第四章 6
「――ンなっ!?」
九郎は目の前に現れた相手を見て絶句した。
黒装束に、黒い仮面。
それに上着とズボンとブーツには、不気味な魔円と魔言が描かれている。
腰には小太刀。
二の腕と太ももには細い鉄の串を装備している。
黄昏の風になびく長い黒髪の人物は、
路地裏で九郎の前に立ち塞がった相手に間違いなかった。
(なっ!? なんでこいつがこんなところにっ!? まさかオレを追ってきたのかっ!? それじゃあコツメは、こいつにやられちまったのかっ!?)
九郎はさらに後ろに下がり、クサリンをかばいながら声を飛ばす。
「オーラっ! 動けるかっ!?」
「おぉっ!」
既に立ち上がっていたオーラが気合いを放つ。
しかし、膝はまだがくがくと震えている。
(くそっ! まだダメかっ!)
九郎はクサリンの細い腕をつかんでオーラの方に押し出した。
「オーラを頼むっ!」
「はっ、はいっ」
クサリンはオーラに駆け寄って体を支えた。
九郎はとっさに火のついた薪を拾い上げ、黒装束にまっすぐ向けた。
そのままじりじりと移動して、二人をかばう体勢をとる。
(……この黒いヤツは間違いなく強い。しかも今は、オーラが全力で戦えない。ならばやはりオレが戦って傷を受けて、それをクサリンのハトバクであいつに返す。勝ち目はそれしかないな……)
九郎は瞬時に覚悟を決めた。
そして薪を強く握りしめながら、足を一歩、前に踏み出す。
直後――黒装束の人物が仮面を脱いだ。
「――おまえたちは、いったい何をやっている」
「……えっ?」
その瞬間、九郎は呆然と薪を落とした。
「お……おまえ……コツメじゃないか」
「当たり前だ。ローブを脱いでくると言っただろ。何をそんなに驚いている」
片手で仮面を取ったコツメが、首をかしげながら三人を順に見渡す。
その姿に、九郎もオーラもクサリンも、ぽかんと口を開けていた。
「おまえたち、急にどうした。口をそんなに大きく開けて、ちょっとおかしいぞ」
コツメは九郎が落とした薪を拾い、たき火の中に放り込む。
それから元の石に戻って腰を下ろし、固まったままの三人に目を向ける。
「……あ、ああ、いやいやいやいや、ちょっと待て」
九郎は親指と人さし指で眉間のしわをぎゅっとつまんだ。
「あー、そうだな……。こういう場合、まずはやはり、確認が必要だな。同じ仮面をかぶっていたからといって、同一人物とは限らないし、人違いだという可能性も微粒子レベルで存在するからな。そういうわけで、クサリンとオーラ。おまえらもとりあえず腰を下ろせ。そして、気合いを入れてリラックスしろ」
「お、おう、分かった」
「は、はい」
二人はきょとんとしたまま石に座る。
それから九郎はコツメを見つめて問いただす。
「よし。それじゃあ、コツメ。ちょっと質問があるんだが、怒ったりしないから正直に答えてくれ」
「ふむ。いいだろう」
「それじゃあ訊くが、おまえまさか、オレのパーティーメンバー募集に応募してきたヤツらを、片っ端から襲って倒して、植え込みに放り投げたりなんかしていないよな?」
「した」
「したのかよっっ!」
九郎はあっさりうなずいたコツメの胸ぐらをつかみ上げた。
「ざっけんじゃねぇぞコラぁーっ! 何でそんなことをしたのか言ってみろぉっっ!」
「怒らないと言ったのに、なぜ怒っている」
「怒ってねぇよっ! もぉぜんぜん怒ってねぇっつのっっ! これはオレのジャスティスだっっ! いいからさっさと答えやがれっっ!」
「そんなことは決まっている。クロの面倒を見るためだ。あのヒーラーに、そう頼まれたからな」
「はぁっ!? あのヒーラーってケイさんのことかぁっ!?」
「うむ、そうだ」
「なんじゃそりゃ!? なんでオレの面倒を見ることが、応募者をボコることにつながるんだよ!?」
「簡単な理屈だ。あれしきのことで諦めるようなヤツは、何の役にも立たないからだ」
「はあっ!? もう一度言うけど、はあっ!? おまえマジでなに言ってんの!? なに言っちゃってくれてんの!? つまりあれか!? 応募者の根性を試すためにボコったってことなのか!?」
「うむ。そういうことだ」
