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ゼロでない可能性

 ウォルトとレティがそれぞれ、自分のためにされたとしても許せないことと言ったところで、アレンはミリアに視線を向けた。どうやら、ミリアにも何かないか聞きたいらしい。なぜだか期待を込めた目で見られているが、ミリアにはそういう心当たりはない上、ましてアレンを納得させられるようなものが思いつくはずがない。


 結局のところ、自分のためであってもされたら許せないことというのは、譲れないほどに大切なものがあるかどうかなのだ。今のミリアには、そういう物が無い。忘れる前にはあったのかもしれないが、それだけ大切なものを忘れることなどできるだろうか。そこまで考えて、ふとミリアは思いついた。


「これは、蓋を開けてみないとどうなるか分からないことなんだけれど」

「なになに?」

「私がなんで、あの日学舎の前に一人でいることになったのか。これを暴かれた時、真実次第じゃ許せない、かも」


 嬉しそうに聞いてくるアレンには申し訳ないが、ミリアが思いついたことは可能性の話でしかない。


「誰がどうして私をあそこまで導いたのかは分からない。けど、私が忘れることを心から了承している以上、思い出す必要がないことは間違いない。そして、思い出してしまった時、その人たちが私をここに導くのに使った手段を知ってしまうのが怖い」


 あくまでも、可能性の話だ。思い出したミリアは、義務としてここに来るまでの手段を一族に伝えなければならない。まず間違いなく、門の外(オーダルー)では褒められたことではない手段が使われてミリアはここにいる。それがばれて、その人たちになんの影響もないということがあるだろうか。


「忘れる前、どれだけ大切な人だったかは分からない。ひょっとしたら、たいした思い入れの無い人かもしれない。でも、分からない以上、その人に迷惑がかかるようなことはしたくない」


 実際思い出してみないと分からないことだ。けれども、分からないからこそミリアのどうしても許せないことになる可能性がある。


「うーん、詳しいこと分からないと、何も言えないなぁ」

「だと思う。でも、これくらいしか思いつかない」

「そっか、ありがと」


 明らかにアレンは残念そうだ。ミリアなら、自分が納得できる答えを出してくれるかもしれないと思っていたのだろう。勝手に期待されても、応えられるとは限らないのに。


「これ聞いて、どうしたかったの?」

「うん、理解できたら、シェリーがどうしてエルバートを許せないのか、納得できるかなって思ったから」


 アレンも色々考えてこの問いかけを最初に持ってきたらしい。ミリアは、どうやらアレンが納得できるのなら納得してみたいと思っているように感じる。既に結果は出ているのだし、その結果を受け入れたいのかもしれない。


「一つ、いいかな?」

 求められない限り自分から話さないレティが、珍しく自分から言葉を発する。

「ミリアがシェリーにエルバートがやったことの記憶を、すべて忘れさせてあげればよかったんじゃないかなって思うんだけど」

 続けて言われた提案は、確かにそれが可能であればシェリーとエルバートにとって一つの解決法になっただろう。


「それは、きっと無理」

 だが、それはまず無理だっただろう。

「あの様子だと、きっとシェリーは忘れてもいいって、思えないだろうから」


 ミリアが忘れさせることができるのは、本人が忘れることを心から了承している記憶だけだ。シェリー本人を知らないレティには分からなくても不思議ではないが、シェリーが忘れることを良しとするとは思えなかった。それだけ、自分のしていたことを否定されて傷ついていたのだから。


「今朝シェリーに話した時、忘れられるなら忘れたいってきいてみたけど、忘れたくないって言ってたよ」


 ミリアの考えはアレンによって補強される。レティはそれを聞いて、少ししょんぼりしてしまった。解決できる提案だと思ったのだろう。


 それにしても、もう既に話していたとはとミリアは驚く。あのブローチについて色々聞くためだろうが、朝いきなり頭の中に直接話しかけられたシェリーは酷く驚いたことだろう。後で聞いてくればいいとは言っていたが、翌日の朝いきなりというのは想定の範囲外だったはずだ。


「レバワルカ、だったっけ。そのブローチに組み込まれてる仕組みの名前。何か聞けたの?」

「うん、使い方とか。シェリー自身があまり覚えていないからたいしたこと聞けなかったけど。今は、親に預けて色々調べてもらってる。調べ終わって問題なかったら、返してくれるって」


 一定量以上の生気(エルグ)の消費を所持者から肩代わりするというレバワルカは、今は大人たちの手元にあるらしい。それが社会に及ぼす影響を考えたら妥当な扱いだ。仕組みに問題が無いならば、門の外(オーダルー)内にどんどん広めるべき発明である。自分たちだけで処理していい問題ではない。


 アレンはその辺りの感覚はしっかりしている。どうしても無理だと判断したことは、すっぱり人に頼れるのだ。もっとも、そのせいでアレンが自分を止めてくれると思っているミリアに、一緒に色々と考えて欲しいと口説かれているのだけれど。


 レバワルカのことも、民衆のことを考えたらさっさと大人に任せてしまうのが一番確実だと判断して即座に行動している。アレンは本当に、多くの人のためということを第一に考えて行動しているんだなとミリアは思う。そして、ふと、思いついた。これなら、アレンも自分のために行われたとしても許せないことになるのではないかと。


 既に話題は別のことになっているが、アレンが譲れないこともあると気づけるなら喜んでくれるだろう。それにしても、とミリアは思う。このことでアレンが自分のために行われたとしても許せないと思うなら、誰よりも統治者に向いていて誰よりも為政者に向いていないということだ。


 ほんとうに、面倒なやつ。そう思いながら、ミリアはアレンのために、思いついたとあることを口に出すことにした。

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