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第四章 12



「……ナンジャコリャ」


 九郎は呆気に取られて呟いた。



 するとコツメが、小太刀を鞘に戻しながら口を開く。


「うむ。なかなか見事な腕前だったな」


「なかなか見事って……おまえ、何でそんなにのんきなんだよ」


「あの赤フードたちなら心配いらない。こちらには殺意を向けていない」


「殺意がない? だからおまえ、さっきは途中で攻撃をやめたのか?」


「そういうことだ」



「――お、おいっ! クロウっ!」



 不意にオーラが声を上げた。


 九郎が反射的に振り向くと、オーラが崖の方を指さしている。

 見ると、赤ローブの人物が崖から飛び降りて落下していた。



「ンなっ!? なにぃーっ!?」



 赤ローブは地響きを立てて谷底に降り立った。

 そしてすぐに、九郎たちの方へとゆっくり歩み寄ってくる。


(お……おいおい、何なんだ、あの赤フードは……。この崖って四十メートルぐらいあるのに何で平気なんだ? あいつはいったい、どこの英霊だ……?)


 九郎は思わず絶句した。


 その時不意に、金属製の弓を持つ人物がフードを脱ぎながら声を発した。



「……どうやら間に合ったみたいだな。おまえがいるなんて驚いたぞ、クサリン」



「――えっ!? もしかして……チャッタさん!?」



 クサリンは驚愕して目を見開いた。

 しかしすぐに顔を輝かせながら、弓の男に駆け寄って抱きついた。


「獣の断末魔が気になって来てみたんだが、どうやら正解だったみたいだな」


「はぁい。すっごくたすかりましたぁ。そんな赤いローブなんか着ているから、盗賊かと思ったじゃないですかぁ」


 クサリンは褐色の肌の中年男性に頭をなでられ、涙を浮かべながら喜んでいる。



「……お、おい、クサリン。その人たちは、おまえの知り合いなのか?」


「はぁい。三人とも、わたしの大先輩ですぅ」


「なん……だと? 先輩っておまえ、それじゃあまさか、その三人が、先に山に入ったベテラン薬師たちなのか……?」


 九郎は目を丸くしながら、クサリンのそばに立ち並んだ三人を見た。



 一人は首筋まで伸びた黒髪に、褐色の肌を持つ細身の男。

 魔法を使ったのは、氷のような透明感のある青白い肌に、

 長い金色の髪を持つ若い女。

 そして、崖から飛び降りて歩いてきたのは、

 ダークグレーの短髪に灰色の肌を持つ、筋骨隆々の中年男性だ。


 三人とも背が高く、特に崖の上で大きな両手剣を振り回した人物は、

 見上げるほどの大男だった。



「そうなんです。えっと、こちらの弓を持っている人がチャッタさんで、魔法を使ったのがシャルスさんで、大きな剣を持っているのがバルサクさんです。三人とも、すっごく腕のいい薬師なんです」


(すっごく腕のいい決戦兵器の間違いだろ……)


 赤ローブの三人に囲まれて嬉しそうに微笑んでいるクサリンを、

 九郎はわずかにじっとりとした目つきで見た。


 するとクサリンが、ほんの少し頬を膨らませてチャッタに言う。


「もう、チャッタさん。どうして何日も連絡してくれなかったんですかぁ? みんな、すっごく心配してたんですよぉ?」


(ちょっと待て。こんな鬼のように強い三人を心配する方がおかしいだろ)


 九郎は薬師たちの輪を見ながら軽く牙を剥いた。


(というか、こいつらマジで薬師なのか? この星じゃ薬師が最強なのか? たった三人で盗賊六十人を三分クッキングって、ステータスの設定が完全におかしいだろ。こんなん、薬師がいたら民兵ギルドなんかいらねーじゃねーか。自称古株のガヨクのおっさんなんて、こいつらと比べたら生きていてごめんなさいレベルだろ。マジで何なんだ、こいつらは。やっぱあれか? 傭兵なんかより、堅実な職業を選ぶヤツの方がスペックが高いってことか? というかこいつら、オレの代わりに魔王を討伐してくんねーかなぁ……)


