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認め、受け入れる

「ちょっと話戻るけど、いい?」

「うん、何?」


 少し前の話に戻ることを、ミリアは先に伝える。アレンが口に出して理解した旨を伝え、レティとウォルトも無言のまま表情で話題が戻ることを了承していることを伝えてきた。


 仕切り直ししたせいで、必要以上にミリアの言動に注目が集まってしまっている気がするが、むしろこれくらいの方がアレンの説得にはちょうどいいだろう。そんなことを思いながら、ミリアは思いついたことを口に出した。


「アレンはもし、アレンのためになるからって無関係な人を傷つけた人を許せる?」


 これを聞いたアレンは、驚いた表情で数瞬の間沈黙する。そしてその後、

「無理」

 そんな、端的な返答が返ってきた。どうやら、しっかりと理解できたようである。


「それと同じだよ。どう頑張っても、許せないことはある」


 自分の根幹に位置する、最も大切な信念。それを壊すことをされて、許せる人はいないだろう。大抵それは、自分や自分の周りの人に関連付いているものだ。アレンの場合、それが民衆に向いている。だから、他の人の意見を聞いても納得できなかったのだ。


 一方ミリアには、絶対に許せないことが今のところ存在しない。人格の芯ともなる強い感情を生む源。それが無いということを、ミリアは一人寂しく思う。


「よく、よーく分かった。うん、それと同じなら許せないと思う」


 そう無邪気に言うアレンは、本心からそう思っていることがよく分かって。ミリアは、アレンはアレンで普通からは離れているなぁと思う。いくら人民のために働くために生まれてきたと教育されても、自分の身は大切だ。アレンには、それが無いのである。


 アレンならきっと、常に人のためになる正しさを持ち続けられるのだろう。一番大切なものが、自分の周りでなく民衆なのだ。政治の頭に据えて、理想を語る道を定める旗印にするにはちょうどいい。


 アレンの思いは常に正しい。間違ってなどいないのだ。ただ、他の人も自分と同じようにできるという感覚を持っているため、正しすぎて息苦しくなってしまう時があるくらいで。だから、その清廉潔白な理想に対してブレーキを踏む人が、どうしても隣にいる必要がある。


「ねぇ、ミリア。お願いだから、僕のために動いてくれないかな」


 このお願いも、もう何度目だろうか。何度も何度も頼まれて、何度も何度も断ってきた。けれど、今回のことでミリアはアレンの大馬鹿さ加減と、他者に分け隔てなく向けられる皆が幸せになって欲しいという願いを知ってしまった。


 ミリアもまた、統治者一族の一員である。そうするのが一番いいと思ってしまったからには、断ることなどできるはずがない。


「いいよ」


 あまりごたごたと言葉を並べたくなくて、ミリアは一言、今まで断ってきたのと同じ調子で、受け入れる意思をアレンに伝えた。


「え? ……やった!」


 そういう言い方だったためだろう。アレンはミリアの返事の意図を理解するのに少し時間がかかったらしい。ミリアの返事から反応までしばらく間が空いて、それからあまりにも嬉しかったのだろう。向かいに座っていたにも関わらず、机から身を乗り出して両手でミリアの手を取り握りしめる。


「ありがとう、ミリア!」


 そして、すごくにこやかな笑顔でそう言われ、ミリアはこれから持ち込まれるだろう色々な厄介ごとを考えげんなりとしてしまう。それでも、ミリアはもう決めたのだ。この色々と無茶をする面倒な相手の、手綱をしっかり握って進むべき場所を目指すということを。


 喜ぶアレンを適当にいなしつつふと目に入った二人は、レティは少し驚いた表情で、ウォルトはどこか寂しそうな表情に見えた。

これにて、今月頭から続けていた街へのお出かけから始まった一続きの話はおしまいです。書き始めた時は、まさか一月かかるとは思っていませんでしたが、ちゃんと決めていた着地点までたどり着けました。

次は時間が飛んで、メアリーの学舎入学です。

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