第七章 4
「――はーい、それじゃあ、二人とも。準備はいいか?」
図書館前の広場で足を止めた九郎が、背後に立つ二人に声をかけた――。
ガインの協力を取り付けた九郎は、民兵ギルド会館に駆け込み、
情報収集の依頼を追加した。
それからすぐにクリアの邸宅を訪れ、護衛の騎士を一人連れ出し、
さらに魔法ギルド会館の男性職員に協力を要請。
二つ返事で引き受けてくれたメガネの職員と騎士を引き連れた九郎は、
昼下がりの青空の下、石造りの大きな図書館前で足を止める。
そして二人を振り返り、作戦の概要を説明した。
「――とまあ、そんな感じで、二人はオレの後ろに立っていてくれればいいから。そしてオレが誰かと話を始めたら、肯定するようにうんうんとうなずいてくれ」
「それはもちろん、かまわないのだが……」
銀色のフルプレートアーマーを装備した若い騎士が、
鉄カブトを被った顔を困惑に歪ませた。
「街の中で、こんな完全武装をする必要があるのか? これではまるで戦争をしに行くみたいではないか」
「ハッタリだよ、ハッタリ」
九郎は騎士の鎧を軽く叩いてニヤリと笑う。
以前、九郎たちに金貨五十枚を届けた金髪の騎士は、
カブトの上から頭をかいた。
「つまり、私は小道具ということか」
「はっきり言えば、そういうことだ。オレが一人で行くよりも、完全武装の騎士がいると言葉の重みがまるで違うからな。とにかく、キッシーはオレの後ろで偉そうにふんぞり返っていてくれ」
「誰がキッシーだ。私にはカール・ノキシンという立派な名前があるのだぞ」
「私は昨日と同じように、メガネさんでかまいませんよ」
カールの隣に立つメガネの男性職員が、にこりと微笑んだ。
立派なこげ茶色のローブをまとった職員は、
メガネのツルを指で押し上げながらさらに言う。
「とにかく、私たちは桃色さんの背後に控えて、威厳を醸し出していればいいということですね?」
「そうそう。二人には、何があっても落ち着き払っていてほしい。すべての責任は皇帝陛下が取ってくれるから、何も心配せずにどーんとかまえていてくれ」
「やれやれ……。桃色殿にはかなわないな」
若い騎士は、半分呆れ顔で小さくため息。
メガネの職員は笑顔のまま肩をすくめる。
「私は別にかまいませんよ。今日はハロウィンだから、窓口も暇でしたからね」
「よーし。それじゃあ、時間もそろそろいい頃合いだし、ブラション作戦を始めるぞー」
九郎は肩を回して風を切り、颯爽と振り返る。
そして、広い石畳の広場をまっすぐ突っ切り、
二階建ての大きな図書館に向かっていった。