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神もまた許しを願う

今回、アレン視点です。

 アレンが帰宅するとフィオナが玄関で出迎えてくれていた。年越しの祭りの時にも帰宅時間を知って出迎えてくれていたので驚きは少ない。


「お疲れ様、アレン。大変だったね」

「うん。それから、ごめんねフィオナ。フィオナの暇つぶし用の物、買ってこれなくて」

「今回のお出かけのお土産話でいいよ。だから、今日はもう休もう?」


 何があったのかもある程度知っているようで、話が早くて助かるなあと思う。こういう辺りは全知全能の神と崇められるゆえんなのだろう。だけれども。


「アレンは、生気(エルグ)使っちゃ駄目だから私が転移盤発動させるね」


 そう言って、自分しか乗っていないのに発動させて、一人で転移して行ってしまうフィオナを幼少期から見ていると、ついつい尊敬の対象から外れてしまっても仕方がないことだと思う。


 フィオナはすぐに戻ってきて、

「ごめんなさい。アレン置いて行っちゃ意味ないよね」

 と言って、今度はアレンが乗ってから発動させた。転移した先はアレンの部屋で、やっと心置きなく倒れられる場所に来てアレンは体中に走っていた緊張感が抜けていくのを感じていた。着替えもせずにベッドに倒れ込む。

 フィオナはベッドサイドに立つと、アレンにこう言った。


「ほんとうに、お疲れ様」

「うん。リミッターの発動なんて限界確かめた時以来だから、辛いってことしか覚えてなくて感覚すっかり忘れてた」


 アレンのリミッターは平均的な辛さである。立っていられなくなって、それでも気力を振り絞れば行動を起こすことはできる。体が訴えかける症状は眩暈や痛みと様々な種類があるが、リミッターが起こる人は大抵の場合この程度の辛さだ。

 シェリーはアレンは軽いと言っていたが、アレンは周りが全員リミッターが重いのだろうと判断する。エルバートのリミッターが起動した時は、しばらく体を一切動かすことができなかったらしいので、比較の基準がずれてしまっているのだろう。


「あれは、うっかり起動させたアレンが悪い」

「それはそうなんだけどね。明日、ミリアにちゃんと説明しなきゃなぁ」


 いつもと使っている回数が違わないように見えているはずだし、なぜギリギリになっていたのか疑問に思っているはずだ。他にも色々、話したかったけれども倒れたせいで話せなかったことがある。


「そうだね、色々納得できてないことも含めて、ちゃんと話さないとね」

「……フィオナに隠し事はできないなぁ」


 アレンには、やっぱりどうしてもエルバートとシェリーが離れなければならないように思えないのだ。そんなに、許せないことなのだろうか、と。そして、シェリーが出した元の関係に戻る条件も、ミリアはまず無理だろうと言っている。アレンは、エルバートがずっとシェリーのことを心配していたことを知っている。このまま関係が壊れてしまうのを傍観していたくないのだ。


「納得できないこと、色々と話し合うといい。でも、アレン。これだけは覚えておいて」


 フィオナには、アレンの心など筒抜けなのだろう。そうアドバイスをされた後、急に真剣な顔になった。どうやら、アレンにとっても大切なアドバイスをくれるらしい。アレンは、疲れ切っている体を起こしこそはしなかったものの、フィオナが紡ぐ言葉に意識を傾けた。


「人はね、たとえその人のために行われたことであっても、どうしても許せないことはある。あなたのためにやったのだというだけの免罪符では、許しようがないことが。今は納得できなくていい。でも、覚えてて」


 それは、アレンへのアドバイスでもあり、またそうして欲しいと心から懇願するような声音で発せられた。アレンはフィオナも昔、自分のための行動で許せないものがあったのかなと思う。それを教えてくれる気配はなかったが、許せないことを許して欲しいと言いたげな表情だったため、アレンの想像は間違っていないだろう。


「分かった、忘れない」


 フィオナに返事をしながら、案外シェリーもこれから許せないことに苦しむのかもしれないなとアレンは思う。


「じゃあ、アレン。お大事にね」

「そうだ、フィオナ。僕が倒れたってことお父さんとお母さんには……先に話してるか」

「うん、私が部屋から出たら入れ違いに来るって」

「そっか、ありがと」


 話は終わったとばかりに部屋から出ていこうとしたフィオナを、アレンは引き止めた。両親に自分が倒れたことを伝えてもらおうとして、よく考えればアレンが返る前に起こったことを知っていたフィオナが伝えていないはずがないと思いつく。


 アレンの想像通り、フィオナは既にアレンの両親に伝えていた。それをアレンに伝えると、転移盤に乗ってフィオナはアレンの部屋から出ていった。そして、アレンの部屋は静寂に包まれる。


 自分にとって、どうしても許せないことは何があるだろうか。両親が部屋に訪れるまで、アレンはそんなことをぼんやりと考えていた。

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