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レティの事情

 翌日も、ミリアは勉強漬けになっていた。入学までに覚えなければならないことは山ほどある。それが分かっているから、ミリアは毎日の勉強に手を抜かない。一日中集中して勉強した後、部屋に戻って行うのは眠ることだけだ。しかし、今日はやたらと風が煩い。寝付くのに邪魔ではないけれども気になる。ミリアがそんなことを考えていた時だった。


 木製のドアが軽い音を立ててノックされる。玄関から個室へ繋がる転移盤は、個室に直接繋がっているわけではなく、一枚扉が隔てられている。転移盤は場所と場所を繋ぐため、直通させるといきなり部屋に人が現れてしまう。それを防ぐため、ドアの向かい側に転移盤を置くための専用のスペースを作っておく。個室の構造はそんな風になっていた。


 それにしても、こんな時間に誰がなんの用だろうか。不思議に思いながらもミリアはどうぞと声をかけ、中に入るよう促した。そして、入ってきた人物を見て、ミリアは驚く。そこにいたのは、今まで一度もミリアの部屋を訪ねたことのないレティだったからだ。


「え? レティ、どうして?」

「……遅い時間に、ごめんね。でも、どうしても聞いてもらいたい話があるの」

「聞いてもらいたいこと?」

「うん。私がなんで、他の人が怖いのか。その、理由」


 不思議に思い、そもそも大丈夫なのかと思って尋ねると、レティはミリアが予想していなかったことを言う。ただ、理由を話すと聞いて、わざわざミリアの部屋に訪ねてきた理由は分かった。信用してくれたから、部屋に二人きりでも大丈夫ということなのだろう。


 レティは持ってきていた指先ほどの大きさのガラス玉を天井にかざす。

「展開」

 その音声をきっかけにして、それまでミリアの耳に届いていた風の音がぴたりと止まる。レティが今展開したのは防音壁だろう。持ってきていたガラス玉には、防音壁の展開能力が付与されていたらしい。レティは、ミリアは信用してくれたようだが、他人に知られることに対しては相変わらず警戒心が強いままのようだ。


「これで、今から私が話すこと、聞こえるのはミリアだけ」

「うん」

「じゃあ、話すね。まずは、5年前に起こったこと」


 ようやく聞かせてもらえる、レティがここまで他者を怖がる理由。それに、ミリアはただただ耳を傾ける。今自分にできることは、静かに耳を傾けることだと知っているからだ。


「4年前の4月。門の外(オーダルー)では連続した不審死が起こっていた。一つ一つを取ってみれば、事故とも言えるような、そんな死に方。でも、そのうち死者に一つの共通点が見つかり、これらはすべて故意によるものだと判明した。死者の共通点は、同じスキルの保持者だったこと。これは、大きなニュースになった」


 スキルの種類は基本的には一人一人違うが、内容が被ることはある。そうやって似通ったスキルは、性質によってまとめて名前で呼ばれる。ミリアの記憶封印などは、思い出す条件の設定方法が人によって違っても、同じ記憶封印と認識されるのだ。

 そして、その同じスキルの保持者が一度に死亡して恐怖を覚えるということは。


「レティも、その人達と同じスキルを持っているの?」

 そう考えるのが自然である。レティも、ミリアの質問に頷いた。

「うん。邪魔だったのか、利益のためだったのか。そのどちらともだったのか。企んだ人間の思惑なんて分からない。一つ言えることは、その当時成人していて仕事を取っていた人全員が、それに巻き込まれて死亡したということ」


 無理やり働かせることで利益が出るスキルはいくらでもあるが、死なせることで利益が出るスキルなどあるのだろうか。ましてや、レティの黄色は守護に分類される種類である。邪魔になることこそあれ、殺すことで利益が得られるとは思えない。


「これは、門の外(オーダルー)にいる人の、全スキルをまとめている場所で調べたから間違いない。門の外(オーダルー)でそのスキルを持つのは子供が二人だけ。これが、その事件が起こった直後の状態。……けど、半年後、もう一度調べた時、その人数は一人に減っていた。……私だけに」


 それが意味することはなんだろうか。もう一人も、同様に誰かの陰謀で死亡した。そう考えるのが自然だ。大人たちを壊滅させて満足してはいない。子供に対しても、同様のスキルを持つ限り容赦はしない。こういったところだろうか。


「怖かった。今でも、怖い。このスキルを持っているだけで狙われている。そう思うと、平気じゃいられない」

 それもそうだろう。一度怖い思いをして、それがようやく過ぎ去ったと思って、安心し始めたところに追い打ちだ。門の外(オーダルー)で安全が保障されて生きてきた人間には、刺激が強すぎるに決まっている。


「それで、レティ。その4年前に皆殺しにあったスキルって、いったい何なの?」

「……契約保障」

 それを聞いて、すべてが繋がる。邪魔という理由も、利益を得るためという理由も、そして、その事件が起こるまでレティが置かれていた立場も。


 ついでに、レティが原因を話してくれたために封じていた昨日の出来事も思い出した。復活した記憶を馴染ませながら、ミリアは昔々の建国話を思い起こす。約300年前、現在の政治体系が作られた時の出来事を。

レティにとっては事件直後にショックを受けて、なんとか立ち直ろうとしたところに突きつけられた事実です。

それからは、それまで信頼していた人以外と会うことは、レティにとっては恐怖以外のなにものでもなくなりました。

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