コツメはこくりとうなずいた。
「以前にも言っただろう。行動が結果に結びつかなかった時に不貞腐れるような人間は、最初から何もせずに死んだ方がいい」
「おまえ言ってることがめちゃくちゃだぞっ! 結果を阻んだのはおまえじゃねぇかっ! おまえが邪魔しなければ、応募してきた四十人は不貞腐れなくて済んだじゃねぇかっ!」
「いや、それは違う」
胸元をつかむ九郎の手を引き離し、コツメは静かに言葉を続ける。
「相手がサザランの皇帝に限らず、誰かを倒すには強い意志が必要だ。しかし、一度や二度の敗北で諦めるような人間がパーティーにいると、弱気の心が蔓延する。それが一人や二人ならまだしも、三人を超えるとパーティーは瓦解する。クロは、少女をおぶって家まで送るほど面倒見がいい。だからきっと、心が折れたパーティーメンバーを見捨てることができない」
「な……何だよ、そりゃ……。だからおまえが、事前に根性をチェックしたっていうのかよ」
「そういうことだ。オーラはそれほど強くないが、心は折れない。クサリンも、盗賊団のいる山に一人で立ち向かう強さを持っている。その二人なら、肉の壁としてじゅうぶんに使えるはずだ」
「いや、肉の壁にしちゃダメだろ……」
九郎は一つ息を吐き出し、元の場所に戻って座る。
「まったく……。おまえと話していると調子が狂うぜ……。それじゃあ、昨日の夜のアレは何だよ。何でおまえが、あの路地裏にいたんだよ」
「クロが二人の男に尾行されていたから様子を見ていた。それだけだ」
「二人の男って、メイレスと殺人コックか。なるほどな。それじゃあ、オレがあいつらから逃げたあとはどうなったんだ?」
「別に何も。コック服の男は壁をよじ登って逃げていった。二刀流の男は、クロが警備兵の詰め所に駆け込むと、どこかに去った」
「そうか。それじゃあ、最後に一番大事なことを聞かせてもらおうか」
九郎はいったん口を閉じた。
そして、これ以上ないほど真剣な表情を浮かべて訊いた。
「……おまえまさか、オレの全裸洗濯をのぞいてなんかいないよな?」
「勝手に服を脱いだのはそっちだ」
「やっぱりおまえかぁーっっ! このヤロぉーっっ!」
澄ました顔でしれっと白状したコツメに、
九郎は限界まで顔を近づけてにらみつけた。
「おうこらテメー。なにヒトの全裸を勝手に見てんだよ? 次やったらマジで石ぶつけっぞ、コノヤロー」
「クロの腕前では、自分に当てることはできない。それに、おまえが石を投げたのは別のヤツだ」
「なに?」
九郎は、はっと息を飲んだ。
「おいおい、ちょっと待てよ。それじゃああそこには、おまえ以外にも誰かがいたって言うのか?」
「うむ。自分以外に二人いた。昨夜の男たちとは別のヤツだ」
「うお、マジかよ。いったいどこのどいつだ? あんな悪趣味なのぞきをするヤツは」
「分からない」
コツメは首を横に振る。
「一人は完全に素人だったが、もう一人はかなりの腕前だ。二人とも、街からずっとクロのことを尾行していた」
「嘘だろ……。カブキモノと殺人コックの他に、二人もストーカーがいるのかよ……」
九郎は再び石に腰を下ろし、大きなため息を吐いた。
「……まあ、これで話はだいたい分かった。かなりの精神的被害は被ったが、おまえに悪気がないってことは理解できたから、これ以上は何も言わない。だけどな、おまえにボコられた二人がどう思うかは別だ」
言って、九郎はオーラとクサリンに目を向ける。
「――どうする、おまえら? このエクストリームな生真面目アサシンを砂にして、朝までハングドマンにするなら手伝うぞ?」
訊かれたとたん、二人はお互いに顔を見合わせた。
そしてすぐに、オーラが軽く肩をすくめながら口を開く。
「いや、あたしはいいや。たしかに弱気なヤツがパーティーにいると、雰囲気が悪くなってグダグダになるからな。そういうヤツってのは、何か上手くいかないことがあると
『元々無理があったんだ』
とか、
『人にはできることと、できないことがあるんだよ』
