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「鉱石西瓜をひと袋包んでちょうだい。それから、今すぐ食べるから岩塩を振ったのをひとつお願い」
「はいよ!」
鉱石西瓜売りの地底の小人は、どこか神経質そうだった宝石職人たちより朗らかで威勢が良かった。岩にはりついたフジツボみたいにでこぼことしたおろし金で岩塩を荒くおろすと、鉱石西瓜に振りかけてダーリャに手渡してくれる。
「持って帰る分は割れないように包んでやろう。そいつを食べてちょいと待ってな」
「ありがとう」
海の中では岩塩なんてないし、何より周りは一面塩味の水。だから、鉱石西瓜を岩塩と合わせて味わうことができるのは、夜の市場へお使いに行った子だけのぜいたくだって、お姉様が言っていた。
本当だわ、潮の味とは全然違う。
人魚が食べる果物といったら、風で海に落とされたのか、沈んだ人間の船から見つけるものくらい。もちろんみんな海水に浸かってしまっているから、岩塩もそう変わらないんじゃないのかしら、と思っていたのだけど。でも、岩塩のしょっぱさは海の水よりどこか丸い気がして、鉱石西瓜の濃い甘みを引き立てている。西瓜のざくざくしゃりしゃりした食感に、荒い岩塩の粒の食感も混ざって、噛んでいるのさえ楽しいくらい。
夢中になって食べていたから、ドワーフがお土産用の鉱石西瓜を包み終わる前にダーリャは買った分を食べきってしまった。指先や唇についた西瓜の欠片をお行儀悪く舐めながら、ダーリャはドワーフに聞いてみた。
「ねえ、商人さんなんだから夜の市場には詳しいでしょう?」
「まあね、何か探しているものでもあるのかい?」
ダーリャの問いかけに、ドワーフは得意そうに笑って答えた。女の子に教えることがあるのが嬉しくてたまらないみたい。そしてたまたま話しかけた相手がおしゃべりなのは、ダーリャにとっても嬉しいことだ。二本脚で歩くのも、爪先を締め付ける靴もまだ慣れなくて、すぐに疲れてしまいそうだったから。愛を売っているお店がどこにあるのか、教えてもらえるなら迷わなくて済む。
「ええ」
「待て、欲しいものを当ててみせよう。良い食べっぷりだったから……美味しいお菓子のおすすめが聞きたいんだろう?」
「違うわ! 私、鮫とは違うもの。もうお腹いっぱいよ」
得意そうな表情のまま、ドワーフが全然的外れなことを言ったので、それから、そんなにがっついて見えたのかと思うと恥ずかしくて。ダーリャはくすくすと笑ってしまう。
「ふん、じゃあ今度は飲み物だろう。西瓜の濃い味で喉が渇いたから、さっぱりしたお茶が欲しいんだろう!」
「それも外れ! そんなに食いしん坊に見えるのかしら?」
西瓜を包むドワーフの手はもうすっかり止まってしまっていたけれど、ダーリャは気にしなかった。このやり取りが何だか楽しくなってしまっていたから。ドワーフが思いもつかないものを探しているのだと思うと、何だか得意になってしまうから。
肩にかかる髪をくるくると指先でいじるダーリャを、ドワーフの商人はじっくりと眺める。綺麗に編み込んで一部を垂らしてもらった凝った髪形、髪の色と合わせた青い宝石の首飾り、悩んだ末に選んだ紺色のつやつやした生地のドレス。――やっと、ダーリャがどれだけ可愛いか気づいてくれたみたい。
「そうか、着るものやアクセサリーか! 指輪とか腕輪とか髪飾りとか。小さくても女の子だからな!」
そう、ダーリャは女の子だ。そんな当たり前のことを、さも名案のように手を叩いて大声で言うドワーフがおかしくて。ダーリャはお腹を抱えて笑った。尾ひれがある時のように水の中を転がるつもりになってしまって、危うくその場に転びそうになったほど。
「違うわ、違うわ! それは、そんなのも買うつもりだけど。おすすめのお店はもうお姉様に聞いてるの」
「ううん、じゃあ分からないな……いったい何を探しているんだ……?」
困ってしまった様子のドワーフに、ダーリャは答えを教えてあげることにした。二本の脚をしっかりと踏みしめて、胸を張りながら。他の子には思いつかないような素敵な買い物をしようとしている自分が、とても偉くなったような気分で。
「あのね、私、愛を探しているの。試してみるだけだからほんのちょっとで良いんだけど。そういう、小分けで扱っているお店、ないかしら?」
堂々と言い切ったダーリャを、ドワーフは目を丸くして見つめていた。