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少女たちの内緒話

 ミリアはシェリーを引っ張っていき、建物三つ分アレン達と離れたところで足を止めた。これだけ離れれば表情なども読み取れないだろう。そう考えながら、ミリアは防音壁を貼ることができる石を取り出す。


 アレンの様子を見に移動している最中に切っていた防音壁の展開を、再び石をつつくことで貼りなおした。


「これで、この話は誰にも聞こえないから、安心して」

「防音壁貼ったの?」

「うん」


 エルバートと離れたことで、シェリーは少し落ち着いていた。一緒に居るとすぐ爆発するなあと思いつつ、無理もないかとミリアは思う。エルバートはそうなっても仕方がないことをシェリーに行ったのだから。


「それでシェリー、その後ろをふわふわついてくる物体の犯人、実は心当たりあるんでしょ?」

「……なんで分かったの?」


 ミリアがそう問いただすと、シェリーはふてくされた顔でその事実を認めた。ごまかしきれないと悟ったのだろう。諦め半分で犯人を知っていると認める。


「いくらあれだけ言われていたって、いくらなんでもエルに対しての態度が硬すぎ」

「そっか」


 目の前にしなければ、シェリーの犯人が分からない演技に騙されていただろう。けれども、予想外の事態によってその仮面ははがれてしまったのだ。


「エルにも、シェリーたぶん気づいてるよって言ったから、戻ったらすぐにそれから追尾機能取り除いてくれるでしょ」

「茶番だよねー、ほんと。あ、尾行してた人たちは別ね。あれは偶然同じ日に起こっただけだから」


 そう言って怒るシェリーの気持ちはよく分かる。それでも、これだけ怒っているということは今回が初めてなのだろう。繰り返されていたら、諦めが入るはずだ。


 そして、ちょっとした嫌がらせと同時に起こった脅迫騒動。これによって、嫌がらせの行われた意味は完全になくなったわけだが、ミリアにはこの騒動で一つシェリーについて確信したことがある。


「ねえシェリー、シェリーは門の中(ヘイブンクラウド)行ったことあるでしょ? しかも、数回ではなく、慣れることができるだけの回数を」

「そんなことな」

「あるよ。シェリーの持っている警戒心は、門の外(オーダルー)しか知らない人では普通持ちえないものだから」


 そもそも、門の外(オーダルー)に住む人は自分が悪意ある人に尾行されているなどという可能性を考えたりしない。ミリアが路地の様子を見たいと頼んだレストランの従業員のように、人の言うことは素直に聞き入れるのが普通だ。これは、過去の状況を正確に見ることができるスキル所持者がいるため、起こした罪をごまかすことなど一切不可能なため、犯罪行為がほぼ行われないためである。確実に捕まるのに犯罪を犯す人は、どうしてもその必要がある人だけだ。そんな人は滅多にいないため、基本的に人を疑う必要が無い。レティのような例外はあるが、非常に特殊な事情があるからこその例外である。


 だが、シェリーは初めから尾行を疑っていた。それ以外にも、シェリーが門の外(オーダルー)で暮らしていては身に着かないだろう警戒心を見せた場面はたくさんある。どこで身に着けるかと言えば答えは一つしかない。門の中(ヘイブンクラウド)である。


「……止める?」

「なんで? シェリーは十歳を超えてる。なら、誰も止める権利はない。止めろとは言われるかもしれないけれど。お兄さんを探してるんでしょ?」

「それもあるけど、あっちの方が金払いがいいんだよね」

「ああなるほど」


 門の外(オーダルー)と違って、門の中(ヘイブンクラウド)では修復スキル持ちの人に依頼したい場合の窓口が一元化されていないのだろう。それで、子どものシェリーでも仕事を見つけることができて設けられるのだとミリアは考えた。

 だが、それ以上の情報がシェリーからもたらされる。


「どうも、今向こうには修復スキル持ちがいないみたい。需要を全部独占できるから、すごく楽」


 国中で数人のスキルである。そういう事態は頻繁に起こり得る。


「そして、最低価格を保証してくれる組織もいる。この金額以下の依頼しかない時は、こちらの指定するものを修復して欲しいという依頼があってね、そのおかげで最低金額が決まっててすごく商売しやすくなった」

「それが、今回の尾行脅迫を起こした組織?」

「そう。あれは、こっちに私がいる時に連絡を取るための人たち。もともと門の外(オーダルー)出身で、ちょっと門の中(ヘイブンクラウド)に遊びに行ったときにスカウトされて門の外(オーダルー)での情報収集やこっちにいる人との連絡役を行っているらしいの。で、今回のことは私を説得できた際の報酬に目が眩んだ独断専行っぽい」


 上客だから罪を軽くしてほしいと言っていたが、真意はこちらだったようだ。伝達役がいなくなればシェリーの仕事にも差し支える。その組織との関係悪化を望まないのであれば、できる限り穏便にすませたいのは当然だ。


「それで、その金額が指定されている修復依頼は、いったい何の修復なの?」


 シェリーが惜しいと思うのだから、それなりの値段を対価として払っているだろう。つまり、修復でそれだけかかってもコストとして受け入れられるものだ。ミリアには、さっぱり想像がつかない。

 ミリアはシェリーがどう説明しようか迷っている様子を眺めながら、シェリーからの答えが与えられるのを待つことにした。

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