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第四章 2



「――へぇ、ここが薬師の寄り合い所か。何だかすごいな」


 木造の大きな建物を見上げて、九郎は感嘆の声を漏らした――。



 ラッシュの街の東側に位置するその建物は、

 石造りの街には珍しく、完全な木造建築だった。


 小さな噴水のある前庭にはレンガ造りの花壇が並び、

 赤や紫、白や黒やオレンジの、小さな花が咲き乱れている。



「……何というか、洒落た学校みたいな感じだな」


 赤レンガの遊歩道を歩きながら九郎が呟くと、

 前を進むオーラがくるりと振り返った。


「へぇ、クロウは学校に行ったことがあるんだ」


「そりゃもちろんあるけど、この辺じゃ、学校に通うヤツは少ないのか?」


「いや、少ないというか、学校自体がないからな」


「だったらみんな、どうやって文字や計算を覚えるんだ?」


「そういうのは、魔法ギルドの職員が教えてるんだ。どこの村や街にも、大抵一人は魔法の先生がいるからな」


「ああ、なるほど、そういう仕組みか」


 九郎は得心顔で一つうなずく。


「たしかに魔法の先生が、魔法も勉強も一緒に教えた方が効率はいいな。つまりこの星では、魔法ギルドが文部科学省みたいなもんか。だけど、学校もまったくないってわけじゃないんだろ?」


「おう。ここよりでかい街にはあると思うぞ。だけど学校に行けるのは、金持ちか貴族のヤツらだけだからな」


「ふーん、なるほどねぇ。それじゃあもしかして、この薬師の寄り合い所は、新米の薬師に薬の専門知識を教える場所とかにもなっているのか?」


「そうらしいぞ。だいたいどこのギルドもそういうもんだからな。金融ギルドは金の扱い方を教えるし、ベーカリーギルドはパンの焼き方を教えるし、民兵ギルドは戦い方を教えるからな」


「ほほう。つまりギルドは、専門学校の役割を担っているってことか。それはかなり効率的なシステムだな。たぶん文化の形成過程で、自然発生的にそういう形に発達したんだろ。ある意味こういう社会こそが、人間にとって一番暮らしやすい世界なのかもな」


「悪いけど、あたしにはそういう話はさっぱりだ」


 オーラはにっかり笑って建物の入口に駆けていく。


「ほら、クロウ。さっさと中に入ろうぜ」


「そうだな」


 九郎も足を速めてオーラを追った。



 正面入口のドアを開けると、中は広いロビーになっていた。

 

 ロビーは二階まで吹き抜けの造りで、奥には受付カウンター、

 左右にはテーブル席がいくつも並んでいる。

 頑丈な木の床に、木を丸ごと使った太い柱。

 あちこちに鉢植えの花と観葉植物が置かれていて、

 爽やかな緑の香りが漂っている。



「へぇ。けっこう人がいるんだな」


 ロビーを見渡すと、テーブル席は半分以上埋まっていた。


 壁の掲示板には人が集まり、受付には二、三人が並んでいる。

 ほとんど全員が緑色のローブを羽織り、手にはこげ茶色の手袋をはめている。

 男性よりも女性の方が圧倒的に多い。

 民兵ギルド会館より雰囲気はかなり和やかだ。



「――あっ! クロウ! いたぞ! あいつだ!」



「えっ?」


 いきなりオーラが走り出した。

 

 九郎は反射的に視線を向ける。

 すると、壁際に立つ人物が目に入った。

 オーラは大きな荷物を床に置いた人物の前で足を止め、振り返って声を上げる。


「――クロウ、こいつだよ! こいつに間違いない!」


「こいつって……え? マジで?」


 小走りで駆けつけた九郎は、きょとんとまばたきをした。


 その人物の背丈は、オーラより頭一つ分以上も低かった。

 緑色の髪の頭が、九郎のアゴに届くか届かないかほどの小柄な女の子だ。


 いきなり見知らぬ二人組に囲まれた女の子は、

 頭の左右で結った小さな房を揺らしながら、

 オーラと九郎を交互に見上げている。



「あ……あのぉ、わたしになにかご用でしょうかぁ……?」



 困惑した表情を浮かべた女の子が、九郎におずおずと訊いてきた。


「ああ、いや、その……」


 九郎も軽く戸惑いながら、女の子に目を落とす。


 緑色のローブと上着とズボンには、こげ茶色の魔言と木の刺繍が施されている。

 ブーツと手袋も、他の薬師たちと同じ、こげ茶色の革製だ。


(うーん……どう見ても十歳前後の子どもだけど、一応、薬師の格好だよな……)