 九郎が上目づかいで三人の薬師たちを値踏みしていると、

 チャッタが落ち着いた声でクサリンに答える。


「……そうか。心配をかけて悪かったな。実はガマの油を採る前に、この辺の盗賊について情報を集めてみたんだよ。そしたら、この山の周辺には、盗賊が三千人ほど住み着いていたことが分かったんだ」



「さっ!? 三千だとぉぅっ!?」



 思わず声を張り上げた九郎に、チャッタが穏やかな目を向ける。


「ああ、実際はもっといるはずだ。何しろ盗賊の正体は、アルバカン王国の軍人崩れだからな」


「なに? アルバカンの軍人?」


「そうだ。サザランとの戦闘で負けた兵士たちは散り散りに逃げて、そのまま盗賊になる奴が多いんだ。しかも先日の王都爆発で王を失い、軍隊は自然消滅。行き場をなくした元軍人たちが、徒党を組んで盗賊になった。そして、この山の近くに住み着いていたってわけだ」


「なるほど、ただの盗賊にしてはずいぶん戦術的に攻撃してくると思ったけど、そういうことだったのか……。元軍人なら、あれぐらいの知恵はあって当然だからな」



「――そうだ。だからこそ、奴らの存在は許し難い」



 不意に灰色の肌のバルサクが、低い声を響かせた。


「奴らは元軍人だから戦闘に長けている。その知識と経験を使い、一般人を襲っていた。そのせいで、この近くの集落は壊滅状態だ。奴らはただの盗賊とは比べ物にならないほどたちが悪い」


「だから、私たちはガマの油を集める前に、盗賊への対処を優先したの」


 バルサクの言葉を継ぐように、金髪のシャルスが形のよい唇を動かした。


「まずは、ふもとの集落を占拠していた盗賊たちを取り除いて、それから少しずつ山を登りながら盗賊を探して排除してきたの。それで、この付近一帯の掃除が終わったから、ガマの油を採りに来たの。そしたら突然ガマザウルスの断末魔が響いたから、急いで駆けつけてきたってわけ」


「なるほど。そういうことでしたか……」


(……ということは、こいつらはたったの三人で三千人の盗賊を、見敵必殺のサーチ・アンド・デストロイしてきたってわけか。うーむ、やばいな、薬師。マジで半端じゃない。というか、パないな、薬師。こんなワンマンアーミーの無双キャラが三人もいるんなら、民兵ギルドなんかじゃなく、薬師グループに入るべきだったぜ……。くそ。オレに時間を巻き戻す能力があれば、すぐにでもリセットしてやり直したいところだが、あいにくここはフィクションの世界じゃないからな。だったら普通に現実世界の常識として、強いヤツには礼儀正しく接しておくのが、長生きのコツってもんだろ……)


 九郎は三人の薬師に向かって、丁寧に頭を下げた。


「とりあえず、あなたたちのおかげで、オレたちは助かりました。本当にありがとうございました」


「いやいや、こちらの方こそ礼を言わせてもらうよ」


 チャッタは九郎を見つめて、微笑みながら口を開く。


「そこの崖まで来た時に少しだけ見たけど、君はずっとクサリンをかばっていたからね。俺たちの仲間を守ってくれて本当にありがとう。……だけど、君たちはどうしてクサリンと一緒にいるんだい?」


