失恋は扉を開ける
もし、冬に蝉が一匹生まれたら、そいつはどんな感情をいだくのだろうか。
孤独とか、寂しいとか?
それとも、世界を独り占めした気分になれるとか?
まだ、眠ってたいとか?
寒いとか?
夢だとか?
そんなことを考えながら、俺、伊藤晃《 イトウアキラ》は金曜の仕事帰り、電車に揺られていた。
高校を出たあと、その日暮らしで日本を放浪するニートになり、
自分が育った田舎に先はないと思い、都会のそこそこの大学に入った。
大学は遊び呆けていたが、今はなんとかある大学で司書として働いている。
資格とは取っていて損ではない。
そして、長年付き合っていた料理人の彼女と同棲し、2年経過。
幸せだったが昨晩別れた。
きっかけは些細な喧嘩だったが、彼女の積もり積もったものが爆発し、終わった。
よって、家に帰りづらく、今は精神的にもかなりきている。
そんなわけで、冬に生まれた蝉の感情を考え、自分に重ねるほどにきているらしい。
家についた。
家に入った。
元カノ様からの第一声は
「いつ出ていくの?」
だった。
俺は
「今でしょ!」と答えて、ウケを狙い。
心が壊れ。
家を飛び出した。
そして、近所の河原にある公園から川に映る月を眺め。
「クッソおおおおおおおおおお!人生の馬鹿野郎!!!」
河原に俺の声が響く。
「帰るか・・・・」3時間位ボケーッとして、帰ることを決意した。
ふと、横に目をやると、公園には廃屋があった・・・あった?
「あったか、こんな建物?」
ひょっとして、やんちゃな若者がたむろしているのでは?
と思いつつも、俺はその廃屋の扉を開いた。
その先では、どうやらコスプレの撮影会をしていたらしい。
今の時代には、似つかわしくない服装の、そうアニメとかでよく見る勤務後の下っ端の兵士2人組、いかにもな感じの飲み屋の気の良さげなおっちゃん、魔法使いっぽいフードを被った人。
「すんませんした!!!お邪魔しました!」
そう言って俺は扉に手をかけ、外に戻った。
撮影会の邪魔するなんて、申し訳ないことをしてしまったな・・・
にしても、雰囲気のあるいい感じの酒場を演出できてたな。
兵士の剣とか、木でできたジョッキとか、魔法使いの杖なんて宝石っぽいのついてたし・・・流石にあれは偽物か!
「さて、家に帰るかね」
家の前についた。
家に入った。
元カノは寝ていたらしい。
(さぁ、寝起きの一声は??)
「出ていったんじゃないの?」
(泣きそうです。はい。)
「いや~忘れ物しちゃってさ!!」
そう言って俺は近くにあった、買いだめしてある粉末の出汁の箱と砂糖をリュックに入れ、家を出て河原に向かった。
「出汁と砂糖の忘れ物ってなんだろうな・・・」
とっさのことだったので、手近にあったものを掴んだが、我ながら謎である。
「人生の馬鹿野郎!!!」
本日2回目の叫びが河原に響く。
1時間後、少し落ち着き、今日の宿のことをなんとかせねばと現実に戻る。
「宿な・・・ホテルでも行くか・・・」
そう思い、立ち上がって河原を去ろうと思ったときに、ふと先程の廃屋に目をやる。
廃屋の、明かりは消えていたので、きっと撮影会は終わったのであろう。
「あそこ、寝れなくもないよな・・・ちょっと見てみるか」
そう思い、扉を開いた。
「いや~、やっぱり老いには勝てないな・・50を過ぎると魔法のキレも悪なる一方だよ・・・・こりゃ現役引退かね」
「何を言いますか。シグナスさんの噂はよく聞きますよ、だから、まだまだ引退は早いですって」
扉の中ではそんな話が繰り広げられていた。
あれ?明かりは消えてたよな?
なんで、煌々とランプやロウソクが光っているんだ?
ってか、この人達は何なんだ?もうすぐ0時になるんだぞ・・・家に帰れよ!
・・・そう!帰れる家があるのなら!
そう思い、勇気を出して話しかけてみる。
「あ、あの~、これって」
「いらっしゃい!!さっきの兄さんじゃないか、座んなよ!」
俺の勇気の一絞りは、おっちゃんに遮られ、有無を言わさず、この酒場もどきの席に座らざるを得なくなった。
「さて、何食べるよ?酒は飲めるかい?」
まてまてまて!違うぞ!この展開は想定外だ!話を戻さねば!
「あ、あの~これってコスプレの撮影会とかですかね?」
「コスプレ?なんだそれ?」
(ん?コスプレではない?)
「いや~ですから、こう、キャラクターとか、中世風とか鎧とかそんな感じの服を着て写真を撮ったり、楽しむやつですよ!」
「????なんだそりゃ!いいから、なんか食べて、飲んできな!きっと兄さんは疲れてんだな!」
(えええええええ、なにこれ!新手の詐欺か何かなのかな・・・)
「あ~、すみません、なんか、間違いました!出ます!失礼しました!」
俺は急いで扉に駆け寄り、扉を開けるとそこは河原ではなく、木や石材で作られた家が立ち並ぶ、そう!
アニメや漫画でよく目にする洋風で中世っぽいあの町並みだ。
「え?」
(河原は?どこいった?俺の帰るべき家はどこにいった?・・あぁ、それはもうないのか・・・)
「夢だな。これ。」
夢だと信じ、俺は扉を出てすぐ石畳の上で目を閉じ、横になり寝ようとした。
(痛い。寝れん。)
「お前さん、何やってんだ?」
さっきの気の良さげな店主が話しかけてくる。
「いや~この夢が覚めたら、きっと彼女との幸せな生活の日々に戻れる気がして!」
「やっぱ疲れてんだな。タダでいいから、なんか食ってけよ」
そういって、俺は酒場の中に引きづられていった。
時刻は0時10分。
(こうなれば、夢の中だけどストレス発散に暴飲暴食してやろうじゃないか!)
「で、何を食べるよ?メニューはこれな!」
幸いなことに、メニューはカタカナ表記だったので、一応読めた。
「んじゃ、とりあえず、タマゴヤキとトリ料理のオススメと美味くて酔える酒をもらえるかな」
「あいよ」
(はぁ、俺はこれからどうなっていくんだろうな・・・・)
初めまして。たまと申します。
今まで自分が楽しく読んできた数々の料理にまつわる作品に憧れを抱き・・・ついに書いていました!
専門知識はあまりありませんので、調べながらの投稿になりますし、間違いもあるかもしれません。
そのため、何かありましたら、アドバイスをいただければ幸いです。