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スーパーマリアシスターズ  作者: 美作美琴
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第4話 シムラ陰天堂

「…貴様ら~!!オレに何かしたら許さないぞっ!!」


真っ暗な室内…一人の男がエックスの形をしたベッドに仰向けの大の字に張り付けられている。

両手、両足首は金属製のバンドで固定されており身動きが取れない。

直上には眩しくて目を開けられない程の光量のライトが設置されていてベッドだけを照らしている。


「ヒョヒョヒョッ…この注射を打たれたら君は新しい身体に…生命体に生まれ変われるのだよ…感謝したまえ」


頭頂部が三角に尖った真っ白な覆面を被り白衣を着た人物が注射機器を構えながら奇妙な笑い声を洩らす。

目の部分にはまるで顕微鏡のレンズ部の様に長く飛び出た眼鏡を掛けており表情は窺い知れない。

男が寝かされているベッドの周りには同様の格好をした者達が五人いた。


「ひいっ!!やめろっ!!オレは注射が大嫌いなんだ!!やめてっ!!お願いだから!!何でもしますから!!」


最初の威勢は何処へやら…男はみっともなく泣き叫び始めた。

身をよじって必死に逃れようとするが無駄な抵抗だ。


「ナウ!!」


三角覆面は思い切り男の腕に注射器を突き立て赤い液体を全て注入してしまった。


「うぎゃ~!!!もう駄目だ!!…死ぬ!!…死んでしまう!!」


男の視界が渦を巻く様にグルンと回ると段々と意識が遠のいていった。


「…しっかし…うるさい奴だったな…」

「全くだ…」


それが薄れゆく意識の中で彼が聞いた最後の言葉であった。




「はっ!!?」


アッシーが目を開くと少女の寝顔が視界に飛び込んで来る。

身体はその少女…マリアにガッチリと向かい合う恰好でホールドされていた。


「…あれは夢…なのか?う~ん…全く思い出せない…」


何とかマリアの腕から抜け出すが、彼の周りにはおびただしい数の卵がベッドの上に散乱していた。

ピンク、ブルー、グリーンと色とりどりの水玉の卵たち…

そこへ寝室のドアを開けルイーズが入って来た。


「あら~アッシーちゃん起きたの~?おはよ~」


「…ああ…おはよう…」


挨拶もそこそこにルイーズは腕にぶら下げている大きな籠に次々と手早く卵たちを入れていく。

実はこの卵はアッシーが眠っている間に無意識に産んだ物なのだ。

アッシーがマリア達姉妹の家に来てから三日経つが

彼女たちの食卓にこの卵は無くてはならない貴重な食材になっていた。

マリアも最初こそ嫌がっていたが、その濃厚な味わいと滑らかな舌触りには勝てず今では普通に食べている始末…

定期収入の無い彼女たちには経済面で見ても美味しい代物である。


「んあ~?もう朝なの~?」


周りでごそごそと音を立てた所為でマリアも目を覚ました様だ。

眠い目を拳の甲でグリグリと擦る。

三十分程でルイーズが朝食を作り二人と一匹は食卓に着いた。


「ねえマリアお姉ちゃん」


「あんだ?モグモグ…」


相変わらずの物凄い勢いで卵料理を食い散らかすマリア。


「…食べながら聞いてほしいんだけど~早めにアッシーちゃんの事を大家さんに許可を取った方が良いと思うの~」


「…!!」


それを聞いてマリアのフォークを持つ手が止まる。

大家とは『シムラ・ゲン』と言いこの建物の一階に住んでいる。

その一階で雑貨屋を営む見るからに怪しげな爺さんである。

格安で二階を借りている手前、マリアシスターズは彼に頭が上がらないのだ。

おまけにここはペット禁止の約束で入居している…見つかったらきっと部屋を追い出されてしまうだろう。


「…やっぱり行かないとダメ…?」


チラッとルイーズの方を上目遣いで見るマリア。