「あっ、それは、わたしがお願いしたんですぅ。実は――」



 クサリンが口を挟み、これまでの経緯を簡単に説明した。



「――そうか。つまり俺たちが連絡を入れなかったせいで、クサリンはここに来たというわけか。それは悪いことをしたな」


 話を聞いたチャッタが、申し訳なさそうに顔を曇らせた。


「だけど今の話だと、ガマの油はもう手に入れたんだな。しかもガマザウルスまで倒したなんてすごいじゃないか。クサリン、よく頑張ったな」


「いえ……。わたしは結局、岩を落とす前に盗賊に捕まっちゃったので、何もできませんでした……」


「だから、それはオレのミスだって言っただろ? クサリンが気にすることないって」


 悲しそうにうつむいたクサリンの小さな肩に、九郎がそっと手を置いた。


 すると横にいたシャルスが、白い指で九郎の髪に軽く触れた。


「ふーん、あなた、なかなかいい子じゃない。それにこの髪、とっても珍しいわね。桃色の髪なんて初めて見たけど、あなた、いったいどこの出身なの?」


「ああ、いやいや」


 九郎は慌てて手を横に振った。


「オレの国にも、ナチュラルボーンで桃色の髪なんかいないから」


「あら、そうなの? だったらあなたは、とびきり珍しいってわけね。でも、ほんと、何なのかしら? 赤毛の突然変異?」


「いや、突然変異ってわけじゃないから。むしろ突然生まれたというか、人体錬成の失敗作というか、妄想と現実がコラボしたというか……まあ、ちょっと複雑な事情があるんです」


「あら、そうなの? だけどまあ、複雑な事情ぐらい誰にだってあるわよね。それよりこの髪、一本もらっていいかしら?」


 シャルスは返事を聞く前に、髪を二、三本引っこ抜いた。


「いてて……」


 九郎は頭皮を軽く押さえながら一歩離れる。

 そして、赤ローブの薬師たちを改めて見つめながら口を開く。


「えっと、実はオレ、その複雑な事情のせいで、サザランの魔王を二十日以内に倒さなくちゃいけないんです。それで、いきなりで申し訳ないんですが、皆さんの力を貸してもらえないでしょうか」


 その瞬間、チャッタとシャルスはきょとんとまばたき、

 バルサクは口をへの字に固く結んだ。


「実はここにいる三人にも、魔王討伐に協力してもらっているんです。それで、皆さんみたいに強い人が仲間にいれば、誰にもケガをさせずに済むと思うんです。だから是非、魔王討伐を手伝ってもらえないでしょうか」



「悪いが、断る」



 九郎が口を閉じたとたん、バルサクが淡々と言った。


「俺は以前、とある国の軍人だった。だから、サザランの魔王、つまりサザラン帝国の皇帝に害をなすと、俺がいた国に迷惑がかかる。だから協力することは出来ない」


「そうですか。それなら仕方がありませんね……」


「私もちょっと手伝えないわね。悪いけど」


 残念そうに呟いた九郎に、シャルスも断りの言葉を口にする。


「私も今は、あまり目立つことはしたくないのよ。名もない盗賊ならまだしも、サザランの皇帝を倒すとなると、どうしても悪目立ちしちゃうでしょ? だから、ごめんなさいね。えっと……?」


「ああ、すいません、九郎です。オレは九郎って言います」


「そう、クロウさんね。ごめんね、クロウさん」


「いえ。こちらこそ、不躾ぶしつけなことを言ってすいませんでした」


 九郎は軽く頭を下げて謝った。


 すると不意に、チャッタが気軽な口調で言ってきた。



「えっと、俺でよかったら手伝うよ?」



「……え?」



 その瞬間、九郎の口がぽかんと開いた。



「いや、だからさ、俺でよければサザランの皇帝を倒すの、手伝うけど」


「……え? うそ? マジっすか?」


「ああ、もちろん本気だ」


「よかったですねっ! クロさんっ!」


 朗らかな笑みを浮かべるチャッタの横で、クサリンが喜びの声を上げた。


「君は――じゃなくて、クロウさんは、クサリンを守ろうとしていたからね。どんな事情があるのかは知らないけど、悪い人間じゃないのは一目で分かった。まあ、サザランの皇帝も、魔王と呼ばれるほど悪い人物ではないんだが、彼はアルバカンと戦争を始めて、多くの人の命を奪ったからな。だったら誰かに倒されても文句は言えないはずだし、俺も、彼に遠慮するところは何もない。だから、俺でよかったら手伝うよ」



(いいいよっしゃあぁーっっ! 激レアキャラゲットだぜぇーっ!)



 言われたとたん、九郎は神妙な顔つきのまま、心の中で快哉を叫んだ。


(うっひょーっ! やったやったぁーっ! これで勝つるっ! も一度言うけど、これで勝つるっ! この褐色肌の戦闘民族は、コツメとタメを張るぐらい近接戦闘が強いくせに、弓がもうっ! マジでレーザービームじゃねぇのか? ってぐらいあり得ないほどやばいからなっ! はっきり言って、この細身の中年アーチャー様がいればもう何も怖くないっ! むしろオレがいらないっ! あとはすべて任せてオレは宿屋で待っていたいっ! というか待っていますっ! だがしかぁーしっ!)