 九郎は少し迷いながら、ゆっくりと口を開く。


「えっと、オレは九郎って言うんだが、キミに少し確認したいことがあって来たんだけど」


「えっ? それじゃあ、あなたが女性限定パーティーを募集した方ですかぁ?」


 女の子は九郎を見上げて、ぱちくりとまばたいた。


「ああ、実はそうなんだ。だけど、正体不明の黒いヤツが応募者を襲ったことを、昨日まで知らなかったんだよ。それで、キミが噴水広場にいたって聞いて会いに来たんだけど、ケガとかしなかったか?」


「そ……それはぁ……」


 女の子は急に自分の体を抱きしめて、小刻みに震え始めた。


「し……しましたぁ……。ものすごくぼこぼこにされて、植え込みに投げ捨てられましたぁ……。あ……あの人こわい……。すごくこわかったですぅ……」


(あちゃぁ……。こりゃあ、かなりトラウマになってるな……)


 九郎は腰を屈め、女の子の頭をなでた。


「ごめんな。オレのせいで、怖い思いをさせたみたいで」



「いえ、大丈夫ですぅ……。あのときの痛みは、いつかかならず倍返ししますから」



「そ、そうか……」


(ぬぅ。見た目に反して、中身はけっこう肉食系かも……)


 いきなり小さなこぶしを握りしめた女の子を見て、

 九郎はわずかにたじろぎながら言葉を続ける。


「えっと、それでちょっと訊きたいことがあるんだけど、キミはもしかして、傷を治せる魔法とかって使えるのかな?」


「えっ? 傷ですか?」


「そうそう。切り傷とか骨折とか、できれば致命傷も治せるとありがたいんだけど。実はパーティーメンバーがまだ一人しかいなくて、傷を治せる仲間を探しているところなんだ」


「ああ、そういうことですかぁ」


 女の子は急にほっと息を吐き出した。


「それなら一応、答えは『はい』です。ちょっと特殊な条件が必要になりますけど、どんな傷でも、とりあえず元に戻すことはできます」


「えっ? どんな傷でもって、マジで?」


「はぁい。わたしの魔法はヒールとは違うので、使い勝手はあまりよくありませんけど」


「へぇ、ヒールじゃなくても、傷が治せる魔法があるのか。そいつはすごいな」



「――どうだ、クロウ。あたしの言ったとおりだろ」



 不意にオーラが自慢げに胸を張った。


「まあな。たしかにおまえの目は正しかったみたいだ。グッジョブだ」


 九郎はオーラに親指を立てた。

 そしてすぐに女の子に話しかける。


「えっと、それじゃあキミ。突然で何だけど、オレのパーティーに入ってくれないか?」


「えっ? パーティーですか?」


「そうそう。噴水広場に来てくれたってことは、少しは興味があったってことだろ?」


「えっとぉ、それはそのぉ……」


 女の子は急にそわそわと目を泳がせた。


「すみません……。実はわたし、ちょっと急ぎの仕事があるんですぅ。だからその、噴水広場にいったのは、もしかしたら手伝っていただけるかなぁと思っただけだったので……」


「ああ、なるほど、そういうことか。オーケーオーケー。たしかに、仲間になったら目的を手伝うって条件だったからな。オレにできることなら何でも協力するから、とりあえず、その仕事とやらの話を聞かせてもらおうか」


