第九章 2
「――あ……ありえねぇ……」
宿屋の部屋に戻った九郎は、ふらふらと歩いてベッドに倒れ込んだ――。
十五時間前――。
天冥樹一階の酒場で、名物のキノコ料理を堪能した九郎たちは、
宿屋『キノコダケ亭』に宿泊した。
すると、深夜になって突然、猛烈な腹痛に襲われた。
ベッドから跳ね起きた四人は、
青い顔で目を白黒させながらトイレにダッシュ。
しかし、一度や二度や、三度、四度と往復しても、腹痛は一向に収まらない。
そこでクサリンが激痛に耐えながら死力を振り絞って薬を調合。
おかげで痛みはかなり緩和したが、それでもなお、
朝の七時になっても、八時を過ぎても、腹の具合は治らない。
そしてとうとうお昼を過ぎた時――。
九郎は顔面を絶望の色に染めながら、
隣のベッドで動きを止めているクサリンに声をかけた。
「なぁ……クサリン……」
「は……はひ……」
「この……ダムが決壊したようなゲリの嵐と腹痛は、いったい何が原因なんだ……」
「たぶん……昨日のキノコ料理に、毒キノコが混ざっていたんだと思いまふぅ……」
部屋の中にはベッドが四つあり、左右の壁際に二つずつ並んでいる。
そのうちの隣合ったベッドの上で、九郎とクサリンの枯れた声が静かに漂う。
「そうか……。ということは、やっぱりあの、辛みそ炒めのせいだな……。あんなに真っ赤で辛い料理だと、いくらクサリンでも、毒キノコに気づけるはずがないもんな……」
「はひ……。たぶん……そうだと思いまふぅ……」
「だよな……」
九郎はベッドに横になったまま、わずかに首を上げて部屋の中を見渡した。
隣のクサリンはもちろん、
向かいのベッドで身動き一つしないオーラとコツメも、
げっそりとした青い顔でうめき声を上げている。
「うーむ……。それにしても……美少女四人がゲリピーで動けなくなるとは……やはり現実は厳しいぜ……。おい……オーラとコツメはどうだ……。まだ生きてるか……」
「おう……。あたしはもう、ダメかも知れない……」
「うむ……。自分もこれは……さすがに苦しゅい……」
ベッドに倒れた赤毛と黒髪は、片手をわずかに上げて答える。
「だけど、クサリンの薬のおかげで、十時間前よりはだいぶ楽になっただろ……。この調子だと、夕方までには回復するはずだから、それまで耐えるんだ……。それと、水分はちゃんととっておけよ……」
「おう……」
「はひ……」
「苦しゅい……」
九郎の言葉に、三人娘は蚊の鳴くような声で返事をした。
そして四人は、そのまま夜まで動きを止めた。