不安と励まし
入学式のパーティーの進行は一つ上の組がとることになっている。人の手配や物の配備などの準備で、人を使うということを実際に行う実地体験も兼ねているのだ。そういうわけなので準備が整う度に教師から細々とした変更が言い渡される。そうして、徐々に徐々に招待人数が増やされていくのだ。
予定日の数か月前も前から花火の打ち上げ場所を探していたアレンのことをミリアは不思議に思っていたが、直前には余計なことをする時間が一切与えられないとならばその行動にも納得がいった。
そんな準備に時間をかけたパーティーも、もう閉会だ。司会のクレアが終了を告げて、パーティーはお開きになった。参加していた人々は、散り散りに帰りはじめている。
「お疲れ様、ミリア」
やっと大仕事が片付いて少しほっとしていたミリアに、アレンが声をかけてきた。
「まだ、片付けが残っているけれどね」
片付け終わるまでがパーティーの開催である。お疲れ様と言われたことで、ミリアは緩みかけた気を引き締めた。まだ、やるべきことは終わっていないのだ。
「でも、広間から人がはけるまでは暇でしょ?」
「それはそうだけど」
「じゃあ、今くらい少し気を緩めてたっていいんじゃない?」
確かにその考えでミリアは少し気を緩めていたのだ。が、一応は客の一人であるアレンが目の前にいては、気持ちの問題としてのんびりしているわけにもいかないのだ。
「一応は客の一人に目の前にいられて、気を緩められると思う?」
「えー、そんな気にしなくていいよ。それより、ミリア達はすごいね。歴代で最大の招待人数だってさ」
「普通のパーティーこなしながら、花火やら案内やら他のことの準備までしていた人に言われても」
そんな会話が始まって、これは広間から人がいなくなるまでアレンの相手をする必要があるなと、ミリアは諦め半分になる。だが、実際はアレンをミリア一人で相手する時間はすぐに終わった。
「アレン、ここにいたのですね」
「探したぞ、アレン」
今日の主賓の一人とその兄が現れる。どうやら、パーティー中にアレンとは話せなかったらしい。新入生は色々な人に声をかけられるため、探して話しかけるということはできなかったのだろう。去年、ミリアもだいぶもみくちゃにされていたのでよく分かる。そして、ウォルトはそんな妹のことを、そっと見守っていたに違いない。
「メアリーもお疲れ様。馴染めそう?」
「……皆さん、やはり私に名前を知られるのは嫌みたいです」
「そのうち、皆慣れて気にしなくなるさ。少なくとも、一緒の組の奴らはな」
「アレンと一緒だった兄様と一緒にしないでください」
やはり紫色の髪というのは、それだけで生き辛いらしい。破壊のスキルを持つというだけで、自分にその力が向けられるのではないかと人は恐れるものだ。相手が自分を傷つけることなど絶対にないという信頼が無ければ、危険から身を遠ざけたくなるのは当然だろう。
それにしても、名前さえ知られたくないというのはどういうことなのだろうか。それがスキル発動に必要な条件の一つということなのだろうが、名前以外にも条件は必要であることが多い。
ただ、この間ウォルトが言っていたことから考えると、メアリーのスキルは条件さえ整えば問答無用で人を殺せるものである可能性が高い。それならば、一つでも条件をそろえたくないという思いは理解できる。
「そういえば、ミリアはメアリーのスキルの詳細知ってたっけ?」
「聞いたことはないかな。話の中で触れられてることはあっても、正確な情報は聞いてない」
アレンがミリアが分かっていないことに気が付いたのか、確認をしてくれる。それに対するミリアの答えを聞いたメアリーは、礼儀正しくこう言った。
「今さらになってしまいまずが、お知らせしないままでは失礼になってしまいますので詳細をお話します。私のスキルは、分類するならば殺害です。名前と顔を知っている方ならば、目の前にいなくても殺すことが可能です。そして、それを行った瞬間、生気が尽きて私の命は散ります」
その説明を聞いて、ミリアはそれは確かに名乗ることをためらっても仕方がないと思う。誰だって死にたいとは思っていない。いくら一人を殺したらそれで終わりとはいえ、自分がその一人にならないとは限らないからだ。
それでも、殺すことを選択すればメアリーも死ぬ以上、ある程度の安心感は存在する。メアリーに命を捨ててまで殺したいと思われることが無ければいいのだ。これならば、人が許容できる範囲だろう。いずれ周りが慣れるというウォルトの見立てはきっと正しい。
「なるほど。……私は、ミリア・コールドウェル。今はこれが、一応本名になるかな」
ミリアがコールドウェルと名乗っているのは、コールドウェル家に引き取られたためだ。なのでミリアは、一応とつけた。スキルを使う際に必要とされる本名は、使用される側が自分の名前だと認識している名前だ。今ミリアはこれが自分の名前だと思っている。だが、記憶を取り戻した場合そう思うかどうかはまた別である。それゆえの、一応、だ。
「本名に別の名前を付けておいて普段使うのは本名とかけ離れた通称でスキルを使用される際に必要な名前を隠せるなら、名乗るのを躊躇う必要もなくなるんだけどね」
それを行っていた時代もあったのだが、本人の認識は普段使っている方に引きずられてしまい、よほどの思い入れのある者以外は通称が自分の名前と認識してしまうのでその風習は廃れてしまった。せいぜいが、あだ名で呼び合い親しくない人には本名を知られにくくするというくらいである。
「それだったら本当によかったのですが……。これから、大丈夫でしょうか」
「大丈夫だよ。皆、メアリーが自暴自棄な性格じゃないってすぐ分かってくれるって」
「……そうだと、いいです」
アレンに励まされるメアリーは嬉しそうだ。きっと誰からよりも、アレンからその言葉が欲しかったのだろう。好きな人からの言葉なら、きっとなによりも勇気づけられるはずだ。
そんなことを考えて、ふとミリアは今アレンと二人きりで話していたのを見て、メアリーがどう思っただろうかと考える。ちゃんと違うということを、今度説明しておかないとなと、ミリアは静かに心に決めた。




