第1話 マリアシスターズ
「お姉ちゃ~ん!そろそろ起きて~マリアお姉ちゃ~ん!」
妹のルイーズ=マリアはキッチンで二人分のサニーサイドアップをフライパンで調理しながら後ろのベッドで寝ている姉、マリア=マリアに声を掛ける。
「う~ん…あと四時間寝かして~…」
毛布に抱き枕の様にしがみ付きながら寝癖ぼうぼうの小柄な少女が答える。
「もう~!!そんなに寝たらお昼になっちゃうでしょ~!!」
朝食を手際よく食器に盛り付けてからマリアがグダグダしているベッドに向かうルイーズ。
「今日は久し振りにお仕事が入ってるでしょう~起きない人はこうです!!」
マリアが抱き着いている毛布を掴むと軽々とそれを持ち上げてブンブン振り回す。
ルイーズは180cmを超える長身でとても力が強いのだ。
「わわわわわわわ…!!起きます起きます!!はい起きた!!」
毛布に必死でしがみ付き起床の宣言をするマリアであったが時すでに遅し
無情にも遠心力で吹っ飛ばされ壁に大の字にぶち当たりめり込む。
ギシギシと軋む壁、天井からパラパラ埃が落ちて来る。
「毎朝毎朝うるさいぞ!!」
階下の雑貨屋の爺さんから苦情の怒鳴り声が飛んで来る。
「あ…ご免なさい~…」
ルイーズが窓顔を出しから階下に向かって謝罪する。
実はこの爺さんはマリアとルイーズに部屋を貸している言わば大家だ。
機嫌を損ねるのは得策ではない。
「あ~いててて…もうちょっと優しく起こしてよ~…」
壁から出てプンスカと口を尖がらせて文句を言うマリア。
「そう言うなら声を掛けた時に起きてください…」
「へいへい」
ルイーズの小言を話半分に聞き食卓に着くマリア。
何も言わずにパンに噛り付く。
「食べる時は頂きますでしょ~お行儀が悪いですよ?」
ルイーズはまるでマリアの母親だ。
実際、マリアの世話は全て妹のルイーズがずっと面倒を見て来たのだ。
姉のマリアの身長は約140cmで妹のルイーズが180cm…
事情を知らない他人が見れば二人は姉妹どころか親子にすら見えるだろう。
勿論ルイーズが母親でマリアが娘だ。
「さあさあ朝ご飯を食べ終わったら着替えてお出かけの準備をしますよ」
「…うん…もぐもぐ…分かった…ゴクン…」
「しゃべるか食べるかどちらかにしてください…ほら頬っぺたにソースが付いてますよ~」
ルイーズはナプキンでマリアの顔を拭いてあげた。
本当に何から何までマリアは子供であった。
「よ~し!!準備はできたわ!!」
赤い帽子を被りポジションを直すマリア。
赤いトレーナーに紺色のオーバーオールといういで立ちだ。
「はい!良く出来ました」
一方ルイーズは帽子にオーバーオールのスタイルはマリアと一緒だが
トレーナーがグリーンでオーバーオールは白であった。
「所で今日の仕事場所は?」
「はい、中心街の下水道です~何でも害虫や害獣が大量に出て困ってるのだとか~
今日の仕事はその駆除ですよ~」
ルイーズは背中に大きなリュックサックを背負っている。
仕事に使う様々な道具が詰まっているのだ。
「ん…」
マリアがルイーズに向かって両腕を伸ばす。
「…本当にしょうがないですね~」
ヤレヤレといった表情でルイーズはマリアの体を両側から掴むと肩車した。
「お~!!さすが我が妹よ!!最高の見晴らしだわ!!」
上機嫌のマリア。
「では行きますよ~姉ちゃん」
「うむ!!」
マリアとルイーズは一路目的の下水道へと進路を取った。