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第七章 2



「――クロウさんって、本当に変わった女の子ですねぇ」


 九郎の背中を見送ったミルが、くすくすと笑いながらマスターに話しかけた。



「そうだな。あの桃色娘はサザランの常識をまったく知らないから、考え方が俺たちとは根本的に違うんだろ」


「そうですねぇ。常識知らずは無知で愚かと言いますけど、あの子から見たら、私たちの方が無知で愚かに見えるのかも知れませんからねぇ」


「それはないだろ。女のくせに、女に抱きついて鼻の下を伸ばすヤツなんか、まともな人間とは思えないからな」


「うふふ。あれにはたしかに驚きました。まさかこの私を慰めるだなんて、本当に面白い子。ナバロンさんも、そう思いませんか?」


 ミルは軽く微笑みながら、九郎が残したポテトチップを一枚食べる。


 マスターは皮を剥いたじゃがいもをブリキのボウルに落とし、

 ポテトチップを指でさす。


「面白いかどうかはよく分からんが、そいつの作り方を格安で教えてくれたからな。そんなに悪いヤツじゃないとは思う。どっちかって言うと、あれはお人好しのたぐいだな」


「たしかに、陛下を殺さなかったことについては、お人好しという感じですね。でも、勘は鋭いように見えました。もしかすると、私のことにも、何か気づいたかも知れません」



「それもないだろ」



 ナバロンは首を大きく横に振る。



「あいつは、この辺のことにはかなり疎い。ただでさえエクエスエミルを知っている人間なんてそうはいないのに、あいつが何かに気づくはずがないだろ」


「だけどナバロンさん。あの子はナバロンさんが特別な軍人ということに気づいたじゃないですか」


「そりゃ、おまえ……」


 くすくすと笑われたナバロンは、バツが悪そうに顔を背ける。


「あんなヘマは二度としねぇよ」


「冗談ですよ、ナバロンさん。酒場のマスターさんに、ウェイトレスが意地悪するわけないじゃないですか」


「まったく……。昔は人形みたいに無口だったくせに、ずいぶんとやんちゃに育ったもんだな。あの桃色娘より意地の悪い看板娘なんて、カンベンしてくれ。店が潰れたらシャレにならんからな」


「はーい、もっちろんでぇーす」


 ミルは明るい声で返事をしながら席を立ち、エプロンを整える。


「私はいつでも、真面目な働き者ですからねぇ。お酒を運んで料理を運んで、おしとやかに微笑んでみせますでぇーす」


「何だよ、みせますですって」


「てへへぇ。――あ、このポテトチップ、片付けちゃいますねぇ」


 ミルは言って、カップとお椀をお盆にのせる。


 そしてポテトチップをかじりながら、のんびりと厨房に足を向けた。




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