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第3話 おやおや、親のことで……

 試合も明後日に迫った木曜日。講義が午前中に終わった野球部1回生は、運転免許取得やバイトなどの事情があるメンバーを除いてグラウンドにいた。言うまでもなく明後日に備えた練習である。

「はい、4」

 十河が鋭い打球でノック。

「6」

 セカンドがゴロを捕って2塁へとグラブトス。それを走ってきたショートの政が捕球して、2塁ベースを踏んで1塁へ。

「あいよ、3」

 4―6―3の併殺を完成させる1回生内野陣。

「十河ちゃ~ん。暇だから打って~」

「はい、サードっ」

 慶に頼まれたデレデレ十河は、軽く当てる程度のスイングでゴロを転がす。暇つぶしに空いたポジションに入りノックに参加していた慶は、サードの守備位置からゴロの打球へ猛ダッシュ。右手に付けたグローブでボールを拾うと、左に持ち替えてツーバウンドの山なり送球。

「よし、できた」

 自慢げに左手を突き上げる。よっぽどの鈍足でもない限りセーフのタイミングではあるが、彼女的には楽しそうでなによりである。

「次はもっと速い打球でも打ってもらう?」

「無理、無理。私、今ので割と精一杯だから」

 左利きなんてスポーツで有利な武器を持っている彼女だが、野球経験は無く、近いものは中学時代の体育でやったソフトボールくらいのもの。自称、得意なスポーツであるバレーボールも、せいぜい体育レベルの得意である。

「十河、こっちも暇だから打て」

「分かったよ、そら」

 十河の放った打球は、政の真正面とは言えフルスイングの鋭い打球。それも目の前で跳ね上がるショートバウンドで処理が難しい。

「あぶっ。おまっ、なんで僕の時だけこんなドギツイ打球なんだよ」

「と、言いながらも捕るんだよなぁ。お前」

 居合い抜きのように左手を右から左へ振りながら捕球した政は、文句を言いながら1塁へと送球。

 動体視力と守備能力に関しては定評がある三好政。少しバッティングが物足りない点と、左投手に弱い点がある。が、動体視力を生かしたある程度の巧打力と、優れた選球眼があるのだから、選手としては地味だが悪くない。と言ったところであろうか。

「うぃ~っす」

「先輩。こんにちは~」

「「「こんにちは」」」

 気怠そうにやってくる、ユニフォーム姿の3回生の先輩・高島(たかしま)。彼にいち早く気付いた十河があいさつすると、それにその場にいた1回生全員がバラバラと続く。

「先輩、どうかしたんですか? サボりですか?」

 調子に乗っている十河が問いかけると、高島は彼の頭を小突く。

「バ~カ。お前と一緒にすんな。理由は知らんが臨時休講」

「じゃあ、他の先輩もおちおち来るんで?」

「いや、あの講義を履修してるのは俺だけじゃなかったか?」

「あぁ。友達いないんですね?」

 割と全力の右ストレート。痛々しい音をさせた十河が頭を押さえてうずくまる。

「いってぇぇぇ。動脈性出血しちまうぅぅ。脳内出血か、くも膜下出血で死ぬぅぅぅ」

「脳出血やくも膜下出血の症状の1つが言語障害。それだけ用語が出てくりゃ大丈夫だ。別に友達いねぇわけじゃねぇよ。同じ学科に野球部がいないだけだ」

 先輩は十河の落としたバットを拾い上げて担ぎ上げる。

「しっかしまぁ、よくそんな言葉が出てくるもんだ。ICHとか、SAHとかはやった?」

「何ですか? それ」

 本当に痛そうに、やや涙目の十河。知らないならいいや。と傍を向く高島に悪気はない。

 因みにICH=脳内出血、SAH=くも膜下出血。

 いずれも医学関係の略語である。

「ほら、十河も守備につけ。俺がノックしてやる」

「へ~い」

 守備につく十河は、内野限定ノックであるため、本職は外野だがサードの守備へつく。そしてあわよくば慶と話をしようと期待していたものの、

「ポジション埋まっちゃったし、抜けた時のために外野にいよ~」

 慶に外野へと逃げられる。

「なぁ、十河」

「なんだよ」 

「慶に逃げられたのは悔しいだろうが怒るな。先輩って何学部(どこ)だっけ?」

「医療事務学部。俺と一緒」

「なるほど。経済学部の僕には分からん」

 高島の所属は医療事務学部医療事務学科。一方で十河は医療事務学部医療工学科。学科は別だが学部は一緒だ。ついでに政は経済学部経営学科、慶は国際コミュニケーション学部英文学科。こちらとは同じ点がまったく見いだせない。

「おいこら、そこ。しゃべるのやめっ」

 怒り出す高島は、ショートへ向かってフルスイングのノック。

「ちょ、なんでウチの野球部は怒りながらノックするんですか? 高島先輩しかり十河しかり」

「なんで政は怒りながらの痛烈なノックを平然と捌けるんだ?」

 守備のあまり得意ではない十河にとっては、政のすぐれた守備能力がまったくもって理解できない。

「今度の広島工科との試合。三好の守備がカギを握るかもな」

「いや、鍵を握るのは俺だな」

 高島の予想に反する十河。

「俺、次の試合でヒットを打ったら――」

「無理」「無理だな」「できるわけないじゃん」

「俺、まだ何も言ってない」

 1の主張に対し、チームメイト全員による四面楚歌の総攻撃。

「それを世間じゃ、死亡フラグって言うんだ」

 冷静な高島に政が続く。

「それに言わずとも分かる。その先への返答は『無理だな』だろうな」

「じゃ、じゃあ、なんて言おうとしたか分かるのかよ」

「慶に付き合ってくれって言うとかだろ?」

「ま、まぐれって怖いな」

「図星か」

 慶LOVEの十河であることを考えると予想は容易い。

「ためしに聞いてみれば? ヒットを打ったら付き合ってくれって」

「よ、よし」

 軽い気持ちの誘導に乗っかってしまうほどに単細胞・十河。外野へと振り返る。将来、詐欺の被害を受けそうで心配な男である。

「慶ちゃ~ん」

「は~い」

「次の試合、ヒットを打ったら付き合ってくれぇぇぇぇぇ」

「いいよ~」

「よっしゃぁぁぁぁ、やる気が出てきたぁぁぁぁ」

 ガッツポーズ。

『(こいつ、本当に慶と約束しまくるな。いくつか覚えてないだろ?)』

 よく慶と一緒にいる政も、いったい十河がどんな約束を交わしていて、今現状で生きている状態の約束にどのようなものがあるかは、まったくもって覚えていない。

「いいのか、十河」

「もちろん。付き合ってくれるんだぜ。俺、もう死んでもいいや。人生バラ色だし」

「いや、そういう意味じゃなくて……」

 死んだらそのバラ色人生も無くなるわけだが、少なくとも今現在、十河の周りには赤いバラが咲き誇っている。

「慶ぁ~いいのか~」

 大声で聞いてみる政。すると彼女も大声で返事を返してくる。

「付き合うって、買い物とかでしょ~?」

「だ、そうだ」

 バラの花びら、散る。

「いや、いい。買い物でも付き合ってもらえるならいい」

「政も一緒ね~」

「だ、そうだ」

 バラの茎、折れる。

「い、いや、いい。ここは政の都合の悪い日にちを指定すれば」

「予定のいい日教えてねぇ~。政も予定を教えてね~。私が決めちゃうから~」

 辛うじて残っていたバラの茎、燃える。

 要するに、政・慶の2人、おまけ・十河の買い物。十河が誘ったはずが、いつのまにやら附属品に追いやられてしまう悲しい男だ。

「よ~し、告白に失敗した十河。男は野球で青春の汗を流すぞ」

「俺はまだ諦めません」

「その残った未練。断ち切ってくれるわぁぁぁ」

 鋭いノックを放つ高島。守備の下手な十河はボールに追いつけず外野へ抜かし、それをカバーのために立っていた慶が拾って内野へと返す。さらにその後も、何やらおかしなテンションに突入し始めた高島と、慶に無駄な体力を使わせまいという愛の三塁手・十河による、妙な守備練習が開始。ほとんど他のメンバーは面白おかしくながめるだけである。

「そういえば、先輩」

「どうし、たっ。政」

 歯を強くかみしめ力を入れながら、九分九厘届かないであろう場所へ打球を飛ばす高島。そして、無理にでも捕ろうと十河が横っ飛びする。

「先輩は、明後日は試合に来るんで?」

「どうせ行ってもやることないし、バイト。生計を立てないといけないからな」

 足元のボールケースから汚れたボールを取り出し、またもイジメ級の打球を飛ばす。

「生計を立てるって先輩。親からの仕送りは?」

「あんなクズからの仕送りなんかもらってない。どうせ特待生で学費半額だし、奨学金も給付型と貸与型の2種類もらってるし。あとはバイトすれば、あんなのに頼らないでもやっていける」

 この高島。特待生になったうえに、給付型の奨学金をもらえるクラスの頭の出来のようだが、親とは仲が悪いようで。それも親を『クズ』と呼んでいるあたり、ただ悪いというレベルでもなさそうである。

「あんなの、もうさっさと死んでしまえばいいのにっ」

 全力フルスイングの打球は、十河を狙ったつもりが打ち損じて、完全に油断している政の真正面へ。打った高島や周りのメンバーも打球直撃は免れないと肝を冷やすが、

「そこまで言いますか。先輩」

 余裕そうに片手でライナーを捕って1塁送球。

「ソ、ソウデスネ。ソ、ソコマデイイマスヨ。ハイ」

 驚愕の反射神経に、高島はついカタコトで返事。

「慶が聞いたらなんて思うか……あっ、慶」

「わざとらしいぞ」

 全身砂まみれになった状態でツッコむ十河。いたのは始めから分かっていただろ? と痛い人を見る視線。

「私はあまり気にしないよ。親なんて人それぞれだし。私の死んだお母さんはいい人だったけど、高島先輩の親はとんでもないってだけじゃん。医者は医師免許がないとなれないし、自動車の運転手は運転免許がないとなれないけど、親に資格はいらないから。そりゃあ無資格でもなれるなら、聖人もいればごみクズもいるよ」

 可能な事ならば親には生きていてほしかった慶と、むしろ死んでこの世からいなくなってほしい高島。ついでに高島を擁護するつもりの慶の辛口批評で、気まずい事この上ない空気が漂っているわけだが、

おやおや(・・・・)()の事でまずい雰囲気じゃないか」

「十河。それはダジャレか?」

「政。ダジャレには深く切り込んじゃだめなんだぞ」

「つまり先ほどのダジャレは、『おやおや』と『親』を掛けた十河的高等テクニックで――」

「や~め~ろ~よ~」

 十河の超絶的に寒くてくだらない、いい意味で空気を読まないダジャレが、滞った悪い空気を入れ替える。彼は慶を救うために自らを犠牲にするような発言をしたのだが、その代償はあまりにも大きかった。

「相槌と名詞の比較のため、『布団が吹っ飛んだ』ほど分かりやすくはないが、ただ『吹っ飛んだ』のように元の名詞を変えていないため、分かりやすい人には分かりやすいダジャレだな。また、2回続けることで『おや』を強調させることにもなり――」

「や~めろって~」

「つまり、『相槌』を用いた一見すると分かりにくいダジャレだが、名詞を変えていない事と、語を重ねることによる強調で、その分かりにくさを相殺したと言う事だな。三好政現代国語担当助教授」

「そう言う事です。さすが、高島現代国語担当教授」

「せ、先輩も、やめてください」

 ダジャレやボケとは説明されると、得てして恥ずかしくなってしまうもの。ゆえにその手のものは素直にツッコむか、少し触れた程度でスルーするのが暗黙の了解。しかしあえてそれに触れてしまう、場外ホームラン級に会心の一撃を見せる者もいる。この場では政と高島先輩がそうである。

「ねぇ、みんな。十河ちゃんもやめてって言ってるし……」

 そのままの位置でも声は聞こえたであろうが、あえて外野から走ってきて仲裁に入る慶。その様子に目を輝かせるが、油断は大敵である。

「『おやおや。親の事で』ってダジャレの事は早く忘れよ。『おやおや。親の事で』の話をずっとしてると練習すすまないし、あまり『おやおや。親の事で』って言ってると――」

「やめてぇぇぇぇ」

 今回の慶は敵であった。

「そうだな。慶もそう言ってるし『おやおや。親の事で』ってダジャレの件はなかったことにしようか。高島先輩も」

「俺も政に賛成だ。『おやおや。親の事で』ってダジャレにずっと構ってるのもなんだし、『おやおや。親の事で』ってダジャレに構ってるくらいなら、むしろ『おやおや。親の事で』ってダジャレよりも論ずるべき――」

「だ、誰か助けてぇぇぇぇ」

 他の1回生メンバーに助けを求める十河ではあるが、あいにく他のメンバーは助け船を出すどころか、十河に向かって総攻撃。座礁船を沈没させようとする勢いである。それも傷だらけで沈没寸前の小型漁船に対し、戦艦・大和の460ミリ砲で集中攻撃を仕掛けるがごとくオーバーキル。

「俺なんかさ、どうせさ、面白いこと言えねぇよ? 芸人じゃねぇもん。でもさ、あそこまで言う事ないじゃん。あそこまで言っちゃったらさ、もう、しゃべるの怖くなるじゃん」

 あれから5分。完全に心の折れた十河は、ファールグラウンドにてうずくまっていじけてしまっている。そんな彼に今度こそ助け船を出したのは、結局は心優しき慶。

「ごめんね。つい周りが面白そうだからつい乗っちゃって」

 彼の横へとしゃがみこむ。そして背中から左手を回し、彼の左肩を叩く。

「悪気はなかったんだ。ごめんね。許して」

 かれこれ懇願する姿に、許さないという選択肢は、頭の中を100年間探しても出てこない。むしろ許すという選択肢が、探す前に『自分ならここだ』と主張する。

「う、うん。別に俺、気にしてないから」

 と彼女に対しては言う。これは本心なわけだが、一方で思うところもある。

『(慶ちゃんは許す。けど、もちろん、他の奴は絶対に許さ――)』

「他の人も許してあげてね。悪気はないみたいだから」

「もちろん」

 許さないという選択肢は彼には無い。

 むしろ、この一連の流れによって得たものを考えると、許さないといけないくらい。

 さて。その得たものとは?

「ほら。あれだけボコボコに言った私が言うのもなんだけど、元気出して」

 そう肩を叩く慶。

 さて。現在の状況を整理すると、彼の右に座り、背中を通して彼の左肩を左手で叩いている状況。つまり、彼の顔と彼女の顔は非常に近い場所にあり、彼女が十河の方を向いて話をすると、生暖かい息がかかるほど。ついでに彼女の大きいような、大きくは無いような、けど小さくもない胸も、時々十河の右腕に当たっているわけで。

『(やべぇ、やべぇ。めっちゃ可愛い。めっちゃ胸当たってる。めっちゃ左肩叩いてくれてるぅぅぅぅ)』

 第一次ダジャレ戦争において総攻撃を受けた十河。しかしこの幸せな瞬間によって、彼の鳥頭は今までの流れを忘れてしまい、彼女との幸せな時間を上書き保存してしまう。最初こそボロボロにされたが、結局はプラス勘定。割と単純である。

「ほら、ファイト」

 立ち上がった彼女は、「十河ちゃんも立って」と手を差し伸べてくる。その手を強く握って引き上げてもらう。

『(うぉぉぉぉぉ、やべぇ。暖けぇぇぇ。慶ちゃんの手、暖けぇぇぇ)』

 いつまでも握っていたいところであったが、いつまでもそうしているわけにはいかない。早くもなく遅くもなく、しかし少し遅いか、という絶妙なタイミングを見計らって手を離す。彼はすぐに手を強く握り、自分の手のひらに残る彼女の温かみをしっかり脳に刻み込む。

「それじゃあ、明後日も試合だし、練習頑張ろう。エイ、エイ、オー」

「よっしゃあぁぁぁぁぁ」

 気合い爆発。グローブを拾い上げた十河はサードの守備位置へ飛び出す。

「来いや。高島ぁぁぁぁぁ」

「おまっ、先輩なんだから――」

 手に持っていたボールを放りあげる。そしてバットを全力で振り抜いた。

「呼び捨てにすんなっ」

 サード真正面の痛烈な打球。政ならば反応よく取れただろうが、十河はとれず。しかしグローブで弾いて前に落とすと、ボールを素手で拾って1塁へ全力送球。

「はっはっは。ボールが遅すぎて拍子抜けして落としちまったぁぁ。もっとの速いの打ってみろや。高島ぁぁぁぁぁぁ」

「お前、いい加減に――」

 次のボールを真芯でジャストミート。

「しろっ」

 今度は三遊間を抜けそうな痛烈なゴロ。それに飛びついた十河は、誰もいないはずのレフト方向へとトス。するとそこに、

「ナイス、十河」

 条件反射でサードのカバーに向かっていた政。転がっていて投げられない十河に代わり、政が難しい体勢ながらも、右足のブレーキをしっかり利かせて制止しながら1塁スロー。

 セカンド―ショートならプロで稀に見られることもあるが、プロでも珍しい、いや、プロでもかつてないサード―ショートのスイッチトス。

「うわぁぁ。十河ちゃんと政、凄くうまぁぁい」

「ふっ。俺にかかれば余裕」

「普通、サードならあそこから起き上がって投げるけどな。セカンドみたいに移動方向と送球方向が逆じゃないし」

「うるせぇぞ、政。そんなに言うならお前がやって――」

「あっ、また打ち損じた」

 調子に乗っている十河を狙った高島。しかし打ち損じて打球はショートへ。三遊間にいたためにまず間に合わない政かと思われたが、

「いよっ」

 先ほどの十河のように飛びついた政は、十河とは違い、俊敏な動きで起き上がって1塁へと送球。

「すまん、十河。何か言ったか?」

「イ、イイエ、何デモナイデス」

 お前がやってみろ。と言おうとした直後にやって見せたのだから、これはもう反論の余地なしである。それも十河のように打球が来ると分かってのものではなく、油断を突かれての先のファインプレー。

「うわぁ、やっぱり政、凄い。守備うまぁぁい」

 慶の拍手まじりの歓声に、政への敵対心を燃やす十河(バカ)

「おらぁぁ。高島ぁぁぁぁ……先輩。早く打てぇぇぇ」

「敬称を付けるのが遅いっ。くたばれ、十河」

「まだまだぁぁぁ」

「死に晒せぇぇぇ」

 高島の痛烈な打球は十河のグローブを弾く。

「ふっ。遅いな。打球が止まってるのかと思ったぜ」

「だったら捕れやぁぁぁぁぁ」

 恋愛と言う重病によってやる気十分の十河は、生意気な後輩に対して怒り心頭の高島とノックを打って捕っての大戦争。この十河はとある先輩と仲が悪い人間であり、そのうえで自ら敵を作るのだから大した根性である。と言っても、そのとある先輩との仲の悪くなった理由が、先輩の自称・剛速球(140キロ)を使った打撃練習にて、その自称・剛速球をことごとくヒットやホームランにしてしまったこと。不条理と言えば不条理である。

「あっ、まずっ」

 そしてまたも打ち損じた高島。

「まったく、先輩。ノックの練習をしたらどうですか? 危ないじゃないですか」

「と、言いながらも政は捕るのな。それも、普通なら左中間を抜けるライナーをジャンピングキャッチで」


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