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第九章 3



「――はーい。それじゃあ、キノコ料理はしばらく禁止ということで、作戦会議をはまじめす」


 ダンジョン突入の準備を整えた九郎が、三人娘に淡々と言った――。



 結局、ゲリと腹痛が治ったのは夜になってからだった。


 動いてないのに体力の限界を超えていた四人はもう一泊して、

 翌朝の七時過ぎに宿屋を出発。


 馬車を飛ばし、中央階段樹に駆けつけて、分厚い布をみんなで運び、

 やたら幅が広いらせん階段に腰を下ろす。


 そして、まだ少し顔色が青い仲間たちを見渡しながら、

 九郎はミーティングを開始した。



「えー、それじゃあ、もう一度言うけど、作戦会議をはまじめす。まずは、この天冥樹の構造についての説明だ。


 天冥樹の直径はおよそ十キロ。

 内部フロアの直径はおよそ八キロ。

 床から天井までの高さはだいたい一五〇メートル。

 

 しかし、今いる一階の高さだけは二五〇メートルらしい。

 そして中央階段樹の直径は一キロで、らせん階段の幅は五十メートルだ。


 それで、オレたちは今からこの階段を使って地下二十八階まで一気に降りる。何しろ突然のゲリで二十四時間もロスしたからな。はっきり言って時間ギリギリどころか、もはやほとんどアウトに近い。こうなったらもう、勢いに任せて図書神殿に突っ込んで、速攻で石板をゲットして脱出する。それ以外に、オレが生き残れる道はない。こいつはかなりデンジャラスな突撃になるが、みんなもそのつもりでかかってくれ」


「おうっ!」


「でもクロさん。階段を一気に降りると言っても、相当な時間がかかりますよね?」


 不意にクサリンが片手を上げて九郎に言った。


「ああ、そうだな。クサリンの言いたいことはよく分かる。往復の移動時間が気になるってことだろ? それはオレも気になって、さっき、ざっと計算してみた」


 言いながら、九郎は手にした小枝で階段に数字を刻んでいく。


「宿屋の主人にも確認したんだが、一つのフロアの高さは一五〇メートルだけど、床の厚さが一〇〇メートルほどあるらしい。ということは、一階分の実質的な高さは二五〇メートルということになる。


 さらに、このらせん階段の直径と傾斜角から、一階分を降りるのに必要な距離を計算してみると、およそ五〇〇メートルだった。つまり、ここから地下二十八階までは、十四キロの距離ということになる。


 大人の足は時速四キロだから、だいたい四時間から五時間ほどだ。そうすると、往復だけで十時間。さらに途中でモンスターに襲われたら、その何倍もの時間がかかる。はっきり言って、もうこの時点で絶望的だ。そこで――こいつの出番になる」


 九郎は脇に置いた大きな布を手で叩く。


 するとクサリンが小首をかしげて質問する。


「昨日から気になっていたんですけど、その布はなんですかぁ?」



「これはパラシュートだ」



「ぱらしゅーと?」



 三人娘は、ほぼ同時に首をひねった。



「いわゆる落下傘だ。布で作ったカサにつかまって、高いところから飛び降りるんだ。そうすると、タンポポの綿毛みたいにふわふわと落ちる。それを繰り返して地下二十八階まで行けば、普通に階段を降りるよりも時間の節約になるし、体力の消耗も防げるからな」


「はあ……布のカサで、飛び降りるんですかぁ……」


 クサリンは困惑顔でぽつりと呟く。

 オーラとコツメも釈然としない顔でお互いに目線を交わしている。


 三人の様子に、九郎は頬をかきながら言葉を続ける。


「まあ、いきなり言われてもイメージが湧かないだろうから、あとで実際にやってみせるよ。それでとりあえず、地下二十八階まで移動する。そしたら、中央階段樹から見て北西に位置する図書神殿の前まで、パラシュートで降下する。そのまま正面入口から中に入ってまっすぐ進めば、神殿中央の大広間に出るはずだ。そこの祭壇に置いてある改ざんの石板をゲットしたら、すぐに引き返す。以後、本作戦は『ブックス・テンプル・アサルト作戦』、通称『ブックル作戦』と呼称する。――何か質問はあるか?」


 九郎が目を向けると、三人は一斉に手を上げた。


「おうっ! 行く途中でモンスターが出たらどうするんだ?」

「みんなで倒す。はい、他には?」


「神殿に罠があったらどうしますかぁ?」

「みんなでのり切る。はい、他には?」


「うむ。神殿にお宝があったらどうする」

「みんなで一八〇秒だけ漁って持ち帰る。よし、もう質問はないな」


 九郎は一方的に即答して立ち上がる。


 オーラとコツメとクサリンも腰を上げてパラシュートを抱え上げる。


 四人はすぐさま、らせん階段を歩いて降りて、

 地下一階の天井付近で足を止めた。


 そして、剣士と薬師と暗殺者は九郎の説明を受けながら、

 何とかパラシュートを装着して、ほっと一息。



 直後――九郎に背中を蹴り飛ばされ、三人は悲鳴を上げながら落ちていった。




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