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「生」の条件  作者: 永谷 園
3/3

第3話 生の条件

年越しながら書いてすぐ完結させるつもりが、気が付いたら半年空いていました。お話の内容も当初考えていたものから大きく逸れて、ようやく第2話を投稿した5日前に3話の最後の推敲をするつもりがそこからさらに全く別のお話に変えてしまう有様でしたが、なんとか完成させることができました。これからまた少しずつ色々書いてみようと思います。よろしくお願いします。

 カミさま曰く、なにもしないをするというのはつまり、ずっと何もしないでい続けるということらしい。人間というのは、基本的には常に何かをしている。ご飯を食べたり勉強をしたり運動をしたり仕事をしたりと大忙しだ。そこで、いったんあえてその全てを取り払うことによって、自分自身との対話がどうのこうの__と、ようするに、お坊さんが座禅を組んで修行をするようなことらしい。


余談だが、僕は修行という言葉が大好きだった。人知れず山で謎のおじさんと一緒に修行するというのは、なんだかとても格好がいいと思った。


「これから1週間、何もしないをするんだ」


 しかし、1週間という現実的な単位を聞いて目が覚める。僕には学校もあるし、家事の手伝いもしなくてはならない。1週間も何もしないなんて、僕にはできない。

「そうか」

カミさまが一瞬だけ、とても残念そうな顔をした気がした。

「実はな、私は数年前からここで何もしないをしていたんだよ」

カミさまは広場の端のほうにあったとても大きな樽の中に入っていった。こんなところに樽があったなんて、来る時には気が付かなかったが。


「では、こうしよう。7月7日、今日と同じ時間にまたここに来てくれ。そして、そこで答え合わせをしよう。君なら、きっとわかるはずだ」


7月7日。ちょうど今から1週間後だ。しかし、答え合わせというのがどういうことなのか僕にはわからなかった。


「じゃあ、待っているよ」


 そう言い残して、カミさまはそのまま動かなくなってしまった。答え合わせという意味がわからなかったので質問してみたが返事はなかった。どうやらとても集中しているらしい。これが「なにもしない」か。数年前からやっていたというだけあって、本当に全くなにもしていなかった。試しに耳元で大きな声を出したり、こちょこちょをしてみたりしたが動かない。心なしか顔が笑いをこらえているようにも見えなくもなかったが、結局なにをしてもそれ以上反応はなかった。


 僕は家に帰り、家の手伝いをした。洗濯物を取り込み、お風呂を掃除した。それが家の中での僕の仕事だ。しかし、家の仕事をしている間も、常にカミさまの言っていたことが頭から離れなかった。なんだか今日のカミさまはおかしかった気がする。結局何が言いたいのかよくわからなかった。


 部屋で一人、少し時間が余ったので、僕は試しに「なにもしない」をしてみた。初めは、簡単だと思った。ただなにもしないで過ごしているだけなんて誰にでもできる。そう思っていた。しかし、実際にやってみると以外に難しかった。神様のような集中とはほど遠く、気が付くと眠ってしまっていた。目が覚めるとかなり時間が経っていて起きた瞬間は自分が何をしていたかを忘れてしまっていたが、なにもしていなかったのだと思い出すとなんだかやりきれない気持ちになった。しかし、どうやらまだ完全に眠りから覚めていなかったようで、またすぐに眠ってしまった。もう一度目が覚めた時には合計で約6時間が経過していた。今度はなにもしていなかったことを覚えていたので、そのままなにもしないを継続してみた。しかし、本当に大変なのはここからだった。


 目が覚めても、頭が冴えない。体のあちこちがじんわりと熱を帯びている。起き上がって伸びをしたい。冷蔵庫まで歩いて行って水を飲みたい。テレビを見たい。マンガを読みたい。頭が働かない。何も考えられない。周りの小さな物音や自分の体の違和感などの些細なことが気になってくる。今どれくらいの時間が経ったのかが気になって仕方がない。このままなにもしないで死んでしまったらどうなるのだろう。そう思うととても怖いのにどこか可笑しかった。


 限界だった。僕は我慢できずに起き上がった。時計を見てみると記録は15時間36分だった。僕はどうやら学校をサボっていたようだ。両親は毎朝僕よりも早く家を出るので、誰も止める人がいなかった。ちなみに、15時間中12時間くらいは眠ってしまっていたので、実際の記録は4時間にも満たない。そこで初めて気が付いた。家にずっと一人でいたとしても、常に「なにか」をしていたことに。なにもしてないのは、眠ってしまって意識がないときがほとんどだ。唯ぼーっとすることもあるにはあるが、数秒か、あってもせいぜい数分だろう。数時間、数日間何もしないでいるとなると、それはもはや何かの修行かもしくは拷問だ。僕は昨日、なんにも悪いことをしていないのに拷問を受けようとしていたのだった。


 カミさまはなぜ、僕にこんなことをさせたがったのだろうか。今まで一緒にいた中で、カミさまという人のすべてがわかったつもりなど全くない__むしろわからないことだらけの謎の人物である__が、僕になんの理由もなく拷問を強いるような人ではなかったように思う。これはいったいどういうことだろう。僕はどうしても動きたくていられなかったので、散歩に出かけた。