「あっ、でもわたし、今からすぐに出かけないといけないから、本当に時間がないんですぅ……」


「まあまあ、そう言わずに。話なんて、けっこうすぐに終わるから」


 言って、九郎は腰を屈め、女の子を真正面から抱き上げた。



「えっ? えっ?」



 女の子は呆気に取られて、口をぽかんと大きく開けた。


 九郎はかまわずさっさと歩き、近くのテーブル席に女の子を座らせる。

 オーラもすぐに、女の子の荷物を持って木のベンチに腰を下ろした。


「はうぅ……。それじゃあ、仕方ありませんねぇ……」


 女の子は肩を落として息を吐き出した。

 そして、向かいに座った九郎とオーラを交互に見ながら口を開く。


「えっとぉ、それじゃあ、改めまして、わたしの名前はクサリンです。クサリンといいます。年は十三歳です。普段は山や森から薬草や毒草を採ってきて、お薬や毒を作る薬師のお仕事をしています」


「そうか、クサリンか。オレはさっきも言ったが、九郎だ」


 九郎も自分を指さしながら自己紹介を始める。


「つい最近まではごく普通のサラリーマンで、今はファンタジーライフの住人だ。当面の目的は、三週間以内にサザランの魔王を倒すこと。昨日の夜から二人の凄腕暗殺者と、殺人コックに命を狙われている人気者だ。ま、見てのとおり、見た目は美少女、頭脳はおっさん、声の中身はお姉さんって感じだが、気にすると負けだから、その辺はいろいろとスルーしてくれ」


「……えっ? あのぉ、えっとぉ……なんだかいろいろと気になるんですが、とりあえずその、『はんたずぃらいふ』ってなんですかぁ?」


「ああ、『はんたずぃ』じゃなくて、ファンタジーな。ファンタジーライフってのは、簡単に言うと


 ――転生した黒服姉ちゃんの口車にのせられて、腕が四本あるやたらでかいボスを倒したり、馬車や象に乗って交易したり、朝の五時五十分に変身したり、定期的に繰り返される釣りイベントで宝石とポーションを釣り上げて、季節ごとに新しいコスチュームとペットにお布施を払って自己満足に浸る――


 そんな、おとぎ話のような世界のことだ」


 九郎はこれ以上ないほど真剣な眼差しで言い切った。


 そのとたん、クサリンも真顔で首を傾けた。


「は……はあ、そうなんですかぁ。なんのことだかよくわかりませんでしたけど、ずいぶんと忙しそうな世界なんですねぇ」


「いやいや、そんなに忙しいことはないぞ。その世界で生きる住人のほとんどは、友達がイチゴ畑のカンスト戦士ばかりだからな」


「はあ、イチゴ農家さんが多いんですかぁ……」


「ま、そんな感じだ。それよりクサリン。こっちの赤いジャケットの赤毛が、オレのパーティーメンバー第一号だ」


 九郎が指さすと、オーラはにっかり笑って口を開いた。



「おう、あたしがオーラだ。よろしくな、クッソリン」



 その瞬間――クサリンはオーラを見据えて微笑んだ。



 同時に緑のローブの前を開き、

 腰に装着していた小箱から金属製の容器を素早く引き抜く。

 長さが人差し指ほどの薄いケースだ。

 ケースを傾けると、小さな手のひらに黒紫色の粉が三角に積もる。

 クサリンはその粉を口元に近づけ、オーラに向けてふっと吹きかけた。



「――ぶわっ! ぶほっ! ぺっぺっ! いきなり何すんだよ、クソリン……って、はれ?」



 粉を思い切り吸い込んだオーラは、慌てて顔の前を手で払った。

 直後、いきなり動きがぴたりと止まり、ベンチから転げ落ちた。



「えっ!? お、おいっ! オーラっ! 急にどうしたっ!?」



 九郎は慌ててベンチをまたぎ、オーラの顔をのぞき込む。

 

