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スーパーマリアシスターズ  作者: 美作美琴
3/11

第3話 黄身の名は。

「う~ん…これは一体何の卵なのかしら…」


首にバスタオルを掛けタンクトップとパンツ姿であぐらをかいて床に置いてある大きな卵を凝視するマリア。

下水道に入った上に爆発に巻き込まれ全身真っ黒になってしまったので

お風呂で汚れを落として着替えた直後である。


「大きさ的にはダチョウの卵みたいですよね~」


ルイーズがバスタオルで髪の水分を拭いながらリビングに入って来た。

こちらはTシャツにホットパンツのラフな格好だ。


「ちゃんと部屋着を着て下さいね~湯冷めをしますよ~」


「いいじゃない、今日はもう出掛けないんだし…」


ルイーズが冷蔵庫から出して来たミネラルウォーターのペットボトルを受け取ったマリアはそれを一気に飲み干した。


「ぷは~!!労働の後の一杯は堪らないわね!!」


顎に滴った水を手の甲で拭う。


「…ただの水ですけどね~それに今日の出来事を労働と呼んで良いかは微妙ですけど~」


マリアと向かい合う形で卵の前にアヒル座りしながら苦笑するルイーズ。


「さて…これよりこの卵の調査を開始する!!」


マリアの横には既に工具箱が用意されていた。

中には電動ドリル、ノコギリ、ハンマー、鉈、etc…

そして傍らにはチェーンソーと色々と物騒な物が用意されていた。


「入ってますか~」


ふざけてコンコンと拳で卵をノックするルイーズ。


『…入ってます…』


有り得ない…!!予想外に返事が帰って来てしまった…!!


「きゃあ~~~!!!?」


ルイーズは大きな体に釣り合わない程のスピードでマリアに飛び付きギュ~っと抱きしめる。

全身がガタガタと震えている。

ルイーズにとっては『頭文字G』などの虫やグロテスクな生き物は恐るるに足らない相手なのだが、こと幽霊や正体の分からない物にはてんで弱いのだ…対照的にマリアは幽霊は平気でGが苦手。


「…お前…何者よ!?」


さすがのマリアも卵がしゃべるなんて事は今まで体験した事が無かったので多少緊張しながら恐る恐る問いかける。


「………」


「どうしたのよ…何とか言いなさいよ…」


呼びかけに答えない卵…いや、本来卵はしゃべらないが…

しかし間を置いてこんな答えが帰って来た。


「オレは…誰だ…?」


「はぁ?!そんなのこっちが聞きたいわよ!!」


怒鳴るマリア。

さっきまで緊張していたのが馬鹿らしくなってしまった。


「もういいわ!!その殻を叩き割ってアンタを引きずり出してあげる!!」


お気に入りのハンマーを握りしめ振りかぶる。

先程下水道で披露した彼女のハンマー捌きが炸裂すると恐らく卵は殻どころか中身までグチャグチャになるであろう。


「…ちょっ…ちょっと待った!!出る出る!!…自分から出るから…殻だけに…」


「………」


あまりのくだらなさに無言でハンマーを握りしめるマリア。

完全に目が据わっている。


「…冗談だって!!今出るよ!!」


慌てた様子の卵の中の人…人かどうかはまだわからないが…

すぐさま卵の先端にヒビが入り次々と伝達していく。


パリンッ!!


「ハッ…ハロ~…」


挨拶をしながら小気味良い音を立てて殻を突き破って出て来たのは…


爬虫類…の様に見える外見、中型犬位の大きさ。

鋭い爪の後ろ脚二本で立ち、前足は爪のある小さめの物が付いている。

大きめの頭がユーモラスだが口先が長く牙が整然と並んでいる、肉食恐竜に多く見られた特徴だ、尻尾もかなり長い。

体表は細かい紙やすりの様にザラザラしており、色はかすれた黄色。

ただふざけているのが、卵から産まれたばかりだと言うのにサングラスを掛けているのだ。

しかも三角定規を二枚組み合わせた様な鋭角の物で

今時こんなデザインの物を掛けている不良少年もおるまい。


「…おっ…おおおお~~~!!恐竜!!アンタ恐竜じゃないの!!」


両手の拳を握りしめ目を輝かすマリア。

ルイーズもあっけに取られている。


「…何かオレって注目の的…みたいな?よせやい照れるぜ」


腰に手を当て目を瞑り得意げにふんぞり返る恐竜チックな生き物。

その間にマリアが彼の周りで何やら忙しなく動いている。


カチャカチャ…


「ん…?オイオイ…何してんの?」


彼が我に返ると、自分に鋼鉄製の首輪が付けられているのに気付く。

おまけにジャラジャラと太い鎖付き。


「アンタは今から私のペットよ!もう決めたから反論は認めないわ!!」


「おい!…勝手に決めるなよ!!」


「まだ自分の立場が分かっていない様ね…反論は認めないって言ったでしょう?!」


キッ!!と鋭く睨みつけるマリア


憤慨する恐竜チック生物であったが

マリアから発せられる得体の知れないオーラと眼光に身が縮みあがった。


「で…アンタの名前は?あるんでしょう?言いなさいよ」


マリアは尊大な態度で小型恐竜に名前を尋ねる。


「…いや、それがマジに自分の名前が分からないんだ…ホントホント!!嘘じゃないって!!」


完全にマリアに対して恐怖心を植え付けられてしまった小型恐竜はしどろもどろになりながら弁明する。


「そもそもオレは恐竜じゃなかった筈なんだけど詳しい事が思い出せなくて…」


実に不可思議な事を言い出す小型恐竜。

何か危険な臭いがプンプンする。

これは絶対に後々トラブルになる事請け合いだ。

姉妹は怪訝な表情で彼を凝視していた。


「…お…おおお…んおおおお!!!?」


「何?!何!?いきなりどうしたの?!」


急に小型恐竜が大声を張り上げた。

苦しんでいると言うか力んでいると言うか…何とも形容しがたい

頭や尻尾、全身を振り乱し落ち着かない様子で部屋中動き回る。


ドスン!!ドスン!!


