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お買い物

 茜色に染まる町並みは暗くなる前に買い物をすまそうという人で賑わっている。街灯が点灯するかしないかの昼と夜の狭間の時間帯は、人々を急かせる力があるらしい。通りを歩く誰も彼も、どこか急いでいる様子が見てとれる。


 そんな中でミリアは、非常にゆっくり歩きながら町並みの様子をじっくり観察していた。前回来た時は慌ただしくて結局町の様子が見れなかった。今度こそはという思いでいっぱいなのである。


「ミリア、何もそんなにゆっくり歩かなくても。帰りにゆっくり見られるし」

「前回そう思ってたらトラブルに巻き込まれて見れなかったし。だから道中でもじっくり見る」


 一緒に来たアレンが何か言っているが知ったことではない。そもそも町へ出てきてから目的地の側まで転移で来ているのだ。歩いている距離などほんの少しである。


「でももう着くよ。ほら、あの店」

「よし、さっさと決めて散歩しよう」


 もう目の前にある店を指さされて、ミリアは仕方なく今町並みを見ることを諦めた。これ以上今ここで粘るよりも、買う物を終わらせてから他の場所へ散歩に行く方針に切り替える。


「ちょっとは悩んでもいいんじゃないかな……」

「悩むべきところは先に決めてきたじゃん」

「いやこう、デザインとかこだわりないの?」

「ない。あまりにも突飛なのじゃなきゃなんでも」


 邪魔にならない程度の簡素な物ならなんでもいいなあと思っているのだが、こだわった方がいいのだろうか。だが確かに、こんな話をしながら扉を潜る店ではないことは確かだった。ベルのついたガラス戸をアレンが押し開ける。中には一面のショーケースに宝飾品が並べられていた。


「いらっしゃいませ」


 ベルの音を聞いてやってきた店員は子どもが二人で入ってきたことに驚いた様子だったが、二人の目の色を見て納得した様子だった。目の色を偽っているとここで説明が大変になることは分かっていたので、二人とも最初から隠していない。


「どのような商品をお探しでしょうか?」

「能力が付与された揃いの指輪を探しています」


 理知的な外見の女性店員に問われて、アレンが答える。


「オーダーメイドになりますがよろしいでしょうか」

「はい」


 それがこの店に来た理由だ。せっかく指輪を常時付けるなら能力が付与されたものがいい。そういうわけで能力付与した宝飾品を扱っているこの店にやってきたのだ。


「では、こちらに付与したい能力をお書きください」


 店員はそう言うとアレンに紙を一枚渡す。この店で選択できる能力が書かれていて、その中から選ぶのだ。宝飾店がどのような能力を付与した装飾品を売れるかは、付与スキルを持っている人とのコネクションがどれだけあるかに影響される。高級店ほど種類が多く豊富な選択肢が存在する。


 アレンに紙を渡した店員は、ミリアに展示ケースを見るように示してきた。


「どのようなデザインがいいか、ゆっくりお選びください」


 そしてそれだけ言って離れていく。割とどんなデザインでもいいと思っているミリアに選ぶというのは逆に難しい。とりあえず色々と見てみるが、似たり寄ったりに感じてしまうのは気のせいだろうか。


 困りながらも指輪が展示されているケースの中を覗いていると、一つミリアの目に留まるものがあった。空の色とも水の色ともとれる透き通った青の石が、雲とも波ともつかないうねりを彫り込まれたリングに嵌め込まれている。その不思議な意匠を見つけてから、ミリアはそこから目が離せなくなってしまった。


「お待たせ。何かいいのあった?」


 必要事項を書き終えたのかアレンがミリアの側に来る。そしてミリアがじっと一つの指輪を見つめているのに気が付いたようだった。


「ミリアは水空石が気に入ったの?」

「あ、うん」

「じゃあ、これで作るようにしてもらおうか」


 指輪ばかり見ていて石の名前まで見ていなかった。水空石は産出量も多く加工しやすいが壊すのは大変という宝飾品に使いやすい石だ。実物を見るのは初めてだが、本当に空と水を混ぜ合わせたような不思議な色合いをしている。


「お決まりですか?」

「はい、これでお願いします」


 ミリアが見ていた指輪をアレンが指さす。店員はアレンが書き込んだ紙に型番を書き込んだ。


「では、以上承りました。こちらが引換券となります。これを持って、十日後以降に再度ご来店いただけるでしょうか」

「分かりました」


 引換券を受け取って、アレンとミリアは店を後にした。


「あんなこと言ってたけど、ちゃんと選んでるじゃん。それとも、適当に決めた?」

「一応、これがいいかなって思うものを選んだんだけど。さあ散歩しよう」

「そう言うから説得力ないんだよ」


 そんなことを言ってはいるが、アレンの表情は分かっていてからかっている顔だ。


「いいじゃん、どっちも事実なんだし」


 あの指輪を気に入ったことも、早く終わらせて町を見て回りたかったのも事実だ。偽るような相手でもない。素の自分を出しているだけだ。


「そうだね。じゃあ帰る時間まで、ミリアの好きに歩くといいよ」


 付き合わされる身のアレンの許しも出たことだし、遠慮なくガイドとして使わせてもらおう。そんな画策をしながら、ミリアははやる足で歩き始めた。

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