 九郎はオーラとコツメとクサリンを、横目でちらりと見て気を引き締めた。


(気をつけろっ! こういうチャンスの時こそピンチが来るのが世の定めっ! このアーチャーをオレの独断で勝手に仲間にしたら、他のヤツらがすねてゴネるに決まってるっ! ラノベやアニメじゃ大鉄板の展開だっ! だからオレはそのフラグを叩き折るっ! そしてこの、最終兵器ジェントル薬師を魔王暗殺に送り出すっ! あとはのんびり果報を寝て待つっ! ぶらりぶらりと足の向くまま気の向くままっ! 中世ファンタジーライフを満喫だぁーっ! 仲間とともに街から街を渡り歩きっ! 腹が減ったらよさげな店でメシを食うっ! 美少女四人で中世グルメの食レポだぁーっ! そのためにはまずっ! バカと腹黒と黒マジメの説得工作にぃぃぃ――ズぅームっ・インっっ!)


 九郎は心臓を激しく拍動させながら、チャッタに向かって口を開く。


「あのぉ、えっと、すみません、チャッタさん。ちょっとだけ仲間たちと相談してきますので、このまま少しだけ待っていてくだしあ」


「え? くだしあ?」


「ああ、すみません。ちょっと勝利の予感に心が震えて噛まままま。じゃなくて、噛みました。そういうわけで、少々お待ちくだしあ」


「ああ、もちろんかまわないよ」


 チャッタは微笑みながら快く首を縦に振る。

 その横でシャルスはくすくすと笑い出し、バルサクもわずかに頬を緩めている。


 九郎は一つ頭を下げて、すぐさまクサリンを抱き上げた。

 そして後ろにいるオーラとコツメの所まで走り、声を潜めて話かける。



「……みんな。ちょっと相談があるんだが、いいか?」

「……おう」

「……はい」

「……苦しゅうない」


「……ちょっと返事のおかしいヤツが一人いるが、まあいいだろう。とにかく、聞いてのとおり、オレはあの薬師の皮をかぶった魔人どもに、仲間にならないかと誘ってしまった」

「……おう」

「……はい」

「……苦しゅうない」


「……そしたらなんと、一番欲しかったアーチャーが食いつきやがった。できればバーサーカーとキャスターも欲しかったが、この際それは仕方がない」

「……おう?」

「……はい?」

「……苦しゅうない?」


「……そこでだ。知ってのとおり、このパーティーは女性限定だ。しかし、あのアーチャーには妖精さまがくっついている。だからみんなに、あいつを仲間にすることに賛成かどうかを確認したい。各自『イエス』か『おう』か『はい』か『苦しゅうない』で答えてくれ」

「……おう??」

「……はい??」

「……苦しゅうない??」


「……よし、全員賛成だな。それじゃあ、満場一致であいつを仲間にすることが可決された。文句はないな? あっても聞かん。それじゃあ四人全員で、あいつを仲間に迎え入れるぞ。みんなで一列に並んで『よろしく頼む』と礼儀正しく言ってやるんだ。くれぐれもいつもの調子で、『なめてんじゃねーぞ』とか『ひざまずいて靴を舐めろ』なんて言うんじゃないぞ? 分かったな?」

