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第3話 孤独なライオン

ロンドがナギ先輩とカレーを食っている間、校内の別の場所ではやはり、事件が起きていた。

この学校で事件が起きない日なぞ無いのである。


「うらああああああああっ!!。」

生意気そうな男子学生の咆哮が、実技棟の屋上に轟く。


ここ、実技棟は、学生達が魔法や武器、能力(スキル)を実際に試したりする時、学園が全焼しないように他校舎から隔離されて作られた、何部屋もの実技練習スペースから成る巨大建造物である。

またこれとは別に、この学園で主だったコロッセウム等の大会、イベントが開催される時に会場として使用する円形ドーム状の巨大建造物、エンドランがある。

二つの建造物の間は密接で、体育会系の部活に所属する者がよく行き来する。

そんな実技棟の屋上が、いろいろと物騒な事になっているのである。

その様子は傍から見ると、何人もの荒っぽい男子学生が、一人の金髪の男子学生をリンチしているという構図になっていた。

実際、そうであった。だがしかし、その金髪の男子が弱弱しく吹っ飛ばされていたという訳でも無かった。

「喰らえこの野郎ッ!『真拳(シンケン)』ッ!。」

威勢のいい掛け声と共に、多勢側の男子学生が右の拳を放つ。

途端、拳には白く輝くエフェクトが付加され、金髪男子に襲い掛かった。


この『真拳(シンケン)』というのは、この能力(スキル)につけられた名前である。

スキルというのは、この世界の全ての種族が、それぞれのスキルに課された「条件」を達成した時に習得する事のできる圧倒的な力であり、その力は時に世界そのものを動かす事もある。

例えば、この『真拳(シンケン)』。これの習得に課せられた条件はただ一つ。

「ある程度経験を積んだ「格闘家」になる事。」

つまり、天職を格闘家とし、少し修行を積めば習得が出来るという訳である。

そして、ほかの数多くの特化系スキルにも課せられている、「天職の修行」。ここにある天職とは一体、何なのか。


一言で言えば、その者の属性である。

天職には様々な種類が存在し、「格闘家」の他には「僧侶」、「魔術師」、「呪術師」、「聖騎士」……

星の数ほどあると言っても、過言では無い。

そして、近年では、その天職を変える事の出来るシステムが本格的に樹立した為、多くのスキルを習得する為に「転職(チェンジ)」をする者も多い。

一つ一つの天職にそれぞれ違った特徴がある為、うまくそれらを活かせば、より大きな偉業を成し遂げる事も夢では無いのである。

ちなみに、「勇者」は天職では無く、肩書である。よってどんな天職に就いている者でも勇者を目指す事は可能なのだ。


この男子は現在、格闘家なのだろう。格闘家特有の機敏な動きも利用し、鋭い一撃が今まさに金髪男子に叩き込まれようとしていた。

が、二秒後に起きた現実は周囲の予想の斜め上を行くものであった。

殴りかかった男子の拳が、金髪男子の片手とぶち当たり———


「静止」した。完全に止まってしまった。

数秒の間の後、金髪男子が口をようやく開いた。

「———これで終わりか?。」

ニタァと顔を歪め、犬歯を剥き出しにして笑いながら。

得も知れぬ重圧を放つその一言は、周囲を一瞬で凍り付かせる。

「え、ええい!畜生!全員かかれッ!。」

大将らしきその人物の掛け声に反応した男子学生が、一斉に金髪男子に飛びかかる。

「このバケモンがぁ!『円月蹴り』!。」

「怪物め、成敗してくれる!『石拳(セッケン)』!。」

月の様に優雅な蹴りと、石の様に固い拳が、金髪男子に双方から炸裂する。

呆気なく金髪男子は吹っ飛んだ。

「……やったのか……?。」

訝しげに、金髪男子が激突した壁を凝視する。

壁には思いっきり彼がめり込んでいた。音沙汰一つ無い。

「…いや、心配だ。フリかも知れない。」

「でも、あいつぁ俺達格闘家の敵ですぜ!?。とっととトドメを刺しましょう!。」

「落ち着け。慎重に行動しないと———」


「『零弧(レイコ)』。」


「壁から」放たれたその言葉の後に続いた出来事は、まさに刹那のモノであった。しかし、当人達にとっては、「ゆっくり流れる時間を、何もできずにただ見つめているだけ。」という状態であった。


まず、金髪男子のめり込んでいた壁に、静かに輝く「円」が描かれた。

それも一瞬の事。そして、その壁の砕け散る轟音が粉煙の中から聞こえる。


「『双竜拳(ソウリュウケン)』。」


粉煙の中から飛び出た強い衝撃波が地面を揺らす。

刹那、二匹の竜の幻影が生物の如く飛び出す。赤き竜と、青き竜。

二人の男子が為す術も無く吹き飛ぶ。双頭の竜は、彼らに断末魔をあげる時間さえも許さなかった。

残った三人の男子に、冷たい戦慄が走る。


「『魔人之右手(マジンノミギテ)』。」


今度現れたのは、見る者にこれ以上無い程の極上の震撼を与える「右手」。

禍々しい紫色の右手である。

その右手が、残りの男子学生全員をその鋭い爪で引っ掻いた。



「———つまんねぇな。お前達。」

先程まで健闘していた男子学生の上に足を載せ、金髪男子は空を眺めていた。

しかし、その眼に映っているのは、空では無かった。

森の奥。嗤う男達。そして、助けを求める少女。


金髪の彼は、イズマ・バキルス。

彼の周りにもう戦う学生達は残っておらず、あるのはうず高い、気絶した男達の山のみ。

彼は独りになってしまった。






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