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金策の中身

 シェリーはミリアの問いに対して答えるかどうかを悩んでいるようだった。その迷いを見て、ミリアは門の外(オーダルー)で暮らす人にとっては話し辛い内容の物なのだと察する。シェリーが上客と言うからにはかなり金払いがいいのだろう。それはつまり、門の中(ヘイブンクラウド)でさえ大金を払わなければ得られないものなのだ。


「シェリーがしてきたことがなんだって、私は責めたりしないよ」


 どう考えても、真っ当なものではなさそうなので、ミリアはシェリーを安心させるためにそう言った。実際、何に手を貸していたとしてもミリアは責める気はない。門の中(ヘイブンクラウド)は自己責任において自由の地だ。そこで何をしていたとして、誰に責められるいわれもない。


 そういう理屈ではあるものの、それでも責める人間は責める。特にあの男ども二人は倫理にもとる行いの場合間違いなく止めるように言ってくるだろう。それを避けて聞き出したかったからこそ、ミリアはシェリーと二人だけで話せるようにしたのだ。


「ミリアは当然、銃は知ってるよね?」

「うん、一応は」


 シェリーは知識として知っていることを前提に聞いているが、ミリアは実物を見たこともある。そういう前提になるのは、ミリアがシェリーに自分が門の中(ヘイブンクラウド)出身であることを明かしていないためだ。こちらの事情を明かさずにシェリーの事情だけ聞き出すことにミリアは若干罪悪感を覚えてもいるが、それを話した場合なぜ支配者一族の人間が門の中(ヘイブンクラウド)で育ったのかという疑問点が生じる。


 ミリア本人でさえ分かっていないそれを民衆の一人であるシェリーに明かすのは、好ましいことではない。面倒な混乱を引き起こすだけだ。


「じゃあ、銃より銃弾の方が貴重だってことも知ってる?」

「うん、なるほどそういうことか」


 銃というのは分かりやすい武力の形として考案されたものだ。その気になればいくらでも人を傷つける手段はある。しかし、目的にかなうスキルを持つ人が頼みを聞いてくれるとは限らない。


 ウォルトのスキルは触れることさえできれば人を傷つけることも可能だが、本人はまずやりたがらないだろう。そのように、人を傷つけることが可能な類のスキル所持者は存在するが、門の外(オーダルー)に住む人々は基本的にそんなことを行おうとしない。


 では門の中(ヘイブンクラウド)ではどうかというと、実はこちらでも人を傷つけることに力を貸してくれる人は少ない。なぜならば、人を傷つければ当然恨みを買うからだ。必要無い恨みはできるだけ買わない方がいいことを、門の中(ヘイブンクラウド)で生きている人は知っている。恨みを買えば、その分自分が傷つけられる可能性が高まるのだから。


 そういうわけで、武器は高値で取引されている。特に銃は遠距離を攻撃できるうえに、使い方が引き金を引くだけと分かりやすいため重宝されている。そして何より、これが武器だと一目で分かる形状をしていることが重要だった。


 何らかの能力が付与されている物体は、石だったり宝石だったりはたまた金属片だったりと、とにかくスキルを使う人に依存するため形態の統一など望むべくもない。そのため、武力によって脅しをかけたい時などには一度効果を発動させないと恐怖が保証されない。だが、銃であればこれが遠距離の武器だと分かる。そのため、銃は人気の武器となっている。


 そういうわけで、銃が用いられているため銃弾の需要も高いのだが、生産が一向に需要に追い付いていない。銃の仕組みは、引き金を引いた際に銃弾に当てられた振動で、銃弾に付与されている高速で直線で動くという能力が発動し銃口が向けられた先へ飛んでいくというものである。


 そして、この銃弾に必須の能力を付与するスキルは、工業面でかなり需要が高く銃弾を生産しなくてもそのスキル所持者は一生生活の安泰が約束されている。そのため、わざわざ人を傷つけることが確定している銃弾の作成をしようとする人は多くない。また、銃弾としての破壊力が得られるほど高速で移動するスキル所持者となるとかなり限られてくる。


 そういうわけで、銃弾は製作者が少ないのに需要だけはやたらと高いものとなっている。門の中(ヘイブンクラウド)には、銃弾の創生が可能なことを利用して一気にヒエラルキーを駆け上がった人がいたはずだ。


 それだけ貴重な銃弾であるため、使用後は回収されることも多い。だが、銃弾はぶつかった時の衝撃に耐えられず壊れてしまう場合も存在する。物体に付与された能力は、その物体が付与された時の形態が破壊された場合能力が発動できなくなる。そして、元の形態に戻った場合能力も復活することが確認されている。


 つまり、シェリーが壊れてしまった銃弾を修復すれば、使えなくなっていた銃弾が再利用できる。金払いもよくなるはずだった。


 シェリーは、銃弾という単語でシェリーが何を修復していたのかをミリアがその背景も含めて理解したことを察したようだ。それ以上の説明は行わず、犯人たちとの関係の説明にシフトする。


「あの人たちは、銃弾の修復を依頼してきた門の中(ヘイブンクラウド)の組織が、門の外(オーダルー)の情報を入手するために雇っている門の外(オーダルー)の人たち。そして、私のことを見つけて、門の中(ヘイブンクラウド)の組織に紹介してくれた恩人でもあるんだよね」


 シェリーが犯人たちに重い罪を求めなかったのはだからなのかと理解する。犯人たちはシェリーの上客の門の外(オーダルー)での目であり耳である。厳罰を求めればその組織が目と耳を失うことになるのだ。関係悪化を望まないならば、長期的に閉じ込めるという方向に追い込むことは行わないだろう。


「こっちでオークション式の商売していたら、噂を聞きつけて組織に紹介してくれたみたいなんだよね。私が門の中(ヘイブンクラウド)に初めて行くとき、丁寧に何に気をつけたらいいかとか教えてくれた人たちだったんだけどなぁ」


 シェリーは残念そうにそう呟く。そういった信頼があっても、今回のことで崩壊してしまったのだろう。彼らの独断専行であるため本体の組織との商売は続行するであろうが、シェリーが彼らを頼ることはきっともうないはずだ。それだけのことを、彼らは行ったのだから。


 それまでどれだけ仲が有効であったとしても、どうしても許せないことを行った場合その仲は崩壊する。人と人との関係は、時にとても脆いものなのだ。


「それなりに信用していた人に、こういう裏切りもらうと流石に辛いかなー」

「でも、お兄さんを探すの、止めようとは思わないんでしょ?」

「そりゃもちろん。私はそのために何でもするって決めたんだもん」


 シェリーの言葉は嘘ではない。銃弾を再び使えるようにするという行動には、かなりの割きりが必要になる。自分がそれを修復したせいで誰かが傷つくことになる。その事実を受け止め、許容し割り切る必要がある。


 門の外(オーダルー)育ちでそれができているのだから、シェリーの意思は相当強固なものだ。成長する中で教え込まれた倫理観の上で行っているのだから。


「私はシェリーを応援する。それだけの意思を持って動いているんだから。だからさ、落ち着いてエルバートと話そ?」


 状況から判断すると結構無茶なことを要求している気はするのだが、かといってちゃんと向かい合って話さなければいけないことだとミリアは思う。


 少し黙った後小さく頷いたシェリーを見て、今度こそ怒りを抑えて話してくれるといいけどと思いながら、ミリアは防音壁を解除してアレンたちの元に戻ることにした。

銃弾が少なくても銃が武器としての格を保っているのは、保持しておきたい量に足りていないからであり、使う分には不足していないからです。

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