リステック一の水産都市 ダル 5
なんでか僕、気が付いたら捕獲されたうさぎのように捕まってます。
「思い出せないなら仕方あるまい、それじゃあ俺に付いて来い!」
「やだ」
思った言葉がそのまま出てしまった。
でも、後悔なし。
だって意味わかんないもん。
何処に行く気かもわからないし。
そんなわけで僕は勢いよく、おっさんの進行方向とは逆へ。
「まあまあまあ、遠慮すんな」
……そう言えば、僕ってまだ首を掴まれたままだったんだよね。
シャツが首に食い込んで、おっさんに引っ張られて、窒息寸前。
「ぐる……じい……ごほっ!」
しんどいから足を止め、なんとか緩んだ。
歯向かうのは諦めたんだけど、付いて行こうとする前に、おっさん急に走りだした。
もちろん手を離さないままで。
「さあティコよ、一緒に行こうぞ!」
「ちょっ……待って……」
はい、また首締まりました。
「ぐ……ぐる……」
咄嗟にシャツと首の間に指を入れたんで、かろうじて呼吸はできるんだけど。
「た……たす、ぶ……」
ヘルプの声も出ません。
そしておっさん、僕に構わず爆走中。
多分、僕の非常事態に気付いてないんだろうな。
ああ……物凄いスピードで引き摺られて、たまに床に叩きつけられたりして、痛いやら苦しいやらもうよく分からない。
瀕死の中、通り過ぎていく通路が目に入る、人がたくさん倒れてる。
行くたびにそんな人が増える。
このおっさん、人混みをなぎ倒しながら進んでるのかな……。
上を見たら、見知らぬ青年が絶叫をあげて宙を舞ってる。
ああもう、確実にこのおっさん捕まるなあ。