近隣住民に広まり、私は有名人となった。勿論ギャラは発生しない。他人の眼が怖くなった、まるで尻に球体を詰め込む魔物に怯えるような眼だ。「2丁目のキヤマ家のバカ息子が尻からピンポン玉を喰らい退学を喰らったそうだぞ。」「同級生に卑猥な行為を見せびらかすことが大好きな変態卓球部らしいねぇ。」罵詈雑言は日に日にエスカレート。今や意図せず外のヒグラシの鳴き声のリズムに乗じて、私の耳に流れ込む。蝉特有のスタッカートで何度も何度も。父は音に狂わされ静寂を求め家を飛び出し海へ、母は近所の森へ。気が付けば、私は一人になっていた。薄暗く、蝉と人の喧騒にまみれたこの座敷牢でただ、ほくろを数えていた。
だが、ほくろを数えていたばかりの15年ではない。私は我が人生を回顧していた。一人きりのダイニングであの日を思い出す。父と潮干狩りに行った日。ここから車で10分の浜辺へと行き、確かあの日はマテ貝を求めて日が沈むまで掘りに掘りつくした。待てど待てどマテ貝は現れず、時間は過ぎ、貧相なサワガニを拾って食べたあの日。砂が口に混じり、美味しいとは到底言えなかった。けれども、あの味は今でも忘れられない。
「サワガニをまた食べたい。」
私は輝かしき、懐かしきあの日に駆られ浜辺へと重い腰を上げた。
薄暗いリビングの中で中年のニュースキャスターの声が響く。
「本日未明、元気モリモリ海岸付近にて、一般アベックが速度を大幅超過した軽トラックに跳ね飛ばされました。二人は海岸線めがけ勢いよく射出された模様。警察は両者の安否および、容疑者のトラック運転手の行方を追って捜索しており、続報が入り次第随時こちらで報道させていただき・・・」
罪のない命の灯が消えたところで何が。と私は無関心だった。しかし、この海岸はこれからの目的地だ。
「全く大層なお出迎えだぜ。」
呆れつつも色の薄れたチェック柄のシャツを、臭いオーバーオールにドッキング。完璧だ。非の打ち所のない狩装束だ。さび付いた玄関の戸を蹴破り、父の倉庫を漁る。私は十数年前に持参したサワガニ採集キットを手に、立てかけてあったリアカーを引く。さあ今日は豊作だ。
元気モリモリ海岸に沈みゆく夕日を仰ぎ、私はサワガニを求め歩を進めた。