 しかしオーラは目を開けたまま、

 ぴくぴくと体をケイレンさせるだけで何も答えない。


「大丈夫ですよ、クロさん。今のは、ただのしびれ薬ですからぁ」



「えっ? しびれ薬?」



 テーブルをゆっくり回り込んで来たクサリンが、九郎に向かって微笑んだ。

 そしてすぐにしゃがみ込み、オーラの頬に細いケースをぐりぐりと押し付けた。


「初めまして、オーラさぁん。わたしの名前はクサリンでぇす。クサリンともうしまぁす。クサリンでぇす。クサリンでぇす。クサリン、クサリン、クサ・クサ・クサ・クサ、クサ・クサ・クサ・クサ、クサリンでぇす。クサリンでぇす。クサリンでぇす。よろしくおねがいしますね、オーラさぁん。もう一度いい間違えたら、今度はもうちょっと強いお薬で、本気でコロコロしちゃいますよぉ? いいですかぁ? いいですねぇ? とりあえず動けるようになったら速攻で土下座して、ブーツをなめてくださいねぇ?」


 クサリンはにこにこと無邪気に微笑みながら、

 赤毛の剣士を精神的に追い込んでいく。


 その姿を目の当たりにして、九郎はごくりとつばを飲み込んだ。


(こ……この子はやばい……。毒だ……。心に毒を持っていやがる……。どこかのアニメのクソマジメなメイドみたいに、ネットで調べながら爆弾を作って、こんな学校みたいな建物なんかあっさり爆破してしまう、そんな狂気を心の中に飼っていやがる……)


「それじゃあ、クロさぁん」



「ひゃっ、ひゃいっ?」



 不意に呼ばれて、九郎の口から素っとん狂な声が飛び出した。


「オーラさんはそのうち動けるようになりますので、わたしたちはお話の続きをしましょうかぁ」


 言って、クサリンは元の席に戻っていく。


「あ……ああ、そっすねー……」


 九郎はちらりとオーラを見た。

 赤毛の剣士は完全に固まったまま、ちょっぴり泣きそうな目をしている。


(……すまん、オーラ。今のはおまえが悪い。あとでメシをおごってやるから、今はそこで黙って寝てろ)


 無言のアイコンタクトに、オーラも観念したようにまばたいた。


 九郎はベンチに座り直し、改めて緑の髪の薬師に話しかける。


「そ、それじゃあ、クサリン。さっきの話の続きだが、たしか急ぎの仕事があるって言ってたよな。それってどんな仕事なんだ?」


「それが実は、ちょっと特殊な薬を作るための材料集めなんですぅ」


「材料集め?」


「はい。えっとぉ、わたしが所属している薬師グループっていうのは、医学ギルドの一部門なんです。それで、医学ギルドのお偉いさんから急な依頼があって、その特殊な材料をできるだけ早く手に入れないといけなくなったんですぅ」


「ほうほう。薬師ってのは、医学ギルドに所属しているのか」


「はい。そういうわけで、三人のベテラン薬師が材料をとりにいったんですけど、なぜか一人も戻ってこないんです」


「一人も?」と呟いた九郎に、クサリンは一つうなずく。


「場所は、ここから二日ほど歩いたところにある山なのでそれほど遠くないんですけど、もう二週間近くも連絡がないんです。それで、ちょうど一仕事終わったわたしが様子を見にいくことになったんです。でも、一人だとちょっと不安なので、それでクロさんのパーティーに入る代わりに、手伝っていただこうと思ったんです」


「なるほど、そういう事情だったのか」


「そうなんですぅ……」


「でもさ、そういうことなら民兵ギルドに依頼して、護衛をつけてもらったらいいんじゃないか?」


 ふと訊いてみると、クサリンは悲しそうに首を横に振る。


「本当ならそうするところなんですが、それができないんです」


「できない? そりゃまたどうして?」


「実は最近、立て続けに三件ほど、護衛と一緒に山に入った薬師が、盗賊に襲われるという事件があったんです」


「え? 護衛がいたのに襲われたのか?」


「はい。どうやら、この辺の山に流れ者の盗賊集団が住み着いてしまったみたいで、薬師を狙って襲っているみたいなんです。薬師は貴重な薬草を持っていることが多いですし、戦い方を知らない人が多いので、狙いやすいんだと思います。それに、薬師が護衛を雇うにしても、お金の関係でせいぜい一人しか雇えませんし、盗賊集団に襲われたら、とても太刀打ちできないんです……」