「うるさいな!!夜くらい静かにしろ~!!」


一階から雑貨屋のオヤジの怒声が飛ぶ。


「こらこら!!大人しくしなさい!!」


ルイーズが小型恐竜を取り押さえ何とか動きを止められたが相変わらずジタバタしている。


「んほおおお…お…?」


ポコン!!


「え…?何これ…」


小型恐竜の後ろ脚のすぐ後ろの床、お尻の下あたりに何かがある…

真っ白いそれは大きな卵であった!!


「何よ!!アンタ…オスなのに産卵した訳?!」


「…このコ、実はメスなんじゃないの?お姉ちゃん~」


自身も卵から産まれて数分しか経っていないのにすぐに産卵など常軌を逸している。

姉妹たちも驚きを隠せない。


「…ふう…」


当の小型恐竜は一仕事終えて脱力していた。


「…面白い…面白いわアンタ!!ちょっとこっちへ来なさい!!」


マリアは小型恐竜を抱きかかえて寝室へと連れて行ってしまった。

ペットと言うより完全に玩具扱いだ。


「ひえ~!!お助け~!!」


「…恐竜さん…お気の毒様~」


ルイーズは合掌でその後姿を見送った。




そして翌日…


「う~ん…あれ?何だか凄くいい匂い…」


目蓋を半開きにして珍しくマリアが一度目で起きた。

キッチンからとてもいい匂いが漂って来たせいだ。

いつもなら絶対二度寝を要求してルイーズにたたき起こされるのがパターンなのだが、


「あれ?この肌触りは…」


これもいつもの事だがマリアが起きた時は何かにしがみ付いている事が多い、大体毛布だったり枕だったりするのだが今日は違った。

このザラザラの触り心地は…


「…!!」


何とそれはあの小型恐竜だった。

いや正確に言うならもう小型とは呼べない位大きくなっていて仔馬程に成長していたのだ。

傍らには物凄い力で引きちぎられたであろう鋼鉄の首輪の残骸が有る。


「…ふあ~おはようございましゅ~…」


中型恐竜は今起きた所らしい。


「ちょ…ちょっとアンタ!!どうしてこんなに大きくなってる訳?!」


慌てて飛び退き狼狽えるマリア。


「あ~?あれ…本当だ…何でだろう?」


当の本人も分かっていなかった様だ。


「…まあいいわ…アンタに関しては何が起きるか分かったもんじゃないからいちいち驚いてられないもんね…」


マリアは意外に気持ちの切り替えが早かった。


「取り敢えず朝ご飯食べに行くわよ、アンタちょっとそこに立ちなさい」


中型恐竜をベッドから降りさせ、床に立たせる。

そしてマリアは彼の背中にぴょんと飛び乗った。


「うわあ!いきなり何すんですか!」


「何か乗れそうな気がしたから…うん…中々いい乗り心地ね!」


動揺する中型恐竜をよそに上機嫌なマリア。


「このままリビングまで歩いてみてよ」


「はぁ…仕方ないですね…」


諦めてトテトテとマリアを乗せたまま部屋を移動する。


「お~!これは快適ね!よし決めた!!アンタの名前は今から『アッシー』よ!」


「何ですかそれは~!!」


「これからアンタは私の足代わりになるんだから当然の名前じゃない!!」


あははと高笑いするマリア。

凄くどうでもいい理由で彼の名前が決まってしまった…




「何?何?どうしたの?!朝から凄いご馳走じゃない!!」


リビングに入ってテーブルを見るなりマリアは歓喜と驚嘆の声を上げる。

テーブルにはおびただしい数の料理が並んでいる。

スクランブルエッグ、ベーコンエッグ、オムライス、卵焼き、天津丼、カルボナーラ等々

みんな玉子料理だ。


「あ~おはようお姉ちゃん~今日は珍しく早いのね~」


満面の笑みでマリアを迎えるルイーズ。


「さあ~冷めないうちに召し上がれ~そちらの恐竜さんもどうぞ~?」


「いただきます!!!」


「いただきます……」


テーブルに着くなり一心不乱に料理を頬張るマリア。

まるで漫画のワンシーンの様に次から次へと平らげて行く。

その姿に気圧されながらもアッシーも口だけを使った所謂犬食いで料理を食べる。


「美味しい!!何?この玉子…いつもと違ってとっても濃厚!!」


はあ~っと幸せそうに瞳を輝かせるマリア。


「気に入ってくれた~?初めての食材だからちょっと不安だったのよね~」


マリアに料理を褒めてもらいルイーズも嬉しそうだ。


「ところでルイーズ、この玉子はどうしたの?」


食べながら訪ねる、料理を口に運ぶ手は動いたままだ。


「あ~これ?」


おもむろにルイーズがアッシーの方を指差し


「この玉子はね~昨日このコが産んだ卵を使ってみたの~」


ブウウウウウウ………!!!!


マリアとアッシーは口から料理を盛大に吹き出してしまった!!

良い子は真似しちゃだめだよ。


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