旅立ち
最終回です
少女が目を開けて最初に見たものは白いワンピースの裾だった。
(....あれ、私、どうして椅子に座ってるんだろう....ドアを開けたはずじゃ....)
そう思いつつも視線をあげると机があり、その上には出来立てなのか、湯気を出しているスープとパンが置かれていた。疑問を覚えつつもさらに視線を上げると椅子に座っている両親がいた。ただ、二人とも顔が黒いもやのような物がかかっており表情は、読み取れない。
(?、....何で母さんが....夢じゃない、よね?)
試しに少女は自分の頬をつねってみると柔らかい感触がするだけで、目の前の風景は一切変わらない。
(....取りあえず、お腹すいたしパンとスープでも食べてから考えよう)
食べ物の香りで急に空腹を感じた少女はマグカップの取っ手を持つと、中に入っているスープを飲み始めた。具材は玉ねぎとベーコンだけが入っているシンプルなスープだったが少女好みの味の濃さでとても暖かい。
(....美味しい、たぶんこれ作ったの母さんだ)
少女は数日前にも同じものをのんだはずたが、このスープには数年ぶりに飲んだような懐かしさを感じた
半分ほど飲み終えるかどうかのタイミングで、
「ちゃんと食べてるし、心配ないわね」
「そうだね、このペースだと残す感じもないし良好だね、よかっかよかった」
という両親の声が聞こえてきた。いきなりの事に少女は驚き、両親に話しかけようと声を出そうとするが、口を開けるだけで声がでない。
そんな少女のことも知らずにか、会話は進んでいく。
「それにしても、熱が出ても射撃をするだなんて漂流者だった頃の君みたいだね。あの時、熱があるから休んでていいって言ったのに」
少女の父親は楽しそうに話すと、母親はバツ悪そうな反応をした。
「しょうがないでしょう?貴方だけじゃ食べれそうな物も採れなかっただろうし、一人じゃ危なかったわよ。....あとスナイパーライフルで気持ち悪いぐらい興奮するのは、リボルバーを見たときの貴方に似たのかしらね?」
母親は最後にさらりと少女の悪癖に関する衝撃の真実を言った。
(えっ!?父さんもだったんだ!?母さん達が漂流者だったってことも初耳なんだけど....)
少女は稀にキャンプ場に来る漂流者を見てきたが、大体の漂流者が薄汚く、表情も暗いため良いはなかった。
「返す言葉もないなぁ、まあ、むかし話は置いといて、」
父親は苦笑しながら言い、一度言葉をきると
「あの娘だけで生きていけるのかな」
そう呟いた
(どういう、こと?)
少女は困惑した。まるで少女だけがこのキャンプ場での生き残り、というような言いぐさだった。母親だけではなく父親やキャンプ場に住んでいた人間全員が殺されてしまったのでは、と考えたところで頭を横に振って考えるのを止めた。考えたくなかった。
「大丈夫よ、ここから出ていっても十分に生きていけるぐらいの実力はあるわ」
母親は当然とばかりにいうがやはり父親の反応は変わらない
「君が言うならそうなんだろうけど、やっぱり___」
「心配?」
「うん」
「どんなところが?」
「例えば、....体力」
「定期的に走らせたわ」
「銃の扱い」
「一通り教えたし、狙撃の腕前はトップクラス、動いたものに当てるのは苦手っぽいけど」
「....体術」
「貴方と私で教えたでしょう?」
「....身体の頑丈さ」
「病的なものなら大丈夫ね、あの子は滅多に風邪ひかないし、ひいてもすぐ治るわ」
「....君は準備がいいなぁ」
「そんな事はないわよ、.....そろそろね」
母親はそう言って身をのりだし、少女の顔に手を伸ばすと少女の視界を防いだ
(?、なにを___)
少女が困惑していると、
「そろそろ逝かないとだけど、母さんから二つお願いがあるわ」
母親の声が耳元で聞こえた。
「!?」
少女は母親の手を退かそうと手をジタバタするが
空をきるだけでそれ以外の感覚がない。少女の努力も虚しく母親の一方的なコール(呼びかけ)は続く。
「1つ目、どれだけ生きるのが辛くても自殺だけはしない、2つ目頑張って生きて、わかった?」
少女は母親の質問に困惑したが首を縦にふった。
けれど、少女はこのままサヨナラを言うのは嫌だった、だから
「分かれば宜しい、それじゃあ頑張っ」
「待って!」
母親の言葉を遮った
いつの間にか声が出せるようになっているのに気付かず、少女は続ける
「本当に!本当にこれが最後なら一言言わせて!」
そう言いきり、深呼吸をすると
「今まで、ありがとう、ございましたっ」
目に涙を溜めながらそう言った
今にも嗚咽が漏れそうなのを我慢していると、塞がれていた視界が解放された。そこに居たのは、
笑顔の両親だった
「良いのよ、私達も幸せだったわ、あなたのような娘をもって」
「そうそう、幸せだった!父さんからも一言、....達者でね」
「貴方、泣きたいなら泣けば良いのに、父子揃って我慢するなんて本当に変なとこだけ似るのね」
「ぐすっ、上手くいかない時に泣くのは君に似たんだよ」
「しょ、しょうがないじゃない、泣いちゃうんだから」
母親は話しを切り替えるために、わざとらしく咳をすると、
「とにかく、....元気でね」
寂しそうな笑顔をうかべながら小さく手を振った。少女も小さく手をふりかえすと、少しずつ視界がぼやけていく。
何も見えなくなり、少女の意識が途切れた
少女はなにかが倒れる音に目を覚ました。
(?、なんの音?)
目を開けると自室の天井がみえ、風がふいているのか、窓際にぶら下がっている少女の真っ白なワンピースがはためいた。
....ん?真っ白なワンピース?
少女は寝ぼけた頭で考える。少なくとも自分でワンピースを脱いだ覚えはない。
そして、ワンピースを脱いだということは自分は下着姿なわけで、自分で脱いでいないということは脱がせた人がいるわけで。
少女は緊張しながらも上半身を起こして周りをみると、「ひゃあっ!」と小さく悲鳴をあげる。少女の視線は床に注がれ、倒れていたのは、
一人の少年だった
少年は少女の悲鳴で起きたのかモゾモゾと動き、顔を上げると、バッチリと少女と目があってしまった。
「......」
「......」
二人は数秒間お互いの顔をボケーっと見て、我に返ったのか顔を真っ赤にすると、二人で大きな大きな悲鳴を上げた。すごいハモった。
これが少年ミサキと少女の出会いだった
それから色々あり、少女は漂流者、つまり少年のパートナーになった。数日間旅の準備をし、故郷を出ていった。
16歳という早すぎる独り立ちだった
ちまちま少女視点の話を出すかもしれません、色々あったというのは本編で書こうと思います