とか、すぐに説教じみた弱音を吐くから、あたしも大嫌いだ。コツメはそういうヤツらを取り除こうとしたんだろ? だったらあたしも賛成だ。さっきまではムカついてたけど、今はもう怒っちゃいない。むしろちょっと、胸がすっとしたぐらいだ」
「わたしもです」
オーラに続き、クサリンも九郎を見つめてうなずいた。
「あの時は、わけもわからずにいきなりボコボコにされたからすごくこわかったけど、理由がわかれば納得できました。それにケガだって思ったほどひどくなかったし、コツメさんみたいな強い人が仲間にいると安心なので、わたしも今日のところは袋叩きにしようとは思いません」
「うん? ちょっと待て。今日のところはっておまえ、いつかは仕返しするってことか?」
「うふふ、クロさんって面白いことをいいますねぇ~。わたしがそんなことするはずないじゃないですかぁ~」
唐突にクサリンはにっこり微笑み、あざとらしく小首をかしげた。
(……いや、こいつはする。間違いなく復讐する。こいつには、『やらない』と言っておきながら、あっさりやってのける凄みがある……)
九郎は頬を引きつらせながら目を逸らした。
そしてそのままコツメを見た。
「ま……まあ、そういうわけだ。二人とも許してくれてよかったな」
「さて。自分は自分の仕事をしたまでだ。許してもらう必要なぞない。しかし、無用な争いを避けられたのなら、そのことには感謝してもいいと、思わなくもなくもない」
「素直じゃねぇなぁ……」
九郎は呆れ顔で一つため息。
それからコツメの服を指でさす。
「それよりおまえ、その服装はいったい何だ? 何だかやたら不気味なデザインだが、そういうのが暗殺者の格好なのか?」
「これか? これは自分の故郷に伝わる紫緋装束だ」
「しのひしょうぞく……?」
「そうだ」
コツメは、黒い上着の胸元に描かれている魔円と魔言を指で叩く。
「この緋色の模様は、念じると紫色に変化させることができる。紫と緋の色だから、紫緋装束という。敵に恐怖を与えたい時は、血の色を連想させる緋色。隠れて行動したい時は、黒に近い紫色にして目立たないようにする。それと、この模様自体にも、見る者の認識を阻害する効果がある」
「なるほど。だから髪型や背格好が同じでも、すぐにおまえだと分からなかったわけか。それはもう、『しのひ』と言うより『シノビ』だな」
「当然だ。自分の一族は、シノビの一派だからな」
「え、マジで? 冗談で言ったのに、この星にもシノビなんているのかよ」
「うむ。もちろんいるぞ」
答えながら、コツメは静かに立ち上がった。
「それよりクロ。そろそろ自分の魔法を見せてやろう」
「おっ、そうだったな。それじゃ、オーラが言っていた素早い動きってヤツを見せてもらおうか」
「うむ、いいだろう。辺りがだいぶ暗くなってきたから、自分の足下をよく見ておくといい。――スバラン」
言われてすぐに、九郎とオーラとクサリンはコツメの足に目を向けた。
すると黒いショートブーツの周囲に、
黒っぽい紫色の魔法陣が浮かび上がっている。
夜だと気づけないほどの、暗い紫色だ。
「いくぞ」
呟いた直後――コツメは風のように走り出した。
三十歩先の大木まで一瞬で駆け抜け、木の幹を垂直に駆け上がる。
さらに樹上の枝を素早く走る。
次から次へと隣の大木に飛び移っていく。
その姿は、もはや黒い風そのものだ。
そうしてたき火の周囲を大きく一周。
すぐに木の幹を駆け下り、元の場所に戻ってきた。
その間、九郎たちはぽかんと口を開けていた。
あまりの速さに目が追いつかなかった。
首を一周させる前に戻ってきたコツメに対し、すぐには言葉が出てこない。
「す……すごいです、コツメさん!」
少しして、クサリンが大きな目を輝かせながらコツメを見つめた。
「早すぎて、ぜんぜん目で追えませんでしたぁ」
「おうっ! すごいなコツメ! あたしとやり合った時よりも早くてびっくりしたぞ!」
オーラも瞳の中に尊敬の念をにじませながら声を上げた。
「いや。自分はヒトより少し早く走れるだけだ。別に大したことではない」
コツメは淡々と言いながら、ブーツのつま先で地面に「の」の字を描いている。
(こいつまさか、照れているのか……?)
