教えられない理由
今回アレン視点です。
銀の土台に美しい水空石が嵌められた指輪が、アレンの左薬指に光っていた。水と空を混ぜ合わせたような色の宝石は傾き始めた西日を受けてきらきらと光っている。
「よかったな。指輪、受け入れてもらえて」
アレンの視線を見て、ウォルトがそう言う。アレンはその言葉を聞くと、顔を上げてウォルトを見た。現在、二人はウォルトの部屋で雑談中だ。
「指輪の方は、受け入れてくれるだろうなーって最初から思ってたよ」
「そりゃ、あんな適当に言って婚約受け入れてもらえるわけないだろ」
「僕もあそこで言うつもりはなかったんだけど、一度否定したら後で言い出し辛くなりそうだったし」
ウォルトが言うことももっともであるとは分かっているのだが、あの場面で否定すると流れの中とはいえアレンがミリアと婚約をする気がないということになってしまいそうだったため、話に出すだけは出したのだ。
「そもそもなんで婚約したかったんだ。どうせ学生の間は一緒に住んだりできないぞ」
ウォルトが疑問に思うのももっともだ。結婚相手を決める時期は大体卒業前後である。今急ぐ必要なんて普通ならばまったくない。
「僕の家に入ることになれば、ミリアの卒業まで待たなくても僕の家が抱えてること、全部教えられるから」
だが、アレンは一つ普通ではない事情を抱えていた。女神を守る家であるホワイトガード家の抱えている特殊な事情は、基本的に卒業時まで秘密事項だ。だが、将来家に入るということになれば卒業前でもアレンが知っていることなら教えられる。
「それ言えば受けてくれたんじゃねーの」
「学舎卒業まで、言うの禁止」
ウォルトが言う通り必要性があることが分かれば頑なな態度だったミリアも少しは考えてくれたかもしれない。だが、本来ならばほのめかすだけでも禁止なのだ。
「俺には言ってるだろ」
「ウォルトは従弟で、僕に何かあったら次に関わる人だからいーの」
アレンがウォルトにそんな情報だけでも教えられているのは、アレンにもしものことがあった場合引き継ぐのは血縁の関係上ウォルトだからである。もっともそれは書類上のことで、本当に変わりが務められるのかというとそれは少し怪しいのだが。
「お前が抱えてる物、従弟だからって変われるようなものじゃないだろ」
「……どうしてそう思った?」
言っていないのにウォルトに指摘されてアレンは驚いた。気づかれるようなことしていたかなとアレンは思い、否定も肯定もせずになぜそう思ったのかを訪ねる。
「月一で外出してるのにこっそり門の中に行ってる一切様子が無いからだ。絶対に、アレンの身に何かあったらいけない。そういうものを抱えてるんだろ」
気づかれるようなことをしていたのではなく、何も無いならばしているはずのことをしていなかったということらしい。流石、十二年以上ずっと近くにいただけのことはある。たぶんウォルトはアレンが思うよりずっと、アレンのことを知っている。
「なんだ、ばれてたのかー」
「それぐらいわかる」
これまで一番色々な無茶につきあわせてきたしなぁと、一応自覚があるためアレンはそんなことを思った。そして、その位置をこれからはミリアにするという選択をアレンはしたのだ。現状はまだそれができる状態にはないが、学舎の卒業後にすべての情報に触れられるようになったら、なんの障害もなくなる。
「ミリアが兄弟だったらなー。何も気にせず全部話せるのに」
最初からアレンの家族だったら、知っていることの差を気にすることなくなんでも話すことができるのに。そんな思いを込めてアレンは呟く。それを聞いたウォルトの顔は一瞬だけ曇ったが、すぐに何事も無いかのような表情に戻った。
「それを祈るくらいなら、頼み込んで婚約してもらう方がまだ見込みがあるだろ」
若干呆れを含んだ声でそう言われ、アレンもその言葉に同意する。
「そうだね。大人しく二年半待つよ。ばらさずに説得できる自信が無い。それでもミリアの卒業より一年ほど早くなるしね」
そして今後の方針をウォルトに話した。早く婚約したいと改めて言うだけで、ミリアはアレンに何か事情があると勘付いてしまうだろう。それを避けることは難しい。今すぐ必要なわけでもないのだ。待てないことなどない年月だ。アレンはミリアが三百年の四月に改めて考えるという提案をしてきた時点で、その選択をすることを決めていた。
以上、アレンがいきなり色々言い出した裏側でした。
世界迷彩の果てシリーズを作成しました。多少並行して進めても問題ないと判断したので、ミリアの案内人時代の仲間の話の連載をスタートさせました。シリーズとしてまとめてあるので時間の都合がつけばぜひ読んでください。




