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それぞれの逆鱗

 昼食の席で、アレンがミリアに聞いたこと。それは、

「自分のためにされたことでも、許せないことってある?」

というものだった。


 ミリアはてっきり、なんでシェリーでは見つけられないと思っていて、それでも止めなかったのかについてまた聞かれると思っていたのだが、それではなかったらしい。これを聞かれたら、シェリーにとっての生きる目的になっているのにそれを取り上げるのかと反論するつもりだったのだが。


「ミリアだけじゃなくて、ウォルトとレティも、そういう心当たりある?」


 アレンは横の二人にも意見を求める。どうも、そういうことがあるのかという事実が知りたいらしい。自分のために行われて、なのに許せないこと。まっすぐに結びつかないその二つの意味は、それでも二人には思い当たる節があったようだ。それぞれに、こうなったら許せないという場面を想像したのか表情が少し硬くなっている。


 そして、先に口を開いたのはウォルトだった。

「俺は、誰であっても、メアリーが殺されたら許せないだろうな。例え、メアリーが俺を殺そうとしてて殺さなきゃ止められなかったっていう場面でも、あいつがそうするなら必ず理由がある」

「ウォルト、メアリーがスキルを使うってことは、そのまま生気(エルグ)切れで死ぬってことだよ。二人とも死ぬより一人ですむ方がいいって思って行動した場合でも。許せない?」

「俺とメアリーで死ぬならメアリーは自殺みたいなものなのに、他殺で死ぬことになる時点で却下だ」


 ウォルトが想像した状況は、シェリーと同じで家族関連のことだった。ただ、内容が酷く物騒である。そもそも、止める方法が殺害しかないというメアリーのスキルが非常に気になる。彼女も紫色の髪のため、破壊系統であることは間違いない。生気(エルグ)が命を保てないほどに消費され尽くすという点と、ウォルトの語った可能性から考えると、問答無用で人に死を与えられるスキルのようだ。


 その問答無用さの代わりに使用した瞬間命が尽きるならば、それはバランスの取れた対価だとミリアは思う。ここが崩れると、悲惨なことにしかならないのだ。


 そして、自由意思で死を選ぶのは許せても、人に命を摘み取られるのは許せないというのは、つまり意思を踏みにじられることが許せないということだ。たぶんウォルトは、メアリーがいつかスキルを使う日のことを考えずにはいられないのだろう。その時に、命は助からなくても、せめて意思は尊重したい。そう考えているのだ。


「ウォルト、そういう状況はまず怒らないと思うけど、万が一僕の目の前でそんなことになったら僕は止めるからね」


 アレンは、そうウォルトにいう。確かにアレンには納得できないだろう。助けられる人数が多ければ多いほどいいと思っている人間なのだ。そもそもメアリーがスキルを使う気が起きないように対策を取るだろうが、それでも無理だった場合は一人でも多く、を選ぶはずだ。


「うん、俺もまずこんなことにはならないと思ってる」


 妹が兄を殺すことが正しいと思うような事情など、そもそも門の外(オーダルー)では起こりえないだろう。あくまで、自分のために行われたのだとしても許せないことという、少し珍しい場面を無理やり探した可能性の話だ。


「うん、というかメアリーがスキル使うことなんてないだろうから。それで、レティも何か心当たりあるんでしょ?」


 確かに、使うと死ぬと分かってて使うことは普通はないだろう。アレンの問いかけはレティに向かう。アレンも、レティに何か心当たりがあることを見抜いていたようだ。


「私はね、私の持ってる警戒心を捨てろって言われるのが、たぶん許せない。怖がりすぎだって言われるのは仕方がないと思う。けどね、これは私にとって必要なものなの。だから、放っておいてほしい」


 レティの思い浮かべた状況はシェリーと人格の否定に関する点で似ている。自分自身のあり方を否定されたような、そんな感情が走るのだろう。自己を否定する言葉を言い放った相手に、優しくなれるはずもない。


「全部捨てろとは僕も思わないけど、レティはもう少し落ち着いてもいいとは思うなあ」


 いつもいつも警戒していたら大変でしょとアレンは言う。確かにミリアも大変そうだなとは思っているが、邪魔をしたことは一度もない。それだけ、レティにとってあの事件の影響は大きかったと思っているのだ。


 二人が具体例を挙げてみたにも関わらず、アレンは状況は理解しつつもそれがどうしても許せないことだとは思えないようだ。当然と言えば当然である。アレンは結局、それが自分のための行動だと分かったら許せてしまう人間なのだから。

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