 午前中はまだまだ涼しく、空気が澄んでいるように感じる。今は本当は学校にいなければならない時間だ。そう考えると、誰か知り合いに見つかったらどうしようというスリルや、サボってしまったことに対する罪悪感、自由でいられることへの開放感などの様々な感情が入り混じって、不思議な気分になってくる。決しておかしな薬を使っているわけではない。こうして歩いていると、何もしないでいた時はてこでも動こうとしなかった頭が、自然にくるくると回る。やはり動物というだけあってなにもしないよりかは動いていたほうが良いことが多いのかもしれない。


 しかし、あのときカミさまは僕に「なにもしないを、する」ことを勧めた。それは本当に、ただ単に悟りを開かせるためだけだったんだろうか。もしかしたら、なにか他に狙いがあったのかもしれない。僕の頭はくるくると回転を続ける。


 例えば、あのまま僕が何もしないで死んでいったとする。どうなっただろう。何か問題があっただろうか。僕がなにもしなくても、地球は勝手に回り続ける。家に帰ってきた僕の母親が発見するまで、誰も僕がいないことに気づかない。何の問題もない。問題なく世界は動き続けるはずだ。……そう。そこに何も問題がないことこそが、僕にとっての問題なのだ。いっそ僕が死んだら、地球も止まってくれたらいいのに。それなら、わかりやすいのに。


 カミさまはなにもしないでいさせることによって、僕が生きることに意味はないと言いたかったのだろうか。確かに、もしこのままずっとなにもしないでいたら、僕に生きる意味はないということになりそうだ。例えば、避雷針なんかは何もしていなくてもそこに存在するだけで雷を寄せてくれる意味がある。そこに在るだけでよい。しかし僕は避雷針ではないので、一生部屋に存在し続けているとむしろ邪魔になる。しかしカミさまは言ったのだ。「なにもするな」と。なぜなのだろう。僕が「なにもしないこと」にはどんな意味があるのだろうか。僕は考えた。考えて考えて考えて考えた。そして気が付いた。


 そうか。あのときカミさまは「わからない」と言っていた。それこそが答えだったのだ。「なにもしないを、する」というのも、それ自体がヒントになっていたのだ。その論法に、ヒントが隠されていた。


「なにもしない」ことには意味はない。なぜならなにもしてないからだ。そりゃそうだ。

僕が生きていることにも意味はない。なぜなら僕が一生なにもしなくても世界には何の問題もないからだ。

しかし、なんと驚いたことに僕は、意味のないものに意味を与えてあげることができるのだ。


「なにもしない」こと意味はない。しかし、僕はそこに「カミさまの出した問題を解くため」という意味を与えてあげることができる。すると摩訶不思議なことに「なにもしない」をすることによって、問題がの答えが見つかるというような意味を持たせることができるかもしれないのだ。すごい。


 意味というのは探し求めるものではなく、僕が与えてあげるものだったのだ。僕は自分自身にまだ意味を与えてあげていない。なのでカミさまに質問したあの時点では生きる意味はまだわからない。だから「わからない」で正解なのだ。カミさまはあの時、すでに答えを言っていたのだった。そうして今回のお話をまとめると次のようになる。


「何もしないをすることによって、わからないということがわかった」

出来の悪いナゾナゾみたいな話だ。





 僕はそのままの足で、例の約束の場所へと向かった。1週間といっていたのに2日と待たずに解いてしまったのだ。きっとカミさまもびっくりするだろう。僕は自分の答えにそれなりに自信を持っていたので、楽しみだった。広場に到着し、カミさまが居た樽の中をのぞいた。しかし、そこにカミさまは居なかった。代わりに、1枚の手紙が残されていた。手紙にはこう書かれていた。


「君がこの手紙を読む頃には、僕はもうこの世にはいないだろう。まずはおめでとう。その答えが、君のこれからにとって助けとなることを祈っている。がんばりたまえ。そして、なぜ私がこの世にいられなくなったかについてだが、もし意味がわからないようなら忘れてくれ。私には、わかってしまったからだ。後悔はしていない。私は、そのために生きていたのだから。もしも、君がいつかわかってしまうときが来たなら、その時はまたよろしく頼むよ」


僕には、わからなかった。




 月日が流れ、僕はなんにも悪いことをしていないのに大人になっていた。カミさまはあれ以来僕の前に姿を現すことはなかった。これは今になって思うことだが、僕はあの時「わからないことがわかった」などという意味不明な結論に達して、それを答えのように思っていたが、カミさまはもしかするとさらにその先を考え続けていたのではないだろうか。つまり僕の理論で言えば「本当の意味がわかる」ために生きるという意味を自身に与えていて、ずっと考え続けていたのだ。そしてついにあの時、僕と話した直後に彼は「わかってしまった」のだ。それによって本当の神様になってしまったのか、耐え切れずに死にに急いだのかはわからないが、どちらにせよこの世にはいられなくなってしまったということだ。


わからないでいるのも、悪くはないのかもしれない。今はそう思う。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。今回は本当に本能の赴くままに書いてしまったので

次作からはもう少し計画的に考えて、もう少し読んでる人も楽しめるものを目指します。

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