「ここを追い出されてしまったらきっと私達が入れる物件は無いと思うの~」


食卓に重苦しい空気が漂う。


「…?」


何が何だか分かっていないアッシーは首を傾げながらも自分の産んだ卵が原料の玉子サンドを頬張っていた。




「…おはようございます~」


ギーッと不気味な音を上げながらおずおずと年季の入った木製の扉を開くルイーズ。

ここが大家であるシムラ・玄の経営する雑貨屋『シムラ陰天堂いんてんどう』である。

雑貨屋を謳ってはいるが実際は骨董品や怪しげな漢方薬などをメインに扱っている店でそこかしこに得体の知れない品物が所狭しと陳列されている。不気味な石造や透明の容器に入った液体に得体の知れない生物らしき物が浮かんでいる物もあった。

マリアというとルイーズの足にしがみ付きながらキョロキョロと辺りを警戒している。

下水道でイニシャルGと戦った時程ではないにしても多少怯えている様だ。


「…なぁ…あんたら何をそんなに怯えてるんだ…?」


「…アンタはあのジジイを知らないから平然としてられるんだ!!」


ボソボソと囁く様にマリアがアッシーを睨みつける。

が…その直後。


「…ヒイイイイイッ!!!」

「ひゃああああ!!?」


まずはルイーズ、間を置かずマリアが悲鳴を上げる。

二人共顔が真っ赤だ。


「何だ一体!?」


アッシーがマリア達の後方に目をやるとそこには何やら小さい人影があった。


「へっへっへっ…ルイーズは相変わらずいい尻をしておるの~!!

…マリア…お前は姉ちゃんなんだからもっと発育した方がよいぞ!!」


次第にはっきりしてくるその影の正体は一人の老人であった。

ボサボサの白髪頭に瓶底眼鏡、甚平を着た助平そうな下卑た笑みを浮かべた爺さん…この人物こそがこの『シム陰天堂』の店主にしてマリア達の大家…『シムラ・ゲン』その人だ。

さっきの二人の悲鳴は元がお尻を触った事が原因であり、あろう事か元は掌の匂いを嗅いでいる。


「このジジイ!!挨拶代わりにお尻を触るのはやめろといつも言ってるだろう!!」


マリアが玄の胸ぐらを掴んで怒鳴り散らす。

元爺さんの身長はマリアとさほど変わらない。


「マリアお姉ちゃん!!ここは堪えて!!」


ルイーズが慌てて止めに入る。

普段から家賃滞納や部屋の損壊などで元に迷惑を掛けている上に

今日はアッシーの事を相談しに来た手前、あまり元の機嫌を損ねるのは得策では無い。


「何の様じゃ?お前さん方がここに来る時は余程の事があった時かお願いがある時だけじゃろう」


「…あ~あの~その~…」


完全に図星を突かれてしまいいつもの威勢はどこへやら…しどろもどろになるマリア。

やがて意を決して側にいたアッシーを掴むと勢いよく元の目の前に突き出した。


「…これっ!!…このコ飼ってもいいかしら!?」


「…おっ…おいい!!?」


いきなりの事で大層驚いたアッシー。


「ほほう…これはこれは…珍しいのう!!」


アッシーにくっついてしまいそうな近距離まで近寄り嘗め回す様に観察を続ける元爺さん。

アッシーにとっては堪った物では無い。


「人間の言葉を話すトカゲとは珍しい!!本当はペット禁止なんじゃが特別に飼わせてやってもよいぞ…」


「本当か!?」


「良かったわね~アッシーちゃん!!」


「…はぁ…それはどうも…」


喜ぶマリアシスターズとそんなに喜んでいないアッシー。

それを見ていた元はさらに続けた。


「…しか~し!!一つ条件がある…これからワシの言う依頼を一つ受けてくれんかの?」


先程のいやらしい笑みとは違い霧散臭さ全快の笑みを浮かべる元爺さん。

だがこのパターンは今回が初めてでは無い…

今迄この笑みを浮かべているこの爺さんの依頼にはロクな事が無かったのだ。

マリアとルイーズの背筋に冷たい物が走った…。

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