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許せないこと

 ミリアとシェリーがアレンとエルバートのいた場所まで戻ると、そこに漂う空気は割と重苦しいものだった。これは、エルバートが耐えきられずに、アレンに事情を全部懺悔したのかなとミリアは思う。


 大丈夫だよとエルバートを慰めるアレンに、ミリアは声をかける。

「その様子だと、エルバートがしゃべったってところ?」

「エルは、気づかれるとは思っていなかったんだってさ」

「分かるに決まってるじゃない。普段リミッターに引っかからない上限いっぱいまで付与された能力の除去に当たってるのに、ちょうどよく今日余裕があるなんて」


 シェリーが苦々しい口調で口を挟んだ。ミリアと約束した通り、頑張って落ち着いて話してくれているらしい。シェリーは続けて、エルバートに言葉を投げつける。


「それで、なんでこんなものを私に追尾させようと思ったの? 大体予想はつくけど、ちゃんとエルの口から説明して」


 淡々と感情を押し殺したように紡がれる言葉は、ミリアとアレンに何も言えなくさせた。そして、それを向けられた本人は、覚悟を決めたのか口を開く。


「シェリー、君が行っていることがどういう危険に繋がるのか、それを身をもって体感すれば今の商売方法を止めてくれるのではないかと思ったんだ。それで、シェリーの後ろを浮きながら追尾する物を作ってもらった」


 エルバートは、シェリーに危ないことを止めさせようとして、追尾機能を持った物体を用意したのだ。実際に、危険な目に繋がりそうなことが起これば、シェリーが止めてくれるのではないかと思って。


 だが、現実は思い通りにならないものだ。シェリーはそんな危機はとうに覚悟済みで、エルバートが用意した危機の前触れよりもずっと危険な目にあっても、曲げないほどの意思の強さを持っていた。さらに、自分が仕組んだということまで看過されている。エルバートにとっては、今回の件はまったくの無駄足だ。


「ま、実害ほとんどないし、そんなことだろうと思ってた」


 エルバートの説明は想定できるほど単純なもので、シェリーも予想の範囲内だったらしい。淡々と語る口は、その続きの言葉を紡ぐ。


「それで、この罵詈雑言のオンパレードの悪口は、一体だれが考えたの?」


 笑っているのに笑っていない顔で、シェリーはエルバートに尋ねる。答えなんて、分かり切っている。認めさせることが目的なのだ。


「それは……、僕だ」


 エルバートが認めた後、その場にはしばらく沈黙が下りた。ミリアもアレンも口を出さない。今は邪魔になるようなことは慎むべき時だと分かっているからだ。


「そっか。じゃあ、もういいや。早くこれ、ついてこないようにして」

「ああ、分かった」


 エルバートはシェリーの背後に一定間隔を開けてくっついている物体に手を触れる。そしてしばらくすると、その物体を支える力がなくなったのか、物体が地面に激突した。これで、今日シェリーの身に降りかかった問題は全て解決である。


 そう、問題点だけは解決された。だが、


「ありがとう。じゃあ、これで私と話すのはお終いね、エルバート」


 こじれただろう関係が元に戻るわけではない。エルバートは元の関係に戻りたいと考えても、シェリーがそう思うことはないだろう。それぐらい、あの悪口が強力過ぎた。心の底で自分をあんな風に見ていると知っている相手に対して、愛想よく振る舞えるはずもない。


 愛想よく振る舞えたとして、それは感情を偽っている場合だ。たぶん今までシェリーにとってエルバートは、うっとうしいながらも自分のことを心配してくれる奇特な人間だった。

 しかし、今日の出来事で自分に対して酷い悪感情を根底に持っているということが分かってしまった。これから上手くやっていけるはずがない。


 そんな覚悟もなく、エルバートはただシェリーに危険なことを止めさせたいという一心だけで、行動を起こしたのだ。その結果が、空回りの激しい実りのないものだったとしても、受け止める責任は彼が負う


 何かを言い返したそうな、でも何も思いつかないといった表情のエルバートを見て、アレンが助け舟を出すかのように、口を開く。


「待って、なんでシェリーはもうエルと話す気が無いの?」


 いやそりゃ相手を許せないなら距離を置くしかないだろうとミリアは思う。それとも、何かミリアが見落としている大切なことがあったりするのだろうか。いずれにせよ、アレンの次の言葉が真意に当たる。それを聞いてから判断しようと、ミリアは心に決めた。

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