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「で、なんでよりによって今その話を始めたんだ? しかも俺の家で」


 話が一段落したからだろう。当然の疑問をウォルトが尋ねてきた。


「僕も本当は今日は話さないつもりだったんだけど、でも、丁度いいかなって思って」

「それ、別にうちじゃなくてもいいだろ」

「終わったらさっさと帰ってたのはウォルトでしょ」

「それはそうだけど、呼ばれればすぐに戻ったぞ」


 確かに学舎でもできる話だ。アレンがウォルトの家で話すことにしたのは、ウォルトに移動させたくなかったからだろう。


「それは、話をする前にウォルトが鉢合わせしないようにだね」

「鉢合わせ? 誰とだ?」


 すごく、ものすごく言い辛いしそもそも言っても大丈夫なのだろうか。判断に迷う間もなく、アレンがミリアに指示を飛ばした。


「ほら、ミリア説明」


 顔は笑っているのに声が笑っていなくて、ひょっとしたら珍しくすごく怒っているのではないだろうか。他の日でもいいのにわざわざこの日に誘ったメアリーの方に責任はある気がするのだが、止められたのになぜ止めなかったのかということだろう。そんなもの、レティのためだからに決まっているのだが。


「えーとね、たぶん今頃、メアリーがこの家にレティを連れてきてるはず」

「は? ……あー、それでか」


 とにかく話してしまっていいようなので、ミリアは正直に話す。それを聞いてウォルトには、アレンがなんでこの話を今行ったのかが分かったようだった。


「もうレティと会っても、大丈夫だよね」


 この話題を持ち出したことで、ウォルトの中でくすぶっていた感情が上手く吹き飛んだのだろう。つまりミリアは利用された形になる。事態が緊急だったとはいえ、ミリアは少し面白くない。


「負けたのは俺だ。それで当たり散らしたりしねーよ」

「えー」


 ウォルトはそんなことを主張しているが、アレンはまったく信用してない顔だ。前回のこともある上に、感情が整理しきれる前に鉢合わせた場合ウォルトが何を言ってもレティは深く考え込んでしまうだろう。だからアレンはウォルトの意識をまったく別のことにずらしたのだ。それはいいのだが、別の手段は選べなかったのかとミリアは思う。


 そんな会話をしていると、軽いノック音が響き渡る。部屋の外に置かれている転移盤に誰かがきたようだった。


「入っていいぞ、メアリー」

「兄様、一緒にリビングでお茶でもしませんか? ……なんでアレンとミリアさんもいるのです?」


 ノック音だけで誰かを当てたことにミリアが驚いている間にも、扉が開いてメアリーが顔を覗かせた。そして部屋の中にアレンとミリアがいるのを見て、すごく不思議そうな顔をする。その後ろにいたレティも、アレンとミリアがいたことに驚いたようだった。


「ウォルトとレティがいきなり鉢合わせしたらよくないなーって思ったからだね」

「ミリアさんが、話したんですか?」

「うん、言わないほうがよかった?」

「どちらでもいいですが、わざわざ兄様の相手をしなくても大丈夫でしたよ」


 アレンがここにいる理由をメアリーに説明すると、メアリーはミリアがアレンに話したことにすぐに気が付く。言わないでいて欲しかったのだろうかと思って聞くと、そんなことはないという返答が返ってきた。


「アレンは兄様に、ミリアさんはレティさんに、過保護すぎませんか。喧嘩するならすればいいんです。これは本人たちの問題でしょう」


 それはそうなのだが、前回のことがあるせいで危うく見えて手を出したのだ。関係が悪化して欲しくはなかったから。


「私は、大丈夫だよ。何を言われても、こう返すもん。私の勝ち逃げって」

「勝ち逃げ?」


 レティが言っている意味が分からずに聞くと、その答えはウォルトから返ってきた。


「次は俺が勝つってことだ。体格とか力とかの男女差がはっきり出たら、俺に負ける要素が無くなる」

「今でギリギリなのに体格差がついたら私が勝つのは無理。対等な条件は今回で最後だったの。だから、私の勝ち逃げ」


 次は確実に負けるというのに勝ち逃げというのは不思議な感じだが、レティとウォルトの間ではそういうことになっているらしい。確かに次の武闘会までにウォルトは確実に成長するだろう。そういう時期なのだ。


「だからこそ、今回ちゃんと勝っときたかったんだけどな……」


 ウォルトが静かに呟いたのを、ミリアは聞き逃さなかった。悔しそうで、でも結果をちゃんと受け止めているその言葉を聞いて、案外本当に手を出さなくてもなんとかなったのではないかとミリアは思う。ただ、今さら過ぎることなので、既に雑談に変わり始めていたその場でその考えを口に出すことはしなかった。

ここでアレンがウォルトを優先して少しミリアをないがしろにしたことが、後々響くことになります。

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