「……おうっ」

「……はいっ」

「……苦しゅうない」


「ぃよぉーしっ! それじゃあみんなっ! 整列だっ!」



 九郎の号令で四人は足並みそろえて歩き出し、

 チャッタの前に横一列で並び立った。



「――お。話し合いはもう済んだのかな?」


「はい」


 九郎は爽やかな笑みを浮かべてチャッタに言う。


「オレたちは満場一致で、チャッタさんを仲間に迎え入れたいと思います。魔王を倒すまで、どうかよろしくお願いします」


「おうっ! よろしくなっ!」

「チャッタさん。よろしくお願いしますですぅ~」

「うむ。苦しゅうない」


 オーラもクサリンも微笑みながら声をかける。

 コツメは淡々とした顔で、右手の親指を下に向けた。


 若い少女たちに挨拶されたチャッタは、照れくさそうに頬をかいた。


「いやぁ、そんなふうに改まって言われると、ちょっと照れくさいな。だけど、分かった。それじゃあ、みんな。これからよろ――」


 その時不意に、チャッタの声が途中で止まった。



「――って、うん? 何だ、これは……?」



 チャッタは目を見開き、自分の両手を見下ろした。



「え……? チャッタさん?」



 九郎も呆然と目を丸くした。


 いつの間にか、チャッタの全身が光に包まれていた。



 朝焼けの空から唐突に降り注いだ銀色の光――。



 それが、赤いローブをまとった体を完全に包み込んでいる。

 頭の先からつま先まで、体の各所から光の粒子が緩やかに立ち昇り、

 柔らかな煌めきを放っている。



 銀に輝くチャッタの姿を、

 その場にいる全員が、口をぽかんと開けて見つめている。



「まさか、この光はもしかして……」


 褐色の肌の弓使いが、自分を見下ろしながら呟いた。



 直後――チャッタの体が一瞬で、空の彼方に飛んでいった。



 九郎たちはさらに大きく口を開けて、青い空の果てに呆然と目を向けた。



「……えっと、シャルスさん」



 少しして、九郎がぽつりと声をかけた。


「今のアレって、もしかして、アレですかねぇ……」


「えっ? ああ、そうね」


 訊かれてシャルスは、はっと気を取り直した。


「たしかに、今のアレは、おそらくアレね。クロウさんはアレを知っているの?」


「ええ、まあ、そうっすね。今のアレが、あのアレなら、たぶん知ってます。というか、めっちゃよく知ってます。アレのせいで、今のオレはアレになったというか、アレがなくなったというか、アレがアレして、いろいろアレする羽目になってしまいましたから」


「おい、クロウ。今のはいったい何なんだ? そのアレって、いったい何の話だよ」


「そうですよ、クロさん。そのアレって、なんのことですかぁ?」


 オーラとクサリンが、虚ろな顔で空を眺めながら訊いてきた。


「アレって言うのは、もちろんアレだよ」


 九郎も呆気に取られたまま二人に答える。


「チャッタさんの体を覆ったのは、召喚の儀式で発生する光の柱だ。おそらく別の大陸にいるアホンダラな大賢者が、英雄召喚の大魔法を使ったんだろ。チャッタさんはその光の柱に選ばれて、強制的に連れていかれたんだ」


「そうに違いない」


 バルサクも気の抜けた顔で空を見上げながら話し出す。


「俺も見たのは初めてだが、チャッタから聞いたことがある。あいつはこれで三度目の召喚だ。だからあいつはさっき、それほど驚いていなかった」



「アー、ヤッパリソウッスカー」



 九郎が脱力した声を漏らした。


「まあ、たしかにあの人、めっちゃ強かったっすからねー。しかも性格はお人好しで、サザランの魔王を倒すことにも抵抗ゼロという鋼のメンタリティときたら、そりゃあもう、英雄召喚でも引っ張りダコに決まってますよねー」


 言った直後、オーラとクサリンとコツメが、ほぼ同時に首を傾けた。


「……なあ、クロウ。そうすると、あいつはあたしたちの仲間になれないんじゃないのか?」

「ソウデスネ」


「……クロさん。チャッタさんは、どこか遠くにいっちゃったんですねぇ」

「ソーデスネ」


「……おい、クロ。あいつはもう、諦めろん」

「ソッスネー」



 九郎は魂が抜けたような顔で淡々と答えた。



 そして不意に、青い空を見ながらふらふらと歩き出し、

 小さな岩に右足をのせた。


 すると、コツメとオーラとクサリンも九郎の横に並び立ち、

 同じように右足を岩にのせる。


 それから四人は空の彼方をまっすぐ見上げ、静かに息を吸い込んだ。


 そして、九郎が言うなと言った禁止ワードを、口をそろえて呟いた。



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