「なるほど、そういうことか」


 九郎はアゴに手を当てて、小さくうなった。


「……つまり、護衛が一人だと、盗賊集団に襲われてしまう。しかし護衛を増やせば、依頼料で赤字になる。しかも、護衛がいても既に三回も襲われているから、民兵ギルドに依頼しても、護衛してくれる人がなかなかいない――ってことか」


「そういうことなんですぅ……」


 クサリンは、しびれ薬を入れていた金属製のケースをテーブルに置いた。


「だからわたしも、護身用にしびれ薬や毒薬を持ち歩いているんですが、一人だとやっぱり不安なので、どうしようか悩んでいたんですぅ」


(ぬぅ……こいつ、毒薬も持ち歩いているのか……)


 九郎は思わず金属ケースをまじまじと見つめた。


「そしたらちょうど、女性限定パーティーメンバー募集の噂を耳にしたんです。そのパーティーに加われば、なんでも協力してもらえるということでしたし、しかも女性限定だからいろいろと安心なので、話だけでも聞いてもらえないかと思って、あの噴水広場にいったんです」


「そしたら、あの黒いヤツに襲われたってわけか」


「はい……。それでもう仕方がないので、しびれ薬を持てるだけ作って、今から山に一人で向かうところだったんです」


「だから、そんなに大きな荷物を持っていたのか」


 九郎はテーブルの脇の背負い袋に目を向けた。


 丈夫な布を革で補強して作った背嚢はいのうは、

 十三歳の女の子には不釣り合いなほど大きい。


 九郎はその大きなリュックサックを眺めながら、力強くうなずいた。


「――よし。それじゃあ、クサリン。オレたちが護衛として、その材料探しを手伝うよ。その代わり、無事に戻ってくることができたら、うちのパーティーメンバーになってくれ」



「えっ?」



 クサリンは、大きな目をぱちくりとまばたいた。


「えっと……ほんとにいいんですか?」


「ああ、もちろんだ。オーラもそれでいいよな?」


「……お……おう……」


 床に転がっているオーラも震える声で同意した。

 九郎は改めてクサリンを見つめ、口を開く。


「聞いてのとおり、オレたちの方は問題ない。だけど、そっちはいいのか? うちのメンバーになるってことは、魔王の討伐、つまり、サザランの皇帝を倒すことになるんだけど、そういうのは大丈夫なのか?」


「あ、はい。そういうのは別に気にしませんから」


 クサリンは淡々とした顔で、片手を軽く横に振る。


「わたしはサザランの出身ではないので、なんの抵抗もありません。それに皇帝が死んだとしても、すぐに誰かがあとを継ぐので、なんの問題もないと思います」


「そ、そっすか……」


(うーむ、こっちの世界の十三歳って、けっこうドライなんだな……)


 思わず渋い表情を浮かべた九郎に、クサリンは続けて小さな口を開く。


「はい。ですが、わたしは普通の薬師なので、お役に立てるかどうか自信がないです。本当に、わたしなんかでいいんですか?」


「ああ、それなら何の問題もない。ケガが治せるなら大歓迎だよ」


 九郎は笑顔で言って、軽く肩をすくめてみせる。


「オレが一番心配なのは、魔王を倒せるかどうかは別にして、ちょっとしたケガで仲間が死んでしまうことだ。だから、傷が治せるメンバーは、のどから手が出るほどほしかったんだ。それが薬草を使いこなせる薬師ときたら、文句の付け所なんてないからな」


「本当ですかぁ?」


 九郎の言葉に、クサリンはとたんに目を輝かせた。


「ああ、もちろん本当だ。それじゃあ、クサリン。今日からよろしくな」


「はぁいっ。こちらこそ、よろしくおねがいしまぁす」


 差し出された九郎の手を、クサリンは小さな両手でぎゅっと握った。


 すると床で倒れていたオーラも何とかベンチに這い上がり、

 震えながら片手を伸ばす。


 その手に気づいたクサリンは、無邪気に微笑みながら腕を伸ばす。

 

 そして親指と人差し指だけで、オーラの指先をちょこんとつまんだ。



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