増えていく「の」の字を見ながら九郎はそう思ったが、黙っていた。
そしてコツメを見上げて口を開く。
「いやいや、そんなに謙遜しなくてもいいだろ。おまえの魔法はかなりすごい。スキルリセットができるなら、オレもマジでその魔法を覚えたいぐらいだからな」
「うむ。クロの魔法はまったく使えない。そう思うのは当然だ」
「うるせー。ほっとけーき」
澄まし顔で石に座ったコツメに九郎は歯を剥き、それからオーラに顔を向けた。
「さて。それじゃあ次はおまえだけど、体はもう動くのか?」
「おうっ! バッチリよっ!」
オーラは元気いっぱいに立ち上がった、
すぐさま腰の剣を鞘ごと抜いて振り回す。
そして、足下に置いていた太い薪を手に取り、頭上高く放り上げた。
「よーく見てろよぉっ! これがあたしの魔法だぁーっ!」
オーラは頭上をにらみながら剣を構える。
そして剣を握る手の周囲に赤い魔法陣を浮かばせながら、
落ちてきた薪を真上に殴り飛ばした。
瞬間――薪が真っ赤な炎を噴き出した。
紅蓮に燃える薪は赤い尾を引きながら、
紫に染まる宵の空に打ち上がっていく。
そしてすぐに落下して、オーラの足下に転がった。
「おおーっ! すげぇーっ! 炎系の魔法かよっ!」
「オーラさんにぴったりの魔法ですねぇ」
地面で燃える薪を見て、九郎とクサリンが感心した声を上げた。
オーラは赤い剣を振り回し、自慢げにポーズを決めた。
「おうっ! 今のは攻撃した相手を燃やす炎熱魔法の『バッカー』だっ! どうだ、すごいだろっ!」
「ほほう、なるほど。火を出して敵に当てるのではなく、叩いた敵に火をつける追加攻撃タイプか。それなら手を止めずに攻撃できるから、近接戦闘にはもってこいの魔法ってわけだな。オーラ、おまえ、頭は悪いのに、魔法の選択は意外と堅実じゃないか」
「おう。あたしは頭が悪いからな。お師匠に選んでもらったんだ」
「ま、そんなこったろうとは思ったけどな」
にっかりと笑ったオーラに、九郎は微笑みながら肩をすくめた。
そしてふと、赤い剣を指さしながら首をかしげた。
「だけどおまえ、どうしてその剣を使わないんだ? 鞘から抜いたところを一度も見たことがないんだけど」
「おう、そりゃそうだろ。だってこれは、絶対に抜けない魔剣だからな」
「なんっ……だとぉぅ……!?」
その瞬間、九郎の眉がピクリと跳ね上がった。
オーラは自慢げに剣を掲げ、さらに声を張り上げる。
「にゃっはっはぁーっ! これは魔剣デスポポスっ! 誰であろうと絶対に鞘から抜くことができない、呪われた魔剣だぁーっ!」
「おいこらテメー。ちょっと待てや、オーラさん」
九郎はいきなりにらみつけながらオーラに近づき、赤い剣を両手でつかんだ。
「テメー、なに言っちゃってくれてんの? 絶対に抜けない魔剣だと? なんだそりゃ? オレが仲間にしたのは剣士であって、バッターじゃねーんだよ。あんまふざけたこと言ってんじゃねーぞコラ」
言って、オーラから魔剣を奪う。
そして長い柄を地面に突き刺し、十字型の鍔を足で踏みつけ、
全力で鞘を引っ張った。
しかし、赤い鞘はまったく抜けない。
背筋力を全開に伸ばしても、ぴくりとも動かない。
「うっだぁーっっ! なんじゃこりゃぁーっっ! 鞘から抜けない剣なんて、戦闘でなんの役に立つんじゃボケぇーっっ! こんなのただの鈍器じゃねーかぁっっ!」
「――あんだと、ゴラ」
九郎が声を張り上げて剣を放り投げた瞬間――オーラの目に殺気が走った。
さらに赤毛の剣士は九郎の襟元をわしづかみにし、
軽々と持ち上げてにらみつける。
「……なあ、おい、クロウ。あたしのデスポポスちゃんは剣なんだよ。立派な魔剣ちゃんなんだよ。それを鈍器だと? おまえいま鈍器って言ったのか? それはあたしのデスポポスちゃんに対する侮辱だよな? ってことは、つまりあれか? ヒトの大事なモンを侮辱するってことは、死ぬ覚悟があるってことだよなぁ? 死ぬ覚悟があるってことは、殺されても文句言わねぇってことだよなぁ? あぁ? だったら一度死んでみるか? 一度死んでみたいんだよなぁ? 一度プチっとイってみたいんだよなぁ? あぁん?」
「す……すんませんっした……」
オーラの瞳は暗黒の炎に燃えていた。
まるで地獄の鬼を思わせる圧倒的な迫力に、
九郎の顔面から大量の汗が噴き出した。
「ほ……ほんと、マジですんませんっした……。ま……まだ、プチっとはイきたくないっす……。どんどんどんどん、鈍器……鈍器って言って、マジさーせんっした……」
九郎はガクガクと震えながら謝罪した。
血の気が失せた青い顔を、オーラは憤怒の形相で静かに見据えている。
しかし、いきなりにっかり笑うと襟からぱっと手を離し、
元気いっぱいに笑い飛ばした。
「おうっ! そうかっ! だったら許すっ! あたしはもちろん、心が広いからなっ! にゃっはっはっはっはっはっはぁーっ!」
オーラは赤い魔剣を拾って腰に戻し、
燃えて転がった薪をたき火の中に放り込んだ。
(……こ、怖い、ちょー怖かった。こいつ、マジで怖かった……)
九郎はローブの襟を整えながら、石の上に腰を下ろした。
(……何なんだ、あの地獄の炎のような目は。なんつーか、暗い闇の深淵を、マジでのぞきこんだ気分だぜ……。バカを怒らせると怖いって聞いたことがあるけど、あれはどうやらマジだったな……)
九郎は額に浮かんだ冷たい汗を、手の甲でゆっくり拭い取る。
するとクサリンとコツメが、声を潜めて言ってきた。
「……大丈夫ですか、クロさん。どうやらあの赤い魔剣は、オーラさんの逆鱗だったみたいですねぇ」
「よくやったぞ、クロ。人柱おつ」
「……ああ。どうやらあの魔剣は、オーラにとっては相当大事なものらしい。おまえらも、あの剣をバカにするのはやめておいた方がいいぞ。それとコツメ。おまえ、ほんとは地球人だろ」
言って、九郎は一つ息を吐き出す。
(……やれやれ。よくもまあ、これだけ性格の濃いヤツらがそろったもんだ。暗黒のガチ切れファイアー魔剣士に、腹黒ミドリの毒ロリ薬師。それに、黒マジメな暗殺者か……。まったく。どいつも第一印象は悪くなかったし、顔もかなり可愛いのに、中身はずいぶんと痛々しいじゃねーか……。というか、ふと思いついた異名のすべてに『黒』が入っているって、いったいどういうガールズパーティーだよ……)
呆れ半分。
諦め半分。
九郎は複雑な表情で、首をわずかに横に振る。
それからゆっくりと顔を上げた。
とっくに陽が沈んだ黒い空には、星がまたたき、黄色い月が昇っている。
「……いい月だ。どうやら明日も、晴れそうだな」
小さく呟き、頬を緩める。
それからすぐに、四人で食事の準備に取り掛かった。
今夜のメニューは焼肉だった。