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第1話 落陽の放課後

今からおよそ八年前。

それまで長い間続いていたと言われる、魔族と多種族連合軍の戦争に、遂に終止符が打たれた。

あらゆる魔族達の頂点に君臨していた魔王、ゲモン。数多の魔族を引き連れて異種族の住まう六大陸全てを手中に治めんとして侵略をし、悪事の限りを尽くしてきた彼の力は巨大で、もう誰にも止める事は出来ないと思われていた。

何せ、六大陸全ての英知の結晶とも言えた最終兵器「女神の槍」でさえも一撃で沈めてしまうのだ。勝てる訳が無い。

しかし、その現状を大きく覆したのは、たった一人の青年なのであった。

魔王を前にして怖気づかず、剣を抜き、瞬く間に魔王を討ったとされる、六大陸の英雄と呼ばれた青年。


その名を、アルカード・ヴァレンタインという・・・



窓からは、憂いを帯びた橙色の夕日が差し込んでいる。

その光は、まるでスポットライトのように一人の人物を照らしていた。

その人物は、椅子に座り、一冊の本を机に置いて読みふけっていた。その机と椅子はどちらも木製であり、読書をする「彼」に勤勉そうなイメージを与えている。

彼は真剣な眼差しでページをめくる。その透き通った青い瞳は、鋭く本を見据えている。

と、徐々に彼の無の表情に、焦りの色が混じり始めた。

ページをめくる速度が少しずつ加速していく。ページがめくられていく度に、彼の焦りは目に見えて分かるようになっていった。

「・・・無い・・・無い・・・無い・・・・。」

何やら呪詛を唱え始めた。その瞳にはもう、先程までの鋭さは残されていない。

とその時、遂にページが途切れた。

読了である。

「あ・・・あ・・・・。」

彼の脳裏によぎったのは「絶望」の二文字だった。

「・・・うああああああああああああああああああああああ!!。」


「うるさいッ!!。」

直後、鈍い殴打音が鳴り、発狂しかけた彼は思いっきり後方へ吹っ飛ぶ。

「痛ァッ・・・少しは手加減してくれよぉ・・・・。」

何とか昇天せずに済んだ彼は、角ばった重い本で勢い良く殴られた部分を痛そうにさする。

「図書室は静かに読書する場所だって、習ったでしょ?。」

彼を「鈍器」でぶん殴った、声の主である彼女はニッコリと笑う。

その静かな微笑みを見た彼は、本能的な生命の危険を感じ、抵抗を諦めた。

「でもよぉミレア。俺ぁ騙されたんだぜ!?。絶望に浸る時間くらいくれたって」

「騙されちゃったあんたにも少しは責任があるわよね。」

あっさり論破され、ふて腐れる彼。

ミレアと呼ばれた彼女は少しの間を空けて、ため息をついた。

「何でそんなにお人好しなのかしら・・・。」

「なッ、良いじゃねーか別に!。皆が笑顔になってくれるし!。」

「だからって騙されていいの?。」

「ぐぅ・・・。」

答えに窮した彼は、話題を逸らそうとする。

「そ、そういや明日テストじゃなかったか?。」

「ああ、そう言えばそうね。何、自信でもあるの?。」

「いや、全く無いんだけどよ・・・。」

彼の発狂には、明日のテストが大きく関わっていた。


「何ィ!?。図書室の本の間にテストの答案が挟まれていただと!?。」

「ああ。『種の哲学』っていう滅茶苦茶分厚い本だ。」

「うし!放課後探すわ!。」


以上である。


「もしやと思ってシリーズ全巻探したんだけどよ・・・。」

「うん、バカね。」

「この時間を勉強に回しておけば・・・あぁぁ・・・。」

「ま、頑張って。応援してるわ。」

呆れの色の混じった励ましを送ると、ミレアは席を立った。

がしっ。何かがミレアの制服の裾を掴む。

「ちょ、何!?。」

「お願いです助けてくださいぃ。」

目に涙をため必死に懇願する彼。しかし彼女はその手を振り払う。

「あんたなら一人でも十分やっていけるわよ。」

そしてすたすたと出口まで歩いて行ってしまった。

「・・・詰んだわ。」

彼はぐでっと机に倒れこむと、これからどうしようか悩み始める。


机が揺れる。誰かが何か置いたようだ。視線を向けると、そこには何冊かのノートが置かれていた。

「・・・あまりにも可哀想だったから来てやったのよ?。」

ミレアの背中には、彼にしか見えない後光が差していた。


彼の名前はロンド・レアーガ。

西方英雄学園の一年生であり、ゆくゆくは勇者を目指す十六歳である。


彼と、彼の幼馴染である少女ミレア・シルキィは、小さな喧嘩を何度も繰り返しつつ(傍から見ると仲が良いようにしか思えない)、明日の「テスト」へ向けて着々と勉強を進めていった。

窓の外では鳥が鳴いていた。その鳴き声は、この学園が平和である事を裏付けするような、間の抜けた音色だった・・・。







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