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誕生日になった日

「誕生日、おめでとう!」


 ミリアが朝起きてレティと顔を合わすと、おはようよりも前にそう言われた。今日はミリアが門の外(オーダルー)で見つかってコールドウェル家に来てから丸二年経った日である。


「ありがと、レティ」


 生まれた日を知らないミリアに対し、レティが誕生日にしようと提案してくれたのがこの日だ。お祝いするから忘れないでねと言われているのでいつ言われるのかとは思っていたが、朝いきなりとは思っていなかった。


「よかったー。ちゃんと覚えててくれてた」

「忘れないって、約束したでしょ」


 そんな約束をした、レティの誕生日を思い出す。知ろうとは思っていなかったけれどもこうして祝われると少し嬉しくて、あの時レティがこだわっていたのが今更ながらに分かる気がした。


 門の中(ヘイブンクラウド)の案内人時代に一緒だった子どもたちも皆誕生日なんて知らなくてどうでもいいことだと思っていたが、これだったら一人一人決めて祝ってあげればよかったとも思う。言葉一つで、これだけ幸せな気持ちになれるのだ。


「でもレティ、流石に朝起きてすぐっていうのは予想外だった」

「こういうのは、予想外の方が楽しいんだよ」


 ついでに驚いたことも伝えると、レティはそんなことを言う。確かに誕生日というものは祝う方も祝われるほうもこの日に来るということが分かっている。不意打ちというものはまず無理だ。その中でどうにかして驚かそうというレティの想いが、ミリアはとても嬉しかった。


「……それに、負けたくなかったし」

「え?」

「な、なんでもないよっ」


 だが、その後レティが小さく呟いた言葉の意味がミリアにはよく分からなかった。なんでもないと言っているからには、ミリアが知る必要が無いことなのだろうけれども。少し慌てている様子なのが、少し気になった。


 が、その疑問はすぐに氷解することになる。遠話特有の頭の中に響く声が聞こえたからだ。


「誕生日おめでとう、ミリア」

「……あの日、結局誕生日うやむやにならなかったっけ?」

「でも、この日が妥当でしょ?」


 わざわざミリアに一言言葉をかけるためだけに、アレンは遠話で朝一に声をかけてきたようだ。よくやるなあと思いつつ、そもそもアレンの誕生日に話した時にはミリアの誕生日をこの日にするという結論にはならなかったはずである。


 それを指摘したところ、至極真っ当な返答が返ってきた。確かに今日にするのが一番妥当だし、だからこそレティと決めた日もこの日なのである。あの日否定したのはどちらが先に生まれたことになるかという点が話題になっていて、この日にすると形式上アレンの方が先に生まれたことになるためである。


 今となってはどちらでもいいことだが、あの日の流れではなんとなく年下として扱われることがすごく嫌だったのだ。


「それはそうだけど」

「ね、だから今日がミリアの誕生日」


 楽しそうにいうアレンに毒気を抜かれて、ミリアはこれ以上の抵抗を止めた。それに、祝われるということが嬉しいということを既にミリアは知ってしまっている。それなのに、誕生日などどうでもいいとは言えなかった。


「分かった、ありがと。で、なんでこんな時間にわざわざ」


 それでいいという答えと、お祝いに対するお礼を言う。それから、なぜ遠話を使ってまでこの時間に言おうと思ったのかを聞いた。どうせ昼に会うのだ。そこで言えば十分なはずである。


「僕は誰に対しても、誕生日を知ってて遠話の許可とってる人には朝におめでとうって言ってるよ」

「なんでわざわざ」

「だって、お祝いされるのって嬉しいよね? 嬉しいことは早い方がいいじゃん」


 アレンの習慣には驚いたが、理由を聞けばアレンらしいとは思う。そんなことをしているといつか人が増えた時に生気(エルグ)切れを起こすだろうにと思う。流石にそうなったらアレンも習慣を改めるだろうが、ミリアは一応一言言っておくことにした。


「無理しない程度にね」

「うん。じゃあミリア、また後でね」


 そう言うとアレンとの遠話が切れる。そしてミリアはこちらをじーっと伺っているレティに気が付いた。先ほどレティが言っていた負けたくなかったという言葉を思い出す。アレンから遠話での突撃を受けた今なら、その言葉の真意が分かった。


「負けたくないって意味、よーく分かった」

「うん。一応、初めてだと驚かしの分類に入るからね……」


 去年レティもアレンにおめでとうの突撃を受けていたのだろう。それで、アレンよりも早くミリアを祝うために、朝会って一番に言ってきたのだ。


「確かに、すごく驚いた」


 レティが朝会ってすぐに言ってきた以上の驚きだった。ただ一言伝えるだけでこれだけ驚かされるということはなかなかないかもしれない。分かっていて情報を漏らさなかったレティは正しい。だがそれでも先を越されるのは嫌だからと顔を合わせてすぐに言ってきたところが、ミリアはすごく